相続する遺産の資産額に対して支払う義務が生じる相続税ですが、生前贈与を上手に活用すれば、高い節税効果を得られる可能性があります。この記事では、生前贈与の仕組みや生前贈与が相続税対策になる理由、相続税対策として活用する方法などについて詳しく解説していきます。

生前贈与とは

生前贈与とは、生きている人が自身の財産を他の個人へ無償で贈ることです。両親や祖父母が生きているうちに、自身の子どもや孫へ資産を贈与する場合などが生前贈与にあたります。相続は、被相続人(両親や祖父母)が亡くなった際に資産を引き継ぐのに対し、生前贈与は贈与する側が生きているうちに行うという点が特徴です。

また、相続に対しては相続税がかかりますが、生前贈与は贈与する資産額に応じて贈与税が課されます。生前贈与の代表的な課税方式としては「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つがあります。

生前贈与のメリットとは?

それでは、生前贈与にどのようなメリットがあるのか解説していきましょう。

生前贈与の一つ目のメリットは、自分の意志で資産を受け継いで欲しい人へ自由に贈与できること。相続の場合は、民法で相続できる人や割合が決められています。遺言書を活用し、相続させる人を指定することはできますが、法律的要件を満たさないなどの理由で、遺言書が無効になる場合もあります。生前贈与のほうが、より被相続人の意思を反映させやすいと考えられます。

二つ目のメリットが、相続税対策になることです。後ほど詳しく解説しますが、「暦年課税」では年間110万円の基礎控除が設けられています。つまり、1年間に贈与を受けた金額が110万円以下であれば、贈与税が課されないのです。毎年110万円以内に収まるよう、分割して生前贈与すれば節税になります。

加えて、相続税は近年増税傾向にあります。一方の贈与税は、新たな非課税制度が設けられたり、非課税制度の期間延長が決まったりするなど、逆に減税傾向にある点も注目です。

生前贈与に活用したい非課税制度とは?

先ほども少し触れたとおり、贈与税には生前贈与に活用したい非課税制度が設けられています。この非課税制度について、詳しく解説していきましょう。

住宅取得等資金の贈与を受ける場合に活用できる非課税制度

父母や祖父母といった直系尊属からの贈与によって、子や孫が自ら住むための住宅を新築・取得・増改築する資金を取得した場合、一定の要件を満たせば限度額までの範囲内で贈与税が非課税となります。

2021年12月に公表された「令和4年度 税制改正大綱」で本制度の改正が示され、2021年12月31日までとされていた適用期限が2年延長となり、2023年12月31日まで適用されることとなりました。以前は住宅取得に係る契約締結日に応じた要件が定められていましたが、令和4年度の税制改正で撤廃。下表のとおり、取得時期に関係なく一定の非課税限度額設定となりました。

出典:国税庁「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」
出典:財務省「令和4年度税制改正の大綱」

また、贈与を受ける子・孫が従来20歳以上であることが要件とされてきましたが、成人年齢の引き下げに伴い「18歳以上」へと適用年齢が引き下げられました。ほかにも所得要件などが設けられているので、制度活用を検討する際にはあらかじめ確認しておきましょう。

教育資金の一括贈与を受ける場合に活用できる非課税制度

30歳未満の孫などが祖父母などの直系尊属から教育資金の一括贈与を受ける場合、1,500万円までの範囲内であれば贈与税が非課税になるという制度があります。教育資金といっても内容は多岐にわたり、入学金・授業料・学用品購入費用・給食費など学校生活に必要となる資金のほか、学習塾や水泳教室といった習い事に関する費用も対象となります。

そもそも、子や孫などが自身の生活費や教育費にあてるため、その都度、両親や祖父母などの扶養義務者から必要資金の贈与を受ける「都度贈与」は非課税です。しかし、高齢の祖父母から孫やひ孫への教育資金援助は都度贈与が難しいこともあるため、一括贈与の非課税制度による高い節税効果が期待できます。ただし、先ほど紹介したような教育費としての用途以外に使えない、30歳までに使い切れないと残額に対して課税される、手続きが面倒などのデメリットもあります。

そのほか、直系尊属から子・孫への結婚資金や子育て資金贈与に適用できる非課税制度もありますが、いずれも都度贈与はもともと非課税です。

参照:国税庁:「No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」

夫婦の間で居住用の不動産を贈与する場合の配偶者控除

婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産や居住用不動産を取得するための費用を贈与する場合、贈与税の基礎控除(年間110万円)に加えて、最高2,000万円の配偶者控除が受けられるという制度もあります。この制度は通称「おしどり贈与」とも呼ばれます。

