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ライブコマースの原風景は路上の実演販売

――続いてライブコマースのHandsUPについてお聞きします。ライブコマースはこれまで「中国では盛んだが日本では今ひとつ」と言われてきました。HandsUPもかなりプロモーションを打っていて盛り上がってきたところだと思います。これからどのように課題を乗り越えていきますか。

ライブコマースのビジネスはこれまで国内でも何度か盛り上がりかけていて、現在も盛り上がりの波が来ていることは間違いありません。その波に対して我々が完全なブレークスルーを持ち込めたとまでは言い切れませんが、一方で今回の波においてトップランナーの一角を占めることはできていると認識しています。そこはライブコマースにおいてもライブ配信のインタラクションが付加価値を生むという17LIVEで培ったコンテンツ作りのノウハウが大きく生きているのだと思います。

また、技術面のクオリティの高さを背景に大手クライアントの皆さまにも大規模な配信を安定してライブコマースとして提供できている実績がおかげさまで好評いただいております。この安心感がこれからブレークスルーさせる上で1つの大きな価値になると考えています。

――イメージとしてはテレビショッピングみたいな感じですか。

テレビショッピングのインタラクティブ版に近いです。ただ、私自身はさらにインタラクティブ性を強めたイメージを持っています。それは私自身の原風景が基になっています。子供の頃、秋葉原に行ったらすごく元気のいいおじさんが包丁の実演販売をしていました。そこには何十人もオーディエンスの方がいて、おじさんがキュウリやナスを切りながら「どう、この切れ味?」と周りの反応を見ながらコミュニケーションを調整しつつ包丁を実演販売していました。子供心に「うまいなあ」「面白いなあ」と感じたため、今でも忘れられずに記憶に残っているのだと思います。

ライブコマースを考えるときに思い出すのがその秋葉原の光景です。私としてはQ&Aの時間があるテレビショッピングではなく、インタラクションを通して出来上がっていく実演販売のようなコンテンツをイメージしています。もちろん、最終的には人の魅力、つまり秋葉原のシーンで言えば包丁を売っているおじさんの人間的魅力に左右される部分も大きいと捉えております。そうした「キャラ売り」の要素も含めてオンラインでどのように表現していくのかをこれから追求してまいります。

HandsUPの導入事例「羽田市場」。
https://hanedaichiba.com/liveShoping/

――なるほど、高い技術力とインタラクションのメリットをどう伝えていくかが1つのポイントですね。一般的にHandsUPに向いている業種はありますか。

現状であえて挙げると電化製品、化粧品、アパレル、食品などですが、特に業界を問わず説明を要する商品についてはポテンシャルが高いと思います。商品に対する企業の思い入れ、作り込みなどキャッチコピーだけで表現するには十分とは言えず、とはいえ長々とテキストで説明しても読まれにくい、プロモーションビデオとして作ってしまうと面白くない…そういう商品はライブコマースを通してインタラクションが生まれると、オーディエンスさんの疑問にナチュラルに答えられたり、心に刺さる説明ができたり、差別化ポイントを説得力をもって伝えられる可能性が高まります。そんなふうに一定以上の説明を要する、あるいは説明をしたい商品の販売については大きなメリットがあると思います。

コンテンツの充実に集中。ただし面白さの押し付けはしない

――わかりました。私、いろんな企業の役員を取材しているのですが、多くの方がおっしゃるのが可処分時間の奪い合いについてです。17LIVE、HandsUP、あるいはNetflixにしても同様のことが言えると思うのですが、可処分時間の奪い合いに勝つために必要なこと、ポリシーなどはありますか。

面白いコンテンツを作る、楽しいと感じていただける状況を作る、そこに全てのリソース、エネルギーを費やすことをポリシーとしております。

――ひたすらコンテンツが大事だ、と。

ひたすらコンテンツです。もちろんコンテンツを広く知っていただくためにマーケティング活動に取り組む必要はあります。ただそれも面白くて価値のあるコンテンツがあってこそ付加価値が生まれて活きてくるものですから、まずはコンテンツを充実させることに全精力を集中したいと思います。

その際、サービスの提供側、プラットフォームの運営側として面白さの押しつけをするのはあまり意味がないと考えております。面白さの感じ方は人によってさまざまです。先ほども述べましたが、大事なのはいろいろトライしてみて反響の大きかった領域、コンテンツを伸ばしていくことです。「こんなコンテンツを作りたい」「こんな体験を提供したい」という思いはあまり持たないようにしていて、「ユーザーさんに広く受け入れられるものが良いコンテンツ」とシンプルな原理原則で考えていきたいと思います。

