お金持ちは、モテる。ゆえに、クセが強いのもまた事実である。

そして、極上のお金持ちは世襲が多く、一般家庭では考えられないことが“常識”となっている。

“御曹司”と呼ばれる彼らは、結果として、普通では考えられない価値観を持っているのだ。

これは、お金持ちの子息たちの、知られざる恋愛の本音に迫ったストーリー。

▶前回:お年玉は“3桁万”が普通!?27歳女が違和感を覚えた、おぼっちゃまとの実家の差とは?




香奈枝(32)「どれだけ素敵な人でもマザコンは無理」


「はぁ…」

起きてすぐに、最近買ったパラマウントベッドの角度をフラットにしてベットメイキングをする。

そして、重い気持ちを引きずりながら、リビングへと向かう。

― 予定がないって、むなしい…。

それでも、さほど仲良くない人と会って消耗するくらいなら…と思い、ここ1ヶ月くらい、日曜日は午前中ヨガに行き、午後は自宅で仕事をしている。

デートをする相手が、いなくなってしまったのはつい先日のこと。ものすごく素敵だと思っていた男が、とんだ見当違いだったのだ。

その男は幸弘さんという取引先の社長だ。高身長で、小顔かつ塩顔のイケメン。

仕事はもちろんできるし、大きな会社の創業者の孫であり、御曹司の類だ。お互いに20代の頃から、仕事での付き合いがある。

― この人を夫にできたら、どんなにいいだろう…。

幸弘さんが離婚したと聞いた時から、私はそう強く思っていた。

それなのに…幸弘さんはなんと“マザコン男”だったのだ。


マザコン男との出会いは、遡ること5年前…


幸弘さんとの出会いは、5年前。

彼が勤めていたメガバンクを退職し、家業を継ぐタイミングで知り合ったのだ。

私はそのとき幸弘さんの会社のプロモーションの担当をしていた。

「初めまして、川田幸弘です」




― 素敵な人だなあ…。

定例ミーティングに颯爽と現れた幸弘さんは、高そうなストライプのスーツを着ていた。白いシャツを中に着込み、素敵に着こなしている彼を一目で“いいな”と思ったのだ。

しかし…彼の左手の薬指には、美しい指輪がきちんとはめられていた。

― 既婚者…そうよね。

あくまで仕事での関わり合いと自分に言い聞かせたが、幸弘さんと会える日は普段よりオシャレに気を使った。

そして、担当したプロモーションは大成功。それから数ヶ月に1回、幸弘さんの部下も含めて飲みに行く関係がずっと続いていたのだ。



3ヶ月前。幸弘さんと“あくまで親しい取引先の人”から関係が変わる出来事があった。

その日は、ザーザー降りの大雨で、季節は秋なのに冬のような寒さだった。私は幸弘さんの会社で、定例ミーティングをしていたのだ。

無事にミーティングが終わり、会社を後にして自宅へ帰ろうとすると、人身事故で電車が止まってしまっていた。

― 困ったな…カフェで時間でも潰すしかないな。

そう思いカフェに入ろうとした直前に、幸弘さんから着信があったのだ。

「香奈枝さん、今電車が止まっているみたいですが…よかったら送りますよ!変な意味じゃなくて…」

私は嬉しかった。それに、迎えに来てくれた幸弘さんの愛車は、マクラーレンだったのだ。

「かっこいいですね!車」

「ありがとうございます。新車を披露したくて、迎えにきてしまいました」

笑顔で話す幸弘さんは、口数は少ないがいつもと変わらず素敵だった。そのとき、幸弘さんの左手の薬指に指輪がないことに、私は気がついてしまったのだ。

― これはチャンス…!もしかしたら、お付き合いができるかもしれない。

幸弘さんは、私の自宅の最寄りの赤坂駅まで送ってくれた。私はワクワクとした期待を胸に、駅から自宅まで歩いた。

そして、自宅に着きiPhoneを見ると、タイミング良く幸弘さんから2人で食事の誘いがきていたのだ。

― これは…脈ありよね。

しかし、その食事で衝撃的なものを見ることになるのだった。


2人きりの食事で見てしまった、幸弘のとんでもないものとは…?


