武尊インタビュー 前編

 那須川天心vs.武尊。同じ時代に誕生した立ち技格闘技界の2人の英雄が、6月19日に行なわれる『THE MATCH 2022』のメインイベントで対戦する。K-1の3階級王者である武尊は4月30日に自身のツイッタ―を更新し、決戦に向けてSNSを一時休止することを発表。取材に応じでくれたのはその前日だった。

 この日はリモートによる取材だったが、画面が繋がった時に映ったのは、ビルドアップされた上半身と、直前までの練習でまだ息を弾ませる武尊の姿。「ちょっとすみません」と申し訳なさそうな笑顔をこちらへ向け、着替えを済ませた。そうして大一番に向けた胸の内を聞き始めると、武尊の表情は一気に引き締まったものになった。


昨年の12月24日、対戦決定の記者会見を行なった那須川天心(左)と武尊

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井上尚弥らボクサーたちと練習

――武尊選手のSNSを見ると、かなり追い込んだ練習をしていてすでに仕上がっているようにも見えます。

「今回の試合は自分の中でも大きな試合なので、気合いが入ってます。練習はすごく充実していますが、減量はまだまだって感じですね」

――今年2月のエキシビジョンマッチ(軍司泰斗と2分2R、14オンスのグローブ)で感じた手応え、課題はありますか?

「エキシビジョンなので、試合と同じ動きはあまりしてないですけど、コンディション作りで課題がたくさん見えました。あの時は58kgまで落ちずに59kgくらいだったので、今回はこれから58kgに合わせていく感じです(那須川戦は前日計量が58kgで当日が62kg)。リカバリーの62kgに合わせて戻す水分の量なども試したんですけど、水分を抜けば抜くほど戻すのがキツくなるので、体ごと小さくして水分を抜く量を減らさないといけないなと思います」

――井上尚弥選手、亀田和毅選手、和気慎吾選手、元K-1 の武居由樹選手ら、ボクサーとの練習に力を入れているようですね。

「天心選手はボクシング寄りのスタイルなので、その対策でボクサーの方たちと練習しています。ボクシングは格闘技の中でも完成された競技のひとつだと思っていますが、"この場合はこうする"というマニュアルがしっかりしているので勉強になりますね」

――昨年、武尊選手は個人のジムを開設されました。現在の練習は主にそちらで行なっているんですか?

「そうですね。他の仕事もちょこちょこあるんですが、その合間でも練習できますし、昼夜問わず自分の好きなタイミングで練習ができるのは大きいです」

試合実現までの誹謗中傷

『龍虎相討つ!』――。マンガ『ドラゴンボ―ル』16巻の表紙タイトルだ。その言葉は、天下一武道会の決勝戦、宿命のライバルである悟空とピッコロによる白熱のバトルが収められた巻にふさわしい。龍vs虎、最強vs最強。それが現実世界で行なわれようとしている。武尊にとって、那須川天心はどんな存在なのか。

――那須川選手のファイトスタイルは、武尊選手から見ていかがですか?

「完成されたスタイルだと思いますね。スピードと技術を兼ね備えて、戦い方がうまい印象です」

――2015年の大晦日、那須川選手から対戦要求があってから丸6年。その間、武尊選手もさまざまな感情があったと思います。

「対戦要求をされたあと、ずっと『天心のほうが武尊より強いんじゃないか』と言われるのが本当に悔しかったし、1日でも早く対戦したかった。なかなか実現できない間は批判されることも多くて、さんざん誹謗中傷されてキツい部分もありました。

 ただ、それをモチベ―ションに頑張れた部分もあります。『絶対に見返してやる』と試合の実現に向けて動いてきたし、勝つために練習も試合もしてきました。それがあったから今の自分がある。厳しい声にも感謝できるようになりました」

――念願の試合が決まった瞬間は、どんな気持ちでしたか?

「ホッとしたというか、『やっと、すべてが報われるチャンスがきた』と思いました。勝たないと報われませんけどね」

――昨年12月24日に行なわれた対戦発表会見での、武尊選手の表情からはすでに殺気を感じました。

「試合が決まった瞬間から倒さないといけない相手として天心選手を見ているので、あの時にはもうスイッチが入ってました。それが表情にも出ていたのかなと思います」

――あらためて、武尊選手にとって那須川選手はどういう存在ですか?

「戦ったあとには、いろんな感情が出てくるでしょうね。でも今は、対戦相手としか思っていません」

――早い時期から、選手や各メディアでもさまざまな試合展開の予想がされています。それは武尊選手の耳にも入ってきますか?

「どうしても入ってきてしまうことはありますが、できるだけ勝敗予想などは見たり聞いたりしないようにしています。自分の考えやものがブレてしまうので、普段からあまり他人の意見を聞かないようにしているんです。

 対戦相手の研究はしますけど、基本は自分の戦いに相手を巻き込んでいくスタイルなので、相手に合わせることはしません。試合は"命のやり取り"。その気持ちで毎回リングに上がっています」

――試合まで張り詰めた時間を過ごすことになりますが、そんな中でもリラックスする瞬間はあるんですか?

「そういうのを作るのは苦手です。気持ちを緩ませたくないので、リラックスする時間を作らないようにしてます。でも、ジムの方たちと話したりするのはリフレッシュになりますけどね。SNSも、最近は試合が近づいてきても練習との合間にうまくできるようになってきたんですが、今回は大勝負なので、そういったことをシャットアウトしてやろうと思います」

(後編:「総合でも結果を残せたら、K-1 の強さを証明できる」>>)

【プロフィール】
■武尊(たける)
1991年7月29日生まれ、鳥取県出身。2011年9月24日、「Krush.12」でプロデビュー。2015年4月に初代K-1スーパー・バンタム級王座決定トーナメント、2016年11月に初代K-1フェザー級王座決定トーナメントを制して2階級制覇を達成。2018年3月の「K'FESTA.1」では第4代K-1スーパー・フェザー級王座決定トーナメントで優勝し、前人未到・K-1史上初の3階級制覇を成し遂げる。2021年12月、2022年6月に中立のリングで那須川天心と対戦することを発表した。プロ戦績41戦40勝(24KO)1敗