●実はVRAM以外も強化、12GB版RTX 3080の詳細

2022年1月11日、NVIDIAはVRAMを従来の10GBから12GBにアップさせた新たなGPU「GeForce RTX 3080」を発表した。そのGPUを採用するASUSTeK「ROG Strix GeForce RTX 3080 OC Edition 12GB」を試用する機会を得たので、さっそくその性能をチェックしてみたい。

ASUSTeKの「ROG Strix GeForce RTX 3080 OC Edition 12GB」。実売価格195,000円前後


○実はVRAM以外も強化、12GB版RTX 3080の詳細

12GB版RTX 3080は、VRAMの容量だけではなく、CUDAコア数が8,960基と従来の10GB版RTX 3080の8,704基から約3%増えているのも特徴だ。メモリバスも320bitから384bitに拡大している。スペック的にはCUDAコアを10,240基持つRTX 3080 Tiと10GB版RTX 3080の中間と言ってよいだろう。それぞれのスペックを下の表にまとめたのでチェックしてほしい。なお、12GB版RTX 3080はEthereumのハッシュレートを制限したLHR仕様だ。

ROG Strix GeForce RTX 3080 OC Edition 12GBは、12GB版RTX 3080を採用するビデオカードだ。“ROG Strix”は、ASUSTeKのハイエンドモデルに付けられる名前だけあり、デフォルトでブーストクロックは1,860MHzまで大きく引き上げられている。さらに、同社アプリの「GPU TweakII」で「OC mode」に切り換えることで、1,890MHzまでブーストクロックを向上可能だ。また、同アプリにはデフォルトの1,860MHzになる「Gaming mode」、1,830MHzまで下がる「Silent mode」も用意されている。

デフォルト状態のGPU-Z。ブーストクロックは1,860MHzのOC仕様で、メモリクロックなどはリファレンスと同様だ


「GPU TweakII」アプリで「OC mode」に切り換えることでブーストクロックを1,890MHzまで向上できる


また、カードの側面にはVBIOSをパフォーマンス重視の「P MODE」と静音性重視の「Q MODE」に切り換えるためのスイッチも搭載されている。デフォルトでは「P MODE」に設定されていた。

カードの側面にはVBIOSを切り換えるスイッチを搭載。標準では「P MODE」に設定されていた


次はハードウェア面を見ていこう。カード長は3連ファンということもあり、31.85cmとかなりの長さだ。厚みも2.9スロット分ある。さらに高さも14.01cmあり、ブラケットから約3.5cmもはみ出すほど。PCケースに組み込む際には、カード長に加えてブラケットからはみ出す部分が側面にぶつからないか確認しておきたい。

3基のファンは、ブレード数がセンターが13枚、両側面が11枚で構成される「Axial-tech」ファンを採用。センターファンのブレード数が多いのは、静圧と高めてGPUヒートスプレッダに直接送風するためだ。さらに、センターファンだけ回転方向を逆にすることで、内部の気流の乱れを軽減し、カード全体の冷却性能を向上させている仕組みも取り入れている。GPU温度が50度以下のときはファンが停止するセミファンレス仕様なのもポイントだ。

カード長は31.85cmあるため、PCケース側の対応も確認しておきたい


厚みは2.9スロット分、高さも14.01cmあり、ブラケットから大きくはみ出しているのが分かる


3基で構成される「Axial-tech」ファンは、外周部がすべて繋がっている


裏面にはカードを補強するバックプレートを搭載。後方部分は表から裏へと風が抜ける構造になっているのが分かる


補助電源は8ピン×3仕様だ。リファレンスが8ピン×2仕様で推奨電源が750Wなので、それ以上の電源ユニットと組み合わせたほうが安心だ。ディスプレイ出力はDisplayPort 1.4a×3、HDMI 2.1×2となっている。このほか、カードの上部にはRGB LEDが内蔵されており、同社アプリの「Armoury Crate」で発光色や発光パターンの制御が可能だ。

補助電源は8ピン×3。ヒートシンクが大きいこともあって、コネクタはやや奥まった場所にある


ディスプレイ出力はDisplayPort 1.4a×3、HDMI 2.1×2


上部にRGB LEDを内蔵。その光りがファンも照らすため、動作時はかなりハデな雰囲気に


「Armoury Crate」アプリで発光パターンや色を調整可能だ


●10GB版RTX 3080を超える実性能、冷却面もテスト

○ほぼすべてのベンチマークで10GB版RTX 3080超えを確認

さて、ここからはベンチマークに移ろう。比較対象として、10GB版の「GeForce RTX 3080 Founders Edition」を用意した。Resizable BARはすべて有効にした状態でテストを行なっている。テスト環境は以下のとおりだ。

まずは定番3Dベンチマークの「3DMark」から見ていこう。このテストに関しては、VBIOSをP MODEにし、GPU TweakIIアプリでOC mode、Gaming mode、Silent modeの各設定で実行している。これ以外のテストはデフォルト状態であるVBIOSをP MODE、GPU TweakIIアプリの設定をGaming modeにして実行した。

グラフ1: 3DMark


OC modeで10GB版RTX 3080に対してFire Strikeは約3.1%スコアアップ、Gaming modeで約2.3%のスコアアップとなった。Silent modeはブーストクロックが低くなることもあった、スコアの上昇はわずかに留まっている。