約束の食事の日。私は気合を入れて髪の毛を巻き、お気に入りのPRADAの黒のワンピースを着た。

「そういえば…LINEの交換、してもらってもいいですか」

マクラーレンで迎えに来てくれた幸弘さんは、Valentinoのニットを着ていた。車に乗ってすぐに、LINEの交換を促してくれたのだ。

― やった…個人の連絡先もゲット!

幸弘さんと付き合いたかった私としては、断る理由などなく、すぐに交換した。

すると、幸弘さんのLINEのアイコンは、なんと…母親とのツーショットだったのだ。

― え…。

私が助手席で固まったことに、気がついたのだろう。

「あ、それいい写真でしょ?」

幸弘さんは、満面の笑顔でそう言ったのだ。

「はあ…」

― 待って…ありえない…。

私は、気のない返事を返すだけで、精いっぱいだった。いい歳の大人が、母親とのツーショットをアイコンにするなんて、気持ちが良いものではない。

そんな人は滅多にいないということに、本人は気がつかないのだろうか。

私は愕然とした。マザコンとの恋愛を想像するだけで、ツラい。

到着したレストランの席でも、彼は母親がいつも食べるメニューの話を永遠と話していた…。

もし、幸弘さんと結婚できて夫婦になれたとしても、おそらく彼は私と母親といつも比較するだろう。

それに、私が義母と揉め事でもあったら、確実に私ではなく義母の肩を持つだろう。

― なんとなく、奥様と別れた理由が想像つく…。

どんなに条件の良い御曹司でも、マザコンでは一緒にいることは難しい。

この日の帰り道、私のなかでの幸弘さんは仕事上だけの関係となった。


幸弘(36)「母が嫌いな男は、この世に存在しない」


香奈枝さんと出会ったのは、俺がメガバンクを退職し実家の会社に入ったときだった。

「初めまして、いつもお世話になっております」

座っていた椅子から立ち上がり、俺に挨拶する。そのときの香奈枝さんは、背筋がピンと伸びていて、凛としていた。

それに加え、顔は綺麗に整っていた。俺は思わず見惚れてしまった。

実は、知り合ったときから密かに彼女に思いを寄せていたのだ。

ただ、それを彼女に伝えることはできなかった。彼女と知り合った当時、俺は母の勧めで、すでに結婚していたからだ。

しかし、元妻はとにかくヒステリー気味の性格で、俺はいつも疲れていた。

「あのさ、週末は母がケーキを焼いてくれるみたいだから、実家で過ごすよ」

「ねえ。幸弘はいつもお母さまのことばかり…ちょっとは私のことも気にかけてよ!」




元妻の実家はアパレル業を営んでおり、両親同士が知り合いだった。

半ばお見合いのような形で結婚に至ったからか、家に帰るとケンカばかり。そして、その原因はいつも母のことだった。

― 母親の肩をもって、何が悪いんだろう…。

自分を産んでくれた人がこの世で一番大切だという価値観は、当たり前ではないか。

特に、俺の母は一人暮らしをした時も、毎週手作りのおかずを持ってきて、部屋を綺麗にしてくれた。

学生時代は、母が俺のお弁当をお手伝いさんに作らせたことなど、一度もない。

こうした価値観が、元妻とは合わずに離婚に至った。

そして、前から素敵だと思っていた、香奈枝さんを落とそうと決めたのだ。

雨が降ってくれたおかげで車も見せることができた。おそらく俺の印象はあのときにグッと良くなったはずだ。

それに、食事の約束もすることができた。トントン拍子で香奈枝さんとの距離が近づいて行ったのだ。

それなのに…LINEを交換したときから、香奈枝さんの様子が変わった。助手席をふと見ると、美しい彼女の大きな目は見開き、眉毛が上にあがっていた。

おそらく、俺のLINEのアイコンがあまりに素敵すぎて困惑したのだろう。

LINEのアイコンは、俺と母のツーショット写真だ。

いちょう並木が綺麗な黄色に色づいたとき、母と並んで歩く姿を父が撮影してくれたのだ。

― こんなに驚くほど、素敵だと思ってくれるなんて…!

俺は、やはり香奈枝さんをデートに誘ってよかったと心から思ったのだった。

食事の後、帰宅してからは、仕事以外のやりとりで返事は来ないけれど…。

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