「犬」と家族の日々をつづる「inubot回覧板」を連載中の写真家・北田瑞絵さん。北田さんにとってinubotで紹介している犬は、暮らしの中に光を灯してくれるような存在で日々たくさんの歓びを与えてくれますが、同時に犬にまつわる悩みや心配事も生じます。この「まほろば写真館」では、動物とともに生きている方からお話を聞いて、動物との日常の中で大切にしている想いを教えていただきます。

シロイルカとともに過ごす。飼育員・加登岡さんの日常

第2回目は、横浜・八景島シーパラダイスの飼育員・加登岡愛実さんにお話を伺いました。

加登岡さんは飼育員歴10年目。横浜・八景島シーパラダイスでシロイルカをはじめとした海の生きものとふれあうことができる、“ふれあいラグーン”の担当になって7年目で、現在鯨類チームを引っ張るリーダーです。

●賢く、人懐っこいシロイルカ

このとき私はシロイルカのパララとプルルのプール前で加登岡さんの到着を待っていた。

私たちの目の前でそれぞれ自由に過ごしていたパララとプルルだが、驚くことに、加登岡さんがやってきたらすぐさま水槽の淵まで泳いでやってきたのだ。

あまりの衝撃な出来事に、「加登岡さんが来た途端、そばに寄ってくるんですね」と私が言うと、加登岡さんは「ごはんを持ってるからですよ」と笑って謙遜した。しかし、それだけではないような雰囲気を感じた。

シロイルカはボール遊びもでき、ボールを口にくわえてそのまま前に向かって投げられるのだ! これはシロイルカの首がやわらかく可動域が広いからできるのだとか。

「ここで動物の生態を伝えたいというのもあって、プログラムやショーではなるべく、その動物の特性を生かし、野生下の行動を汲んで考えています。お客さまに“あぁおもしろかった!”と思ってもらいながら、それだけでなく“こういう生態だからこういうことができるんだ”と知ってもらいたい。だから説明を交えながらパフォーマンスをしています」

パララが投げたボールはキレイな弧を描いて、加登岡さんのもとに返ってきた。

またこんな行動も取っていた。

自らくわえたボールを真上に投げてキャッチをする、そしたらまた真上に投げるというのを繰り返していた。ずっとひとりでキャッチボールをしている。これは、誰が教えたのではなく、なんと自発的に始めたそうだ。

犬と暮らしていても「え、そんな遊び方知ってたの!?」とか「クッションの使い方知っていたの!?」と驚かされることがある。まさかシロイルカと犬に共通するものがあるなんて知らなかった!

●種類や特性に合わせたコミュニケーションを

イルカは動物のなかでも知性的な印象がある。それは、真偽はわからないが、イルカが人を助けた話が昔からあったりするからではないだろうか…。そこで、実際のイルカと日常的にふれあっている加登岡さんに「イルカってどんな性格だと思いますか?」と聞いてみた。

「見た目もですが、性格もみんな違うんですよね。明らかに気が強いイルカもいたり、マイペースな子や甘えん坊でさわってもらうのが大好きなイルカもいます。人に触られるのが好きな子もいれば、ほかのイルカと遊んでいるのが好きなイルカもいて、個体差はありますね」

「だから、個体ごとによっての特徴や性格を理解したうえで給餌させてもらい、イルカに失礼にならないようにと思っています。得意不得意もあるので、個体によっても、イルカの種類によっても変わってくるので、特性に合わせてもいます」

加登岡さんは、その個体や性格に合わせてコミュニケーションの取り方を変えているだけではなく、さらにその先のことも考えて接している。

「実際に会話はできないのでどう思っているかわからないのですが…でも自発的におもちゃで遊んでいる姿を見ると楽しかったり興味があると思うので、じゃあ新しいおもちゃをつくってプレゼントしようとか次の行動につなげています」

●過ごす時間が長いからこそのかわいいポイント

シロイルカのパララとプルルがボールで遊んだり、撫でられる姿はとても新鮮な姿だった。しかし、自分にとっては新鮮な姿だが、加登岡さんにとっては日常的な姿だと思うと、かわいいと思うところは違ったりするのだろうか。

「普段じゃれあってくるところも好きです。おもちゃをあげたら夢中になって遊んでいる姿も見ていて楽しいです。なんでも興味が湧いて、好奇心旺盛なところがかわいいですね。また、トレーニングをしていて自分が求めている行動をイルカが取ってくれると、理解してくれたんだと感じます。私もイルカと通じ合っていると信じたいですね。そう思いながら一緒にいます」

