次世代Android SoCの覇者を狙う。TSMC N4製造のDimensity 9000をMediaTekが発表
スマートフォンやスマートテレビなどのSoCを手がける台湾Mediatekが、スマートフォン用の最上位SoCとなる『Dimensity 9000』の情報を公式サイトで公開しました。事実上の製品発表となります。
Dimensity 9000の技術的特徴は、世界初を謳うTSMCの4nm級製造プロセスで設計された半導体である点。これにより同社は「(機能と性能が)最も優れ、電力効率にも秀でた半導体チップ」とアピールします(このフレーズ自体は、昨今の上位SoCでは定番となりつつありますが)。
4nm級(英文では“4nm-Class”)との表現が気になるところですが、これはTSMC側が呼ぶところの『N4』製造プロセスによるものと明示されています。
このN4は、次世代iPhone向けのApple A15(仮)で使われると噂の『N5P』(改良版5nmプロセス)に比べても、製造世代としては進んだものです(ただし昨今の半導体製造プロセスでは、製造プロセス世代が進んでも、実際のチップでの性能と直結しない場合がある点には留意が必要です)。
また昨今の半導体製造プロセスの数値表現は、本来の意味であった「回路の小ささ(最小線幅)を示す数値」という意味合いを離れて、実質的には“半導体製造企業内での世代を示す”だけのものとなっていますが、今回の4nm-Classという表現に関しては、そのあたりの事情もありそうです。
さて、Dimensity 9000の大まかな性能に関しては、現行モデル(“Android用フラッグシップ”とされていますが、詳細は不明)と比べると、
CPU部……性能は35%向上、消費電力対性能は37%向上
GPU部……性能は35%向上、消費電力対性能は60%向上
と、非常に優れたもの。
MediaTek側の挙げた対抗製品としても(当然ながら)アップルの『A15 Bionic』やGoogle『Tensor』といった現行最新世代SoCの名前が入っていることからも、現状でのハイエンド級モデルとして闘える性能を備えているようです。
まずCPU部は8コア構成。大きな特徴は、Arm Cortex-X系の新設計コア『Cortex-X2』(最高3.05GHz動作)1基を、ライバルメーカーに先駆けて搭載する点。
Arm設計のCPUコアであるCortexシリーズの中でもX系は、これまでの高性能コアを超える“ウルトラコア”とも呼べる設計。高負荷時の性能を支える役割を果たします。
一方で高負荷時の消費電力が(他のコアと比較すると)高い点などから、搭載は1コアのみに。ただし「このX系は1基のみ」構成は、多くのライバル――たとえばクアルコムのSnapdragon 888系(Cortex-X1を1基搭載)でも同様。GoogleのTensorはCoretex-X1を2基搭載しますが、これは異例中の異例です。
さらにこの他のCPUコアもArmの最新世代となっており、高性能コアは『Cortex-A710』(最高2.85GHz)を3基搭載。高効率コアには『Cortex-A510』(最高1.8GHz)4基を備えます。
加えて、CPUの3次(L3)キャッシュは8MBの容量を確保し、さらにGPUなどの兼用できる6MBのシステムレベルキャッシュも搭載。メモリアクセスの頻度を減少させ、CPUコアの性能を引き出す工夫が導入されています。
さらにメモリコントローラーも、より高速な『LPDDR5X』タイプに対応。最高データレート7500MHz相当品までをサポートします。
昨今ではゲーム向けスマホを中心にCPU以上に重要となるGPUも、Armの最新設計モデル『Mali-G710 MC10』を採用。冒頭で紹介したように、公称性能は「従来比で性能35%アップ、電力効率は60%向上」と大きなもの。
さらに機能面でも、Android用Vulcanベースでのレイトレーシングに対応し、ディスプレイコントローラーは最高180Hzをサポート。
PC向けゲームの一部で導入されつつあるレイトレーシング対応による高画質アプリや、昨今では定番化しつつある高速リフレッシュレートディスプレイへの対応もアピールします。
そしてGPU以上に注目できるのが、ISP(画像処理プロセッサ)です。公称の処理速度は1秒あたり9ギガピクセル(90億画素)に達し、MediaTek側は「最もパワフルなISP」とアピール。
この速度により、「18ビットHDR録画を3基のカメラで行ない、なおかつ1フレームごとにそれぞれ独立した露出で同時収録可能」と謳います。
さらにサポート可能な最高画素数も、3億2000万(320MP)までと破格に。こちらもスマートフォンでは世界初とのこと。
そして、昨今注目の機械学習データ用処理ユニット(同社は『AI processing unit』と呼称します)に関しても、現行世代に対して電力対性能効率で最高4倍を達成したとアピールします。
加えて5G対応モデム(チップ内蔵)をはじめ、周辺機器との接続に関しても最新仕様が盛り込まれている点も特徴。
モデムに関しては、5Gの最新要求仕様となる『3GPP Release-16』に対応。公称での最高ダウンリンク速度は7Gbps(300MHz帯、3CCキャリアアグリゲーション時)と、速度面もアピールします。
さらにBluetoothホスト部は、スマートフォン向け製品としては初となるBluetooth 5.3対応に。もちろん、今後イヤホンやヘッドホンを中心に対応製品増加が見込まれる、新オーディオ仕様『LE Audio』もサポートします。
Wi-Fi部も、Wi-Fi 6Eに加えて160MHz幅での2×2 MIMOに対応。ここでも現行製品に対して2倍の電力対性能効率と謳います。
なお、気になる搭載機の手がかりに関しては、著名リーカーのIce universe氏が第一陣採用メーカーについてツイートしており、Galaxyシリーズ、つまりサムスン電子が採用する点が注目されています。
他にもモトローラやシャオミ、オッポにrealme、OnePlusとvivoなど、いわゆる「最新SoCの採用が速いスマートフォンメーカー」からは一通り製品が登場する模様。
The first batch of manufacturers equipped with MTK Dimensity 9000 include vivo, realme, Xiaomi, OPPO, Samsung, Motorola and OnePlus.
- Ice universe (@UniverseIce) November 19, 2021
なお、なぜGalaxyが注目されているのかといえば、現状においてGalaxyシリーズでのMediaTek製SoCはミドルレンジまでが採用対象となっていたため。
たとえば『Galaxy A32 5G』ではDimensity 720が、A22 5GではDimensity 700が搭載されていますが、上位モデルでの採用はまだありませんでした。ワールドワイドで見た場合の業界勢力図的には、Galaxy上位モデルへの採用は相応のインパクトを持つため、ここが注目されているというわけです。
このようにDimensity 9000は、昨今(トップを追うメーカーとして当然とはいえ)野心的な目標を立てることの多いMediaTek製SoCの中にあっても、さらに野心的と呼べる仕様のモデル。
話題の中心となっている製造プロセスに関しても、少なくともTSMC N4採用の発表、という点ではアップルに先んじるなど、非常に積極的な姿勢です。
出荷タイミングまでが速ければ、文句なくアップル超えと呼べるでしょう(一方でN4がN5Pと比べてどれだけの優位性を持つのか否かなど、双方の蓋を開けてみなければわからない要素が多々あるのも事実です)。
ただいずれにせよ、その実力に関しては、昨今のDimensityシリーズの性能や採用実績からしても公称スペックから大きく違えるところはないものと想定できるところ。
仕様の時点でも大きく期待できるものだけに、搭載モデルの登場とその価格、さらにはMediaTek製SoCが得意とする発熱の低さなどには期待したいところです。
Source:MediaTek公式ページ