いまから2年前の10月、マイクロソフトは長い時間かけて完成させた2画面の端末「Surface Duo」を発表した。しかし、誰も買わなかった。

「マイクロソフトの2画面スマートフォン「Surface Duo 2」は、初代の“不遇”を教訓に復活を果たせるか」の写真・リンク付きの記事はこちら

厳密に言えば買った人もいた。それでもSurface Duoはソフトウェアにバグが多く、マイクロソフトがわかりづらい製品分類をしたこともあって成功しなかった。OSとしてAndroidを採用していて電話をかけることもできるのに、マイクロソフトの最高製品責任者(CPO)のパノス・パネイはSurface Duoを「スマートフォン」と呼ぼうとしなかったのである。

パネイはまた、ふたつの画面で複数のアプリケーションを実行できるモバイルデヴァイスを使えば、トランス状態に入ったように仕事ができるようになると固く信じていた。

だが、マイクロソフトは改良を重ねた。時価総額1兆ドル規模の企業だからこそできることであり、このほど次のヴァージョンである「Surface Duo 2」が誕生したのである。米国では1カ月後に出荷される予定で、定価はいかにも大型スマートフォンらしい1,499ドル(約16万円)となっている。

また、Surface Duo 2は間違いなくスマートフォンである。今回はマイクロソフトもその事実を認めている。新しいDuoは5Gにも対応しているのだ。

さらにSurface Duo 2は“スマートフォン”ではなかった初代とは異なり、楽しいスマートフォンとしても宣伝されている。初代Duoを披露したとき、パネイは「流れに乗ったまま」と何度も言った。まるで長いメールを書くことが人生のすべてであるかのように、である。

ところが、2020年8月に実際に発売されたときには、Duoの意味合いは変化していた。もはや仕事のためだけのデヴァイスではなく、在宅勤務用のデヴァイスになっていたのだ。メールの返信はもちろんできるが、パンのレシピを検索したり、Netflixで映画を観たりすることも同時にできる(もっと画面を見ていたいって? Duoなら、ひとつの端末で2画面ある)。

「スマートフォン」らしく進化

いま、この新しいSurface Duo 2にはスマートフォンらしい機能が搭載されている。最も注目すべきは、背面にカメラモジュールが搭載されたことだ。初代のSurface Duoには自撮り用のフロントカメラしかなく、メインカメラのように使うには本体をひっくり返さなければならなかった。

Surface Duo 2のメインカメラは巨大だが、広角、超広角、望遠という、現代のスマートフォンに求められる3つのカメラが搭載されている。さらに、フロントカメラもわずかに改良されている。

Surface Duo 2で写真を撮るときは片方の画面をファインダーとして使い、もうひとつの画面を撮ったばかりの写真の確認用に利用できる。撮影した写真をすぐに編集したければ、片方の画面をパレットに、もう一方の画面を巨大なパネルにして、明るさ、露出、コントラストを調整できる。スワイプすると、さらに15種類の写真編集設定にアクセスでき、そのすべてが同じページに表示される。

出荷時のOSとしては「Android 11」がプリインストールされる予定で、旧モデルと同様に「Microsoft Office」の主要アプリの一部が分割画面に最適化されている。

とはいえ、メールにもっと時間をかけなければならない人などいるだろうか。むしろ、ゲームで遊ぶために使ってほしい。片方のタッチスクリーンにゲームを表示し、もう一方のタッチスクリーンをコントローラーにするのだ。

発売前のデモでは、マイクロソフトのヴァイスプレジデントである中年男性が、TikTokがどのようにSurface Duo 2に最適化されているのかを披露ししていた。彼はTikTokの「おすすめ」ページに何が表示されても一切責任を負わないと言ったが、彼にとってもわたしたちにとっても幸いなことに、最初に表示されたのは猫の動画だった。

“背骨”に搭載された便利機能

Surface Duo 2では、ハードウェアも刷新されている。初代Duoと比べて、ほんの少し分厚くなっているのだ。これはクアルコムのチップセット「Snapdragon 888 5G Mobile Platform」を採用しており、5Gモデムのスペースが必要になるからである。

このほか、Surface Duo 2の角はわずかに丸みを帯び、ふたつの画面のガラスの背面はクールで滑らかに感じられる。ちょうど「iPad mini」のような感じだ。もちろん、仮にiPad miniの中央に巨大な継ぎ目があって折り畳めて、OSがAndroidだったらの話である。

変更点はまだある。ついにスマートフォンと呼ばれるようになったDuoを刷新するにあたり、マイクロソフトは折り畳まれているときのSurface Duo 2の通知機能を見直す必要があると気づいたのだ。

マイクロソフトが採った解決策は、デヴァイスの“背骨”の部分を通知バーにすることだった。ふたつの画面の継ぎ目に相当し、上下にヒンジがあって内側の画面の丸みを帯びた角がのぞいている部分のことである。電話がかかってくると、画面のこの部分が点灯する。テキストメッセージの通知も同様だ。時間もここに表示される。

このことが、なぜかうれしくてたまらない。「Samsung Galaxy Z Flip」の前面カヴァーに小さなディスプレイを設けるというサムスンの解決策もよかったが、マイクロソフトは紛れもなくスマートフォンであるSurface Duo 2の背骨部分に、点灯する通知システムを組み込むという手法をとったのである。

スマートフォン市場を一新するか

そもそもマイクロソフトは、ハードウェアで“実験”することに積極的な企業として知られてきた。例えば、人間工学に基づいたキーボードや滑らかに動くマウスコントローラーといった生真面目なアクセサリーを、長年にわたり製造している。

自社ブランドのPCをつくるようになってからは、12年にハイブリッド端末として「Surface」を発売し、2in1の端末を主流にしようと試みた。ところが、「Windows 8」を思い出していただければわかるようにソフトウェアのできが悪く、しばらくは売れなかった。

それでも、やがてこのハイブリッド端末は進化した。ハードウェアもソフトウェアも改善され、Surfaceはいまではマイクロソフトにとって10億ドル(約1,100億円)規模の事業になっている。

Surface Duo 2はスマートフォン市場を一新するだろうか。道理をわきまえたアナリストなら、スマートフォン市場には確立された製品があまりにも多いので「無理」と言うだろう。だが少なくとも、いまではわたしたちはSurface Duo 2をスマートフォンと呼ぶことができるのだ。

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