加登岡さんの話を聞いて、どんなにイルカが賢くとも、やはり信頼関係がないとコミュニケーションは成り立たないと感じた。

「それでもやはりうまく伝わらないときもあって…。でもそれは彼らのせいではないですし、内省して改善できるように考えています」

●動物たちの意外な姿に思わずにんまり

加登岡さんからはこんなエピソードもこぼれた。

「イルカがいるプールの下に砂を敷いてるんですよ。そこでバンドウイルカの中で、少し天然な性格だなぁと思っているループというイルカがいるんですけど、ループがおびれを下に向けて、砂につけるんです。なにをするのかなと見てたら、器用におびれに少しずつ砂を乗せてるんです。誰に教わるわけでもないのに、なんとなくその行為が楽しくてやっていると思うとかわいいですね」

自分の行動に対して動物が反応してくれる姿もかわいいが、動物自ら何かを発見したり遊んでいる姿って無性にかわいい。加登岡さんも、それは感じるそうだ。

「シロイルカだと、ふれあいラグーンは屋外なのでたまにカモメが飛んでくるんですけど水面から顔をだして見てるんですよ。あとは背中にカモメが乗っていてもそのままにしていたりとか…。そういったイルカとカモメなどの生きもの同士の交流にも癒されます。日々どんどん愛情は膨らんでいってしまいますね」

いつもそばにいるからこそ気づける姿、くだけた表情というのはたくさんあるのだろう。それほど動物と身も心も近い距離にいる加登岡さん。いろんな出来事があるなかで、当然落ち込んでしまう日もある。けれどそんなときも動物によって癒されることがある。

「カワウソは人懐っこくて好奇心も旺盛なので、自分がなんにもごはんを持っていない状態でも手をさわりにきてくれたりするんですよね。そういう何気ないコミュニケーションに癒されますね」

お話を聞く前にカワウソの餌やり体験をしていた。私が手のひらに乗せたごはんをカワウソが取ってくれたのだが、幸せホルモンと呼ばれるオキシトシンがブワッと溢れるのがわかった。

そして横浜・八景島シーパラダイスは動物とふれあえるプログラムがたくさんあって、シロイルカともふれあえるのでぜひ足を運んでいただきたい。

この日、私は生まれて初めてシロイルカにふれた。ツルツルとした皮膚は気持ちよくて、いつまでもさわっていたいような、だけどあまりに美しく真白いボディはなんだか神秘的な存在に感じられてふれているのが恐れ多くもなった。胸が締めつけられるような、愛おしさが募っていく。ヒーリング効果は必ずあると思う。

●出会いがある分、避けられない別れもある

「動物が亡くなったときはもう涙を流すほど辛く、落ち込みます。でもこの死を無駄にしてはいけないなと思って、飼育員と獣医師とで至るまでの原因を探し、対策を考え、今生きている動物が健康に長生きしてくれるように考えを向けています」

「子どもが誕生したときの感動が忘れられなかったり、プログラムを通してお客さまに喜んでいただけるとやってよかったと思える。喜びがあるから続けていられます」

そう語ってくれた加登岡さんの力強い瞳はとても印象的だった。そして、これからの目標についてこう語ってくれたのだ。

「動物がこの環境下でいちばん幸せに暮らしてもらうにはどうしたらいいか考え、そのなかには繁殖が含まれる場合もあるのかと。そこで、横浜・八景島シーパラダイスでも、ブリーディングローンという、いろんな水族館と連携を取っていて、動物をほかの園館に移動させるなど、繁殖に力を入れています。自分たちの水族館だけだと、生きものの血がどんどん濃くなっていってしまうので、水族館同士で協力しあって防ぎます」

加登岡さんとお話しさせていただいて、「つないでいくことを大切にされている」という印象を受けた。イルカがおもちゃで遊んでたら次の行動につなげ、命から命につなげ…さらに、人間同士のつながりも大切にされている。

動物がよりよく生きていられる暮らしについて真剣に取り組んでいらっしゃる、強い責任感と深い優しさのある方だ。

やはりあのときパララとプルルが加登岡さんのもとに泳いできたのは、ごはんのためだけではないように思えるのだ。私はあのときパララとプルルに犬の姿が重なって見えた。ただ朝起きてきただけで、しっぽを振って迎えてくれる犬の姿に。