一定の声量とリズムで流れるお経は、心が無になり、リラックスできるとひそかなブーム。おやすみ前やウォーキング中に般若心経を聴く人も多いのだとか。今回は、般若心経の読経が148万回再生され、お坊さんYouTuberとして人気の須磨寺の僧侶・小池陽人さんに、ネガティブな感情をリセットできる般若心経の考え方を教えてもらいました。

ネガティブな感情をリセットできる!般若心経の考え方

般若心経において大切なキーワード「空(くう)」。どのような概念なのでしょうか?

●人と比べて落ち込んでしまうときには

「人と比べて、どうして私はこんなこともできないのだろうと、自分を無価値に感じてしまうことはありませんか。奈良の薬師寺の高僧・高田好胤(たかだ こういん)先生は『空(くう)』を『偏らない心、こだわらない心、とらわれない心』と説きました。

人と比較して落ち込んでしまうときこそ、その3つの心を持つべき瞬間ではないかと思います。『自分はこうでなくちゃいけない』と理想に押し潰されそうになったら、立ち止まって考えてみてください。あなたの本当の価値は、人と比べて決まるものでしょうか。『空』とは自分の物差しを疑い、自分にとって本当に大事なものを見つける旅でもあるのです」(小池さん)

●自分の持っている価値観や物差しをとことん否定してみる

「般若心経では途中、『無』という否定の言葉が続きます。そこで、私たちもそれにならって、今自分の持っている価値観や物差しをとことん否定してみましょう。大事だと思っているものは、本当に大事ですか。きらいだと思っているものも、本当にきらいですか。あなたが気にしているこだわりや、頭を占拠する悩みも一度否定してみます。

そうすることで、周りからの評価や言葉に惑わされず、ただ生きていることの素晴らしさ、命の尊さに気づくはずです。よく、『空』を説く般若心経は虚無思想だと捉えられるのですが、そうではなく、命の真の価値を説いたお経なのです」(小池さん)

●自分の思い込みを否定すれば、ネガティブな感情がリセットされる

「空」の心で自分の思い込みを否定してみることで、ネガティブな感情がリセットされるんですね。

「仏教で大切なのは、『空』とはなにかと考えることではなく、写経や読経などの手足を動かす修行です。たとえば、小さなことでイライラしたときに、イスに座って思いつめていると、どんどん負の感情が大きくなった経験はありませんか。

そういうときは、イスから立ち上がり、掃除をしてみましょう。すると、自然と気持ちも晴れやかになるもの。移り変わりの激しい感情を頭の中でコントロールしようとするのではなく、家事や仕事、趣味や散歩などの行動を通して自分の感情を整える。そのように、ひとつひとつの行動を積み重ねていくと、『生きている』ということ自体に自分の人生の価値を見いだせるはずです」(小池さん)

写経は、「書く」というひとつの行為に集中することで、ほかの感覚をシャットダウンする修行。心を無にし、目の前の行為に全神経を注ぐと、リラックス効果やストレスの軽減を図ることができるんだそう。