続いて実ゲームでの性能をチェックしていこう。まずは、軽めのFPSとして「レインボーシックス シージ」から。ゲーム内のベンチマーク機能を利用している。

グラフ2: レインボーシックス シージ


すべての解像度で10GB版RTX 3080を上回るとスペック差を考えると順当な結果と言える。ちなみに、4K解像度でもVRAMの使用料は約8.1GB。12GBのVRAMは活かし切れていない。CUDAコア数やブーストクロックなどの差がスコアに出ていると見てよいだろう。

続いて中量級のゲームとして「レインボーシックス エクストラクション」と「Apex Legends」を試す。レインボーシックス エクストラクションは解像度品質を固定100%にした上で、ゲーム内のベンチマーク機能を実行。Apex Legendsは「+fps_max unlimited」コマンドでfps上限を解除した上で、トレーニングモードで一定コースを移動した際のフレームレートをCapFrameXで測定した。

グラフ3: レインボーシックス エクストラクション


グラフ4: Apex Legends


どちらも順当な結果と言える。Apex LegendsのフルHD解像度のフレームレートが10GB版RTX 3080と変わらないのは、fps上限を解除しても最大300fpsまでしか出ない仕様であるため。どちらのビデオカードでもフルHD解像度ならば最高画質でもフレームレートの上限まで出せるだけの性能があるということだ。レインボーシックス エクストラクションは、レインボーシックス シージに比べるとかなり描画負荷は高くなっているが、それでも4Kかつ最高画質でも平均100fps以上を出せている。

ここからは、レイトレーシングに対応する重めのゲームを試していこう。「Forza Horizon 5」、「サイバーパンク2077」、「ファークライ6」、「ダイイングライト2 ステイ ヒューマン」を用意した。Forza Horizon 5はゲーム内のベンチマーク機能を利用。サイバーパンク2077はマップの一定コースを移動した際のフレームレートをCapFrameXで測定。ファークライ6はゲーム内のベンチマーク機能を利用。ダイイングライト2 ステイ ヒューマンはバザール周辺の一定コースを移動した際のフレームレートをCapFrameXで測定している。

グラフ5: Forza Horizon 5


グラフ6: サイバーパンク2077


グラフ7: ファークライ6


グラフ8: ダイイングライト2 ステイ ヒューマン


どのゲームも順当に12GB版RTX 3080のほうがフレームレートが上回っている。注目はファークライ6の4K解像度だろう。高解像度テクスチャを使用した場合、10GB版RTX 3080ではVRAM不足警告が表示され、平均フレームレートは快適なプレイの目安である60fpsを下回ってしまう。その一方で12GB版RTX 3080はVRAM不足は発生せず、平均68fpsとほかの解像度に比べて大きな差が出た。ダイイングライト2 ステイ ヒューマンも4K解像度ではVRAM使用量は約10.8GBと10GBを超えた。フレームレートの差はそれほどないが、重量級ゲームの高解像度設定では、VRAMが10GBで足りないことがあるということだ。今後はもっと12GB版RTX 3080が有利になるゲームが登場するかもしれない。

○高OC動作でもしっかり冷える強力クーラー

ゲームプレイ時のGPUクロックと温度の推移をチェックしていこう。サダイイングライト2 ステイ ヒューマンを10分間プレイしたときのGPUクロックと温度をモニタリングアプリの「HWiNFO64」で測定した。VBIOSと動作モードはベンチマークと同じく、「P MODE」と「Gaming mode」だ。

グラフ9: GPUクロックと温度の推移


さすが2.9スロット厚の大型クーラーと言える結果だ。GPU温度が上がるとクロックは若干下がるが、それでもおおむね1,845MHz〜1,860MHzで動作とGaming modeのブーストクロックどおりの挙動を見せた。それでいてGPU温度はほぼ68℃前後で安定。これなら長時間のゲームプレイでもまったく不安のない温度と言える。

最後に消費電力をチェックする。ラトックシステムの「REX-BTWATTCH1」を使用してシステム全体の消費電力を測定。OS起動10分後をアイドル時、3DMark−Time Spyデモモード実行時の最大値を3DMark時とした。

グラフ10: 消費電力


補助電源8ピン×3という仕様の高OCモデルだけあり、3DMark時で10GB版のGeForce RTX 3080 Founders Editionを3DMark時は44Wも上回った。余裕を見るなら、850W以上の電源ユニットと組み合わせて使いたいところだ。

○ハイエンドGPUの新たな選択肢だが問題も

4K&高画質設定でVRAMが10GBでは足りなくなるゲームが登場している以上、VRAMを12GB搭載するRTX 3080の登場は喜ばしいことだ。ただ、GPUは半導体不足などさまざまな要因で、2021年からずっと価格が高いまま。この状況が変わる見込みがない以上、受け入れるしかないが、ROG Strix GeForce RTX 3080 OC Edition 12GBの実売価格は195,000円前後となかなかの高さだ。12GB版RTX 3080は多くが20万円前後なので、これが特別高いわけではないが、問題はRTX 3080 Tiと価格差がほとんどないこと。

GPUのグレードごとにもう少し価格差がはっきりしてくれないと、ユーザー側は選択に困ってしまうだろう。12GB版RTX 3080は性能面では文句なしに魅力的だが、脚光を浴びるにはもう少しGPUの価格が落ち着く必要があるのではないだろうか。