ネコは、飼い主の姿が見えなくとも、音声から居場所を認識・追跡し続けていることが新たな調査で判明しました。ネコのこのような空間認知能力はこれまで知られていなかったものです。

Socio-spatial cognition in cats: Mentally mapping owner’s location from voice

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0257611

You can't hide from your cat, so don't even try | Live Science

https://www.livescience.com/cats-track-owners

対象物(モノ)が見えなくなっても、モノが存在し続けると認識することは「モノの永続性」と呼ばれます。人間の赤ん坊は通常、生後8か月前後まではモノが布などで隠されると、それが存在しないかのように振舞いますが、発達が進むと布で隠されてもモノが存在し続けることを理解します。人間以外ではチンパンジー、ゴリラ、オラウータンといった霊長類を中心にモノの永続性が存在すると確認されていますが、新たな研究では、ネコには「音」によるモノの永続性が存在すると確認されました。



麻布大学特別研究員でありネコ研究集団「CAMP NYAN TOKYO」の一員でもあるネコ心理学者の高木佐保氏は、過去の研究で「ネコは飼い主の声を聞いた時に飼い主の姿を見ることができると期待する」ことを明らかにしました。また他の研究では、ネコが飼い主の声と飼い主以外の声を区別することや、隠れたモノを発見できることも判明しています。これらから高木氏は「ネコは音声に基づいて他者の位置を思い描くことが可能であるはず」と考えました。

調査において、研究チームはまずネコを3つのグループに分類。各グループには「ネコカフェで暮らしている」ネコと「家で暮らしている」ネコが半分ずつ存在しました。そして、グループ1のネコには「飼い主あるいは見知らぬ人がネコを呼ぶ声」を、グループ2のネコには「他のネコの声」を、グループ3のネコには「ランダムな電子音」を聞かせたとのこと。



研究チームは、「ネコの近くにある扉」と「ネコの遠くにある扉および窓の隣」の2か所にスピーカーを設置し、音声を流してネコの様子を観察しました。



このとき、音声がネコの予想とは異なる場所から流れる、すなわち「対象物のテレポーテーション」が起こると、ネコがどのくらい驚くかを「観察者」に0〜4段階で評価してもらったとのこと。ネコが驚いたサインとしては、「最初に音声が流れた場所を見つめる」「耳を動かす」「部屋を動き回る」といった行動が挙げられます。

この結果、ネコが最も驚いたのは、飼い主の声が自分の予想とは違う場所から聞こえた時だったとのこと。ここから研究チームは、「ネコは最初に聞こえた声から見えない飼い主の居場所を思い描いており、これまでは確認されていなかった社会空間認知能力を持つことが示された」と報告しています。

外界を思い描く能力は、複雑な思考を可能にする重要な要素の1つであり、今回の研究は将来的なネコ研究にとって貴重な洞察を提供していると考えられています。