武田梨奈×濱正悟、共通点の多いふたりは「人に弱い部分を見せたくない!」 映画『ナポレオンと私』インタビュー
もしも、ゲームのキャラクターが実際に現れたら? 公開中の映画『ナポレオンと私』は、そんな夢のようなシチュエーションを、恋愛ゲーム『イケメンシリーズ』の制作チームと頃安祐良監督(『あの娘、早くババアになればいいのに』など)が、限りなくリアルに現実世界に落とし込んで作り上げた作品だ。
WEB制作会社で営業アシスタントとして働く28歳の大原春子(武田梨奈)は、自分に自信が持てず、恋も仕事もまったく前に進めない。寂しまぎれに、同僚から勧められた恋愛ゲームをインストールしてみると、キャラクターのナポレオン(濱正悟)が目の前に現れる。「春子が本当に幸せを見つける手助けをするために現れた」というナポレオンとの共同生活を始めた春子は、本来の自分や自信を取り戻し、健やかに成長していく。彼女は、決して特別な人間ではない。社会生活を送る上で迷い、傷つき、悩む多くの現代女性が共感できるようなキャラクターだからこそ、やさしいエールを送る作品に仕上がっている。そんな春子を等身大で演じた主演の武田と、異世界のナポレオンを説得力のあるトーンでやり切った濱に話を聞いた。
左から、濱正悟、武田梨奈 撮影=鈴木久美子
――主人公・春子の脆さと葛藤、なだらかな成長が魅力の物語でした。武田さんは、脚本をお読みになってどう思われましたか?
武田:台本を読む前はラブコメ映画かと思っていました。ファンタジー要素がすごく入っている印象だったんです。でも、いざ読んでみると、割と現実に沿って描かれていたので、ただファンタジーの中に引き込まれていくだけではなく、自分の私生活と照らし合わせながら物語を一緒に歩める作品だと感じました。より身近に、皆さんに観ていただけるように頑張って演じなきゃいけないと思いながら、撮影には臨んでいました。
――濱さんは、いかがでしょう?
濱:春子と出会ってから別れまでをナポレオンとして読んでいると、単純にウルっときましたね。「一歩を踏み出すのは自分自身」というのがテーマなので、ナポレオンとのちょっと不思議でおかしな出会いと、シュールで面白いシーンを交えて、人が変わっていく姿にはリアリティがあるし、伝わるものがあるのかな、と思いました。
武田梨奈 撮影=鈴木久美子
――おふたりでの印象的なシーンも、数多くありました。特にクライマックスに向けての部屋での長台詞のやり取りは、見どころのひとつかと思います。
武田:あのシーンは、私の中でも最も難しかったシーンのひとつでした。あることが起こり、ナポレオンに「好きだからキスして」と言うんですけど……どのテンションで言えばいいのかが一番難しくて。1回テストでやってみたときに、監督やプロデューサーさんに、「“キスして”と誘惑している感じじゃなくて、自分でもどうしたらいいかわからなくて、投げやりにナポにぶつける感じで」とアドバイスをいただいたんです。それでやってみたら、自分の中でもすごくしっくりきました。そこまで、ナポは春子をいつも肯定してくれていて、春子も「ナポはいつでも味方なんでしょ」と、すべてを委ねてしまっていた。でも、唯一ナポが怒ってくれるシーンだったので、グッときましたね。
濱正悟 撮影=鈴木久美子
濱:そうですね。あのシーンの前に、春子が恋愛も仕事も自分ではどうにもならなくなっているのが、ナポにもわかっていて。「ああ、もうこれは俺が言うしかねえんだな」と、ナポが諭すんですよね。「今、春子は変わらないと!」じゃないですけど、厳しい言い方をすると、「いい加減にしろよ」という思いが爆発するシーンだったので、ナポの感情が一番出ていたところだと思います。
武田:「飴と鞭」でいう、ナポ的“鞭”の部分があのシーンだったと思います。ナポの人間らしさみたいなものを初めて見られたから、春子もすごく刺激されました。
――自分が弱っているときに、絶対的に受け止めてくれるだろう人に甘えてしまう、春子のような気持ちは、わからなくもない?
武田:私は……あまりないです(苦笑)。自分にすごく苛立ったりとかはありますが、それを人にぶつけるのはないというか、あまり人に弱い部分を見せたくない派なので。「甘えたら負け」じゃないですけど、弱音を吐いた瞬間に、もっと弱くなっちゃう気がして。だから、自分の中で留めておきたいっていうのがありますね。私は、春子もたぶんもともとはそうだったと思うんです。みんなの前ではずっとニコニコしているし。でも、ナポという存在が現れたから、自分の弱い部分も出せるようになったのかな、と。
左から、濱正悟、武田梨奈 撮影=鈴木久美子
濱:うん、うん。僕も武田さんと同じで、ないですねえ。思い出して後悔したり、「あのときはああだったな」と何回も思い出しちゃうことはあるんですけど。人に弱さを見せたくないのは、同じかもしれないです。
武田:濱さん、人前であまり泣いたりとかもしないですか? 泣いたり、笑ったり、怒ったり。
濱:人前では、あまりないです。怒らないし、我慢しますね。あ、でも、中学生のときに、ゲームでどんなに頑張っても勝てないキャラがいて、コントローラーをぶん投げて泣いたことはあります(笑)。
武田:ええ? かわいい!
