穀物加工工場を視察した金正恩氏(2016年6月16日付労働新聞)

写真拡大

深刻化する北朝鮮の少子化。それを示す国勢調査の数字は極秘とされ、公開されていないため、具体的にどれほど深刻なのかはわからない。

いずれにせよ深刻なことに変わりはない。米政府系のラジオ・フリー・アジアの報道によれば、金正恩総書記は避妊と妊娠中絶を禁止する命令を出したほどだ。

少子化の理由のひとつとして指摘されているのは、育児をするほど国民に経済的余裕がないということだが、これに対して金正恩氏は昨年9月の最高人民会議第14期第5回会議で行った施政演説で、次のような対策を打ち出している。

「党の新しい育児政策を実行するための活動を実質的に展開して全国的な乳生産量を現在の3倍以上に増やし、乳加工技術を発展させ、乳製品の質を徹底的に保障する」

そんな政策に大きな壁が立ちはだかっている。横流しだ。詳しくを両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

(参考記事:響き渡った女子中学生の悲鳴…北朝鮮「闇病院」での出来事

朝鮮労働党両江道委員会(道党)は先月27日、恵山(ヘサン)市内の党と行政組織の幹部を朝鮮労働党恵山市委員会(市党)の会議室に呼び集め、党の育児政策貫徹において現れた傾向を示し、対策について議論した。

道党は、結婚した若者が子どもを生もうとしない問題と、生んでも育児をできない問題、子どもたちが栄養失調にかかっている問題などについて言及し、道民の育児の負担を減らすために、政策の問題を適時討論し対策を提示して解決しなければならないが、現実はそれができていないと指摘した。

また道党は、市や郡の牧場、乳製品加工工場がフル稼働できるように、道をあげて電気と原材料を支援する努力はしているが、先月中旬、恵山市内の子を持つ家庭に乳製品を配給せよという党の政策が達成できかったとし、さらに万全を期すと明らかにした。

そして道党が大きく問題視し激しい批判を加えたのは、子どもに配給されるべき乳製品を、イルクン(幹部)が横流ししていた件だ。この問題を巡っては、市党の勤労団体部のイルクンが昨年9月から先月にかけて、工場で生産された乳製品を横流しし、そのことを知った市民が、証人の確認証明まで取り付けた上で、道党に信訴(告発)していた。

道党はこの件を厳しく批判し、勤労団体部を集中検討の対象とするとした。勤労団体部のイルクン2人は会議室の壇上に立たされ、公開思想闘争(吊し上げ)を行った。その後、2人は恵山市安全部(警察署)に逮捕された。

不正行為の摘発に対して、恵山市民の反応は冷淡だ。横流しした工場のイルクンも、それを受け取った市党イルクンも同じ穴のムジナなのに、片方しか処罰を行わなかったという指摘だ。

横流しは北朝鮮の抱える病弊の一つで、広範に行われている。今回、氷山の一角を削り取ることには成功したが、氷山本体は手がつけられないほど巨大なものだ。