栄養状態や衛生環境の改善、医療の発達などにより、「人生100年時代」と言われる現在ですが、なにもしなければ当然のように脳も体も衰えてゆきます。
高齢者の方はもとより、30〜40代のみなさんも、早くから脳トレ習慣を始めることが大切です。
ところが、「頭を使う脳トレはしんどそう」「ハードな運動は大変」と感じる方もいるのでは? 家族に高齢者の親がいる方は、どうやって脳トレ習慣を身につけて取り組んでもらうかで頭を悩ますことも多いでしょう。

そこで、認知症ケアの第一人者として、厚生労働省・スポーツ庁の主催する「第8回健康寿命をのばそう! アワード」で厚生労働大臣優秀賞を受賞し、新刊『川畑式 脳がいきいきパズル
』(扶桑社ムック)が話題の理学療法士の川畑智先生にお話をうかがいました。


いつまでも脳がいきいきする川畑式パズルって?(※写真はイメージです)

認知症予防にもなる!川畑式パズルで体と脳を動かしてすっきり



――体と脳の関係で重要なことは何でしょう?

「自立した日常生活を送るために何らかの支援が必要となる『要支援』の原因の第1位は『関節疾患』、第2位は『高齢による衰弱』、第3位は『転倒・骨折』です。
一見、すべて体に関することのように見えますが、脳の認知機能の低下により周囲との交流を避けてしまい、自宅に閉じこもることで体力が低下します。そのため『関節疾患』や『衰弱』が起こりやすくなるわけです。さらに思考・判断力が低下することで適切な判断を誤り『転倒・骨折』に及んだと考えられます。

いつまでも元気でいるために、脳と体のトレーニングをすることが大切です」

――先生が認知症予防対策として熊本県で行っている「脳いきいき教室」では、どのようなことを実施されていますか?

「私が実際に行っているのは、毎週1回2時間の教室を6か月の期間を設けて展開しています。教室で行うのは、(1)オリエンテーション、(2)カードプログラム、(3)パズルプログラム、(4)思考運動プログラム、(5)ペンシルパズルプログラムの5つです」

脳のトレーニングにはすべてのプログラムがかかわってくるのですが、ここで(3)パズルプログラムの問題を紹介しましょう。

●脳がいきいきするパズルプログラムに挑戦!



★例題1(ピッタリ勘定パズル)

【問題】



【答え】



★例題2(2字熟語迷路)

【問題】



【答え】


――こうした問題を繰り返し解くといいんですね?

「教室では、問題はまずひとりでチャレンジしていただきますが、解けない場合はちょっとしたアドバイスをしたり、一緒に解いたりします。ひとりで悩むより、コミュニケーションを取ったほうが楽しみを感じたり、やる気を起こしてくれるのです。教室の参加者では85%の方が認知機能の維持・向上が見られました」

●体を使う脳トレ体操「数字でタッチエクササイズ」に挑戦!



――教室で体を使うプログラムを導入しているのはどうしてでしょう?

「教室で体を使うプログラムは(4)思考運動プログラムになります。脳を使いながら体も使うというものですが、脳トレをしていると楽しみながらとはいえ少なからずストレスが生じます。そのストレスのリフレッシュが目的のひとつです。
2つめの目的は運動による他者とのコミュニケーションです。ひとりで黙々とやり続けることはやはり難しいですから。
そして3つめは、運動によって質の良い睡眠が得られることです。睡眠は脳にも体にも大切なことです。
今回は、実際に教室で行っている「思考運動プログラム」をひとつ紹介しましょう。イスに座ったままでできるプログラムです。運動と思考の同時処理で、記憶力の活性化が期待できます」

ではここで、川畑式脳トレ体操『数字でタッチエクササイズ』も紹介します。
これは手(腕)を使った運動プログラムです。


まずは基本の3つの手の動きを番号で覚えましょう。

次にパターンA〜Cの順で、手でヒザをタッチします。
【A】



【B】



【C】


これを、声を出しながら3回ずつ繰り返しましょう。
最初はゆっくり正確に、慣れてきたら段々とスピードをアップしていきましょう。
ヒザをタッチするかわりに、テーブルなどをタッチしても大丈夫ですよ。
一人でやってもいいですし、一緒にやればさらに効果的ですよ。

――簡単な運動で取り組みやすいですし、慣れてくると、楽しいですね。

「はじめはゆっくりで大丈夫です。慣れてきたら少しずつ早くするようにしてみましょう。大きく動くと全身運動になって、脳への血の巡りもよくなりますよ。『脳いきいき教室』で行っているこれらのプログラムをはじめとした私の活動は、行政からも評価され、熊本県認知症予防プログラムに採用されたり、全国3000以上の医療・介護の施設や現場で活用されています。
コロナ禍でお出かけがしづらい状況が続いています。体や脳はなにもしていないと衰えてしまいます。ぜひ毎日の生活の中に、脳と体のトレーニングを取り入れてください」

『川畑式 脳がいきいきパズル
』(扶桑社ムック)では、ほかにも脳トレになるパズルを多数紹介。ぜひチェックしてみてくださいね。

<文/ESSEonline編集部>

●教えてくれた人
【川畑智さん】



理学療法士。株式会社Re学代表取締役、日本パズル協会特別顧問。
1979年宮崎県生まれ。熊本リハビリテーション学院卒業。2002年に理学療法士資格を取得。認知症患者のリハビリに取り組む過程で、パズルを活用した「川畑式パズル」を考案。著書・監修に、『新版 マンガでわかる! 認知症の人が見ている世界
』(文響社)、『川畑智の楽しく解けてアタマが喜ぶパズル
』(ニコリ)、『パズルで脳トレーニング
』(ユーキャン)など多数