ただ配偶者については、相続税においても1億6,000万円(または法定相続分の範囲内)の配偶者控除が適用可能です。そのため夫婦間であれば、多くの場合相続税は非課税と考えられます。よって、おしどり贈与は相続税対策というよりも、贈与者に何か不測の事態があっても配偶者が不自由なく暮らしていくための、生活保障的な意味合いが強い制度といえるでしょう。

相続税対策が必要なら必ず比較検討したい2つの手法

2015年(平成27年)の税制改正において相続税の基礎控除額が4割(改正前:5,000万円+1,000万円×法定相続人の数→改正後:3,000万円+600万円×法定相続人の数)引き下げられたことにより、相続税の納税対象者が大幅に増えました。この影響もあり、相続税対策を検討したほうがいい人も増えています。冒頭で記したとおり、相続税の節税目的での生前贈与では「暦年贈与」もしくは「相続時精算課税」のいずれかを行うのが一般的です。ここからは、2つの制度の概要やメリット、注意点、どのような人におすすめなのかについて解説します。

暦年贈与とは?

暦年贈与とは、一人が1年間(1月1日~12月31日)に贈与された財産のうち、合計110万円を超過した部分について贈与税を課す制度のこと。例として、1,000万円の資産を一括贈与する場合と10年間かけて贈与する場合で、税金がどのくらい違うのか見てみましょう。なお、ここでは一般税率を適用して計算します。

 

こうして見ると、長い年月をかけて毎年暦年贈与を行うことで、大きな金額であっても非課税で贈与できる可能性があるといえるでしょう。ただし、暦年贈与を行ううえでは次のような点に注意が必要です。

・毎年同時期に同金額の贈与を続けてはいけない(最初からまとまった金額を贈与するつもりがあったと見なされるため)
・贈与者が亡くなった場合、相続発生前3年以内の贈与に対しては相続税がかかる
・「名義預金」はNGなので、受贈者に口座の存在を知らせ管理してもらう
・贈与契約書や銀行送金などを使って贈与の証拠を残しておく

暦年贈与は、時間をかければ大きな資産でも節税効果が見込めるため、若い人が贈与を行う場合や資産規模が大きい人に適した方法です。また、相続と異なって贈与できる相手が限定されないので、孫などに贈与する場合にもおすすめです。

相続時精算課税制度とは?

60歳以上の両親や祖父母など直系尊属から20歳以上の子や孫に対して贈与する場合、相続時精算課税制度も活用可能です。相続時精算課税は贈与を受ける側(子・孫)が選択でき、合計2,500万円までの贈与であれば非課税となります。ただし、贈与総額が2,500万円を超えた分については20%の贈与税がかかります。

この制度は財産贈与時に非課税となるだけで、最終的には相続財産の一部として相続税が課税されます。基本的には節税効果はないということになりますが、将来的に大きく評価額が上がる可能性の高い資産を贈与する場合などでは、後々の節税効果が期待できます。

一例として、現在の時価が2,500万円の資産を贈与するケースを考えてみましょう。この資産は年々価値が上がっており、10年後には資産評価額が4,000万円にアップするとします。10年後に相続が発生する場合、通常は10年後の評価額である4,000万円に対して相続税が課税されます。一方、相続時精算課税制度を用いれば贈与時は非課税。10年後の相続税についても、贈与時の時価の2,500万円に対して課税されるため、節税ができるというわけです。また、暦年贈与のように時間をかける必要がないのもメリットといえるでしょう。

本制度を使うには、あらかじめ税務署に相続時精算課税選択届出書を提出します。一度選択すると変更できないため、本制度を使って贈与した後で、暦年贈与に戻すことはできない点には、注意が必要です。

以上より、相続時精算課税制度は贈与を急いでいる人、将来的に評価額が値上がりする可能性の高い資産や継続的に収益を生む投資用不動産などの資産を贈与しようとしている人におすすめの制度です。

まとめ

近年は相続税が増税傾向である一方、経済活性化の目的もあり、贈与税については減税傾向にあります。生前贈与で節税効果を狙うのであれば、状況に応じて暦年贈与、相続時精算課税制度のいずれかを選択する必要があります。ほかにも生前贈与で活用できる非課税制度もあるので、あらかじめ比較検討をしっかり行うようにしましょう。