ついにバルサの監督に就任したシャビ。だが、その過程は一筋縄にはいかなかった。(C)Getty Images

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 シャビがついにバルセロナの監督に就任した。 本来であれば、レジェンドの帰還をもろ手を挙げて歓迎しなければならないところだ。しかし、アル・サッドとの引き抜き交渉は難航し、そのほつれた糸をほどくために本人が介入しなければならなかった。 最大の焦点となったのが契約解除に伴う違約金の支払いだ。最終的にクラブ間合意に達したが、バルサもアル・サッドも現時点で金額を公表していない。スペインではシャビの側近が明らかにした500万ユーロ(約6億2500万円)という数字がそのまま独り歩きしている格好になっているが、カタールではここ数日、その額は1000万ユーロ(約13億5000万円)に達すると報じられている。さらに両チーム同士のカタールでの親善試合の開催やアル・サッドのジョアン・ガンペール杯への招待などのプランが浮上するなど、情報は今なお錯綜している。【PHOTO】「美人すぎる」、「セクシーすぎる」フットボーラーの妻&恋人たち

 では、なぜここまで事態が複雑化したのか。その背景を理解するには、2020年1月まで時計の針を戻す必要がある。シャビは2015年6月にバルサを退団した後、アル・サッドに加入した。現役生活を終えるまでの数年間を過ごすとともに、監督としてのバルサ復帰を見据え、その準備を進めるためだ。 そして2019年5月に現役を引退した後、その青写真通りに監督に転身した。さらにそれから約半年後、つまり2020年1月にスポーツディレクターのエリック・アビダルをはじめとしたバルサの関係者がドーハを訪問した。目的は解任したエルネスト・バルベルデの後任監督としての就任を要請するものだった。 しかし、シャビは数日間の話し合いを経てその打診を断った。監督としての経験が浅かったこと、その状態でリオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ジェラール・ピケらかつてのチームメイトを指導することへの遠慮があったこと、テクニカル・メディカルスタッフの刷新の提案を受け入れられなかったことなど理由はいくつかあった。しかしシャビが時期尚早と考えた背後には、ある人物の存在があった。


 その人物とは早い段階から会長選への出馬の意思を表明していたビクトル・フォントだ。彼は自身が当選した暁にはシャビを「バルサのアレックス・ファーガソン」にする構想を持っていた。つまり選手の選考や戦術の策定といった本来の役割に加え、人事権を掌握し、補強方針にまで発言力を持つ全権監督だ。 しかし、ジョアン・ラポルタが出馬を表明し、会長選の潮目が一変した。第一期政権期での実績はやはり強力で、すぐさま本命に浮上。一方、フォントの公約の目玉になるはずだったシャビは戦略の見直しを迫られ、キャンペーン中、陣営に加わっていることを表明することはなかった。 だが、ラポルタは当然、シャビの背後にフォントがいることを知っていた。会長選は下馬評通りラポルタが勝利。この時、シャビはいうなれば“オフサイドトラップ”にかかった状態になった。 


 シャビはその後、ラポルタとの接近を試みた。そもそものシャビの願いは今シーズン開幕からバルサを率いることだった。一方、ラポルタはロナルド・クーマン監督の手腕にかねてから不満を抱き、水面下で後釜を探していた。 当然シャビも候補に入るはずだが、しかしラポルタはトップレベルでの監督経験がないというもっともらしい理由を並べ立てて、“ラブコール”に応えることはなかった。フォントとの結びつきの強さがシャビの立場を悪くしていたのは明らかだった。 シャビは焦った。なぜならこのタイミングを逃せば、来夏になればラポルタの大本命のジョゼップ・グアルディオラ(マンチェスター・シティ監督)、同じくお気に入りのトーマス・トゥヘル(チェルシー監督)ら強力なライバルが立ちはだかる恐れがあるからだ。その時点でシャビが監督になる望みは、なし崩し的にクーマンのシーズン途中の解任という方向に集約されることになった。 そうなれば、選択肢は限られ、バルサからオファーが届いた場合は、契約期間中であっても解除が可能という言質をアル・サッドの首長(オーナー)から得ていた自身が有利になるからだ。 


 結局、そのシャビが思い描いていた通りに事態が進展したのは周知の通り。クーマンは解任され、ラポルタはシャビの招聘にゴーサインを出した。もっとも肝心のアル・サッドとの交渉は、フットボールディレクターのマテウ・アレマニーとスポーツ部門副会長のラファエル・ジュステに一任し、本人はバルセロナにとどまった。 しかし、このバルサの対応がアル・サッドの首長の怒りを買い、冒頭で述べたようにシャビが双方の仲介役を担わなければならなかったわけだ。その結果、フリーでの契約解除条項という当初シャビサイドが存在を主張していた案が却下され、アル・サッドは解除金の支払いを要求。シャビがその半額を肩代わりしたとされる。 


 就任記者会見でシャビとラポルタは、円満な関係を強調した。しかしこのタイミングでの就任を切望していたシャビと、その手腕を疑問視していても、自らに批判の矛先が向かわなようにするためにもバルセロニスモの切り札を登板せざるを得なかったラポルタの間に温度差があるのは明らかだ。今後このわだかまりが消えるかあるいは亀裂が広がるかは、すべてチームの成績次第だ。 かくして監督と会長が一枚岩のタンデムへと昇華しないまま、バルサが新たな第一歩を踏み出した。文●ファン・ヒメネス(アス紙バルセロナ番)翻訳●下村正幸