濱:親がそっと遠目から見てる、みたいなシチュエーションでした(笑)。
――幼少時代のかわいいエピソードですね(笑)。武田さんも人前では弱さを見せたくない、というお話でしたね。
武田:つい悔しいのが出てしまい泣いちゃった、みたいなことはもちろん過去にあるんですけど、基本的に人前で泣いているところは見せたくないですね。私、幼い頃からずっと空手をやっていて、男の子と試合もしていたんです。ボッコボコに負けて泣きそうになったときに、先生に「泣くんだったらトイレに行って泣け!」と言われて。だから、トイレに行って泣くクセがすごくついちゃったんですよ(笑)。「ううあ~!」と泣いて、普通に戻って「押忍ッ!」と言っていました。そのクセは、今でもあるかもしれないです。
武田梨奈 撮影=鈴木久美子
――本作では“社会人女性の恋愛と仕事についての葛藤”が描かれていますが、共感する部分はありますか?
濱:仕事のことになるんですけど、そもそも(俳優は)考える仕事だと思うので、全部葛藤ではあります。何かの代表作に出会わない限り、俳優自身がすごく光を浴びることは、あまりないかもしれないじゃないですか。なので、「悩み」以前に、「この仕事って何なんだろう?」という風に、仕事自体について考えたりします。考えても、いつも答えは出ないんですけどね(笑)。
武田:すごくわかります。たぶん、仕事については、いつも葛藤していると思いますね。日々、仕事があっても考えなきゃいけないし、仕事がなくても考えなきゃいけないから。私の場合、例えば、クランクインの前日は本当に寝られないんですよ。今日も映画の初お披露目だったので(※取材日が完成披露試写会当日)、寝られなかったです。ずっと慣れなくて、ソワソワしちゃうんです。
濱:俺もそうです! 似ているかもしれないです。普段は“いっぱい寝たい派”なんですけど、今日も全然寝られなかった。
濱正悟 撮影=鈴木久美子
――お話をうかがっていると、おふたりは結構共通点が多いですよね。
武田:似てますね! 先日気付いたんですけど、最近、作品の取材をいろいろふたりで受けさせてもらっているんですね。媒体さんに対して、「せっかく取材してくださるのに、何回も同じことを言っちゃうと…」と、まだ話していないことを考えていて。そんな話を濱さんにしたら、濱さんもすごい考えてくださっていたんです!「僕も今ネタを探したくて、もう1回映画観直してます!」とか。
濱:確かにその話、しましたね! 武田さんもすごく観ていますよね?
武田:もう、8回くらい観たかもしれない(笑)。そういう相談とかも、すごくしやすい方なんです。これまで、共演者の方に「明日の取材、どういうことをしゃべります?」みたいな打ち合わせをしたことがないんですけど、結構気軽に言えるというか。同じように考えてくださっているんだな、って。
――心強いパートナー同士、ということですね。そんなお二方なので、最後にぜひ「ほかではまだ語っていない」アピールポイントをお伝えください!
濱:そうですね……この作品、意外にというか、男性の評判が結構いいんですよ! 事務所の男性スタッフさんに、試写会の感想を聞いたら、「すごく面白かった!」という意見が多くて。春子の恋愛だけじゃなくて、仕事の部分でのリアルな感じをきちんと描いているので、すごく刺さったり、発見できたという意見もあったんです。映画としてすごくこだわって撮ってくれているところなので、ラブコメや胸キュンというジャンルだけに捉われず、面白く観ていただけるポイントなのかな、と思いました。
左から、濱正悟、武田梨奈 撮影=鈴木久美子
武田:ね! 男性にも刺さるポイントがたくさんあるみたいで、すごい発見でしたよね。私個人のポイントとしては、春子はドジなシーンが結構あるところです。転んだり、口にソースをつけちゃったり、携帯を落としちゃったり。わざとらしくならないように、結構リアルに攻めたつもりなので、細かい部分にも注目してほしいです(笑)。
濱:本当に、武田さんだけを観ていられる映画だと思います!
武田:いやいや、そんなことないですよ! 男女関わらず、突き刺さることがたくさんある映画だと思うので、少しでも観ていただいた皆さんの力になれればいいな、と思います。
(C)CYBIRD
取材・文=赤山恭子 撮影=鈴木久美子