――でもその結果、さらにキラキラした方向に進むのは望んでいないのですよね。

現状も素晴らしいライバーさんたちが質の高いコンテンツを配信していただけているという認識です。ただ、さらに多くのユーザーさんに楽しんでいただけるポピュラーなプラットフォームにするには、いろんな領域のコンテンツをその日の気分に応じて選択できるように進化させていきたいのは確かです。どんなコンテンツなら、より多くのユーザーさんに刺さるタッチポイントを増やすことができるのか。それを見極めながら、支持された良いコンテンツを拡大することを考えております。

――その場合、新規顧客として開拓したいターゲットはどこですか。

現在のユーザーさんとは全然違う層を狙うのではなく、喜んでいただけている方々のちょっと外へ一歩踏み出したところがおそらく良いのではないかと思います。これもNetflix時代に学んだことです。Netflixが日本市場に参入するにあたって、日本のコンテンツを多数揃えようとしたのですが、そのときはあまりうまくいきませんでした。対価をお支払いいただきサブスクリプションをしてくださる方に刺さるコンテンツのタイプにはある程度の傾向がありまして、ポピュラーなコンテンツなら何でも良いというわけではなく、ユーザーさんの傾向に沿ったものであるのが基本です。同様に、我々も17LIVEを楽しんでくださっているユーザーさんに引き続き楽しんでいただきつつ、少しずつ枠を広げていきたいと思います。

――認証ライバーが国内で5万4000人以上いるそうですが、オーディエンスも含めて年齢層や性別などは公開していないのですよね。

若い人ばかりという印象を持たれがちですが、年齢層ならびに男女比についても比較的バランスが取れております。

一般層が日常生活の中で気軽にライブ配信できるような環境づくりがこれからの課題(画像はイメージ)

「気軽にライブ配信」へのハードルをどう下げていくか

――最後、御社の事業をさらに拡大させるために必要なことと、未来の理想の姿をどう描いているのかを教えてください。

未来は非常にシンプルで、自分の周りに起きた素晴らしい出来事、時には悲しい出来事も含めて、何かを表現したい、コミュニケーションを取りたいと思った瞬間に日常的にライブ配信をして、オンライン上で複数の人とインタラクションができる世界をつくることです。

一方で、そこに至るまでには、恥ずかしさや「自分がこんなことを言っていいの?」と躊躇する気持ちがあったりして、実際にアクションを起こすまでのハードルは依然、高いと思います。その状況をクリアするためには情報発信で配信する人のハードルを下げていくことが重要です。そうすれば日常生活の身近なサービスとして17LIVEが位置づけられます。これがサービスとして、まず目指したい姿です。

――アプリをダウンロードしてもらうこと、視聴してもらうこと、自分で配信することなど、いずれもハードルがありますね。どのように乗り越えるのですか。

そこは試行錯誤を続けているところで、手応えを日々感じつつも完璧な答えを今持っているわけではありません。これも人によってハードルの内容が違うので、答えは1つではないと思いますが、数年内には一定の答えを見つけられるように努めております。

いろんな人が気軽にライバーさんとして活動することで、「私もやってみようかな」と感じられるように答えの種類や選択肢を増やしていけるよう、そんな環境作りに全力で取り組んでまいります。

――本日はありがとうございました。

Profile
竹中 重人(たけなか・しげと)
17LIVE株式会社COO(チーフ・オペレーティング・オフィサー/最高執行責任者)。
東京理科大学工学部卒業。日本テキサス・インスツルメンツ入社。2006年ダートマス大学 経営大学院修了。ベイン・アンド・カンパニー参画。2011年ソニー入社。研究開発企画部門の部長として全社レベルのプロジェクトに従事。2014年ソニー不動産を創業し、執行役員に就任。2015年Netflixの日本事業立ち上げにファイナンス・ディレクターとして参画。日本での2人目の社員として、コンテンツ戦略の立案とバックオフィスのマネジメントを担当。2019年OYO Hotels Japanバイス・プレジデント。2020年9月 17 Media Japan(現17LIVE )COO就任、現在に至る。

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
Twitter:@hayakawaMN