次々に新しい料理や食材などが登場するとあって、『食のトレンド』は刻一刻と移り変わっていく。しかし、クライアントや職場の同僚と「あれ食べた?」という話になることはよくある。そんなときに「……聞いたこともない」というのは、かなりマズい。この連載では、ビジネスマンが知っておけば一目おかれる『グルメの新常識』を毎回紹介していく。第62回は「焼売酒場」。

蒸し焼売、揚げ焼売、出汁焼売…個性豊かな焼売をつまみにカンパイ!


○「焼売酒場」って何?

お酒と一緒にグルメな焼売を楽しむ「焼売酒場」が人気だ。焼売といえば、中華料理の1メニューとして認知度は高いものの、これまではどちらかといえば脇役のイメージが強かった。ところが、ここ数年で焼売をメインに据えた酒場スタイルの店が増え、定番の蒸した焼売から焼き焼売、揚げ焼売、炊き焼売など個性豊かになっている。

日本シュウマイ協会発起人のシュウマイ潤さんによれば、その火付け役ともいえるのが、福岡県内に3店舗を構える「焼売酒場いしい」。2018年7月に天神に1店目をオープンすると、鶏肉100%のあっさりとした焼売と“オープンキッチンの活気ある店内で焼売をほおばる”というスタイルが評判になり、全国放送のテレビ番組に取り上げられるなど大きな反響を呼んだ。「焼売酒場」や「焼売」自体にも注目が集まるきっかけになったという。

「ここ1年ほどで九州や関西などの西日本、そして関東圏で焼売酒場が増えています。『いしい』に影響を受けた店も少なくないのでは。また、冷凍食品、スーパーの総菜、コンビニのオリジナル商品など、食品メーカーや小売業界も焼売に力を入れるようになっていて、どれもレベルが高い。これまで『焼売は好きだけどビジネスで成功しないのでは』と思っていた人たちが、だんだん『焼売、いいかも』と気づき始めたのではないでしょうか」(シュウマイ潤さん)と、焼売ブームの背景を語った。

○「焼売酒場」はどこにある?

シュウマイ潤さんによれば、関東近郊だけでも現在20店近くの焼売酒場があるという。その一つ、東京都内の注目店として挙げられるのが、2019年2月に渋谷にオープンした「焼売酒場 小川」だ。前身のフレンチビストロ「ミニヨン坂ノ上」の人気メニューだった焼売やダッチオーブンで焼く玉子焼きを主力に、ワインに合う食事を提供している。

「焼売酒場 小川」の焼売メニュー。それぞれの味に合わせた調味料で彩りも鮮やか


看板商品は、岩手のブランド豚・岩中豚を使用した「岩中豚 特製焼売」(1個176円)。同店代表の小川将さんは「焼売を開発するにあたっていろいろな肉で試作してみた結果、一番脂のキレが良く、旨みのある岩中豚にたどり着きました。4つの部位の肉を、挽き方を変えてブレンドしています」と語る。

他にも「変わり焼売 仔羊」「季節焼売 鴨」(いずれも1個253円)など個性豊かな焼売メニューがあり、どれも1個から注文できる。さらに、それぞれの焼売に合った調味料も一緒に提供してくれるのが同店の特徴だ。たとえば、「特製焼売」なら長崎産の濃い口醤油と和歌山県産の山椒でシンプルに、「仔羊」はパセリのオイルとトマトソースで洋風に、「鴨」は北海道産の食用ほおずきと和辛子でさっぱりしつつもコクのある味わいに、といった具合だ。

調理法や味の組み合わせには、フレンチの現場で培ってきた小川さんの技術や経験が活かされている。どの焼売もほおばるごとに、ぎっしり詰まった肉のジューシーさと焼売を引き立てる調味料の豊かな風味を感じられ、「これが焼売!?」と驚くはず。

東京・埼玉・神奈川に計4店舗を構える「野田焼売店」も、人気の焼売酒場の一つ。定番の蒸した「焼売」のほか、スープに浸かった「水焼売」、唐辛子が刺さった「辛焼売」など6種類の焼売を提供。さらに、「にんにく醤油」「麻辣たれ」など特製の9種類のタレの中から2種類を選ぶことができ、味変しながら楽しめるのが特徴だ。

「野田焼売店 頂」の黒豚入り焼売は、一人前(2個)400円から


今年4月に神奈川・武蔵小杉にオープンした「野田焼売店」の新ブランド「野田焼売店 頂(いただき)」では、メニュー全体をブラッシュアップ。「『頂』は、有機野菜や産地にこだわった食材を使用したモダン中華ダイニングとして、美容と健康にも優しい本格中華を提供するブランドです」(同店を運営するクサマ 中華業態ディレクター 石毛徹也さん)という。もともと国産の豚肉を使用していた焼売も、より柔らかく旨味のある鹿児島産の黒豚100%になり、さらに上質な味わいが楽しめるようになっている。

初めて同店を訪れるなら、「焼売6種盛合せ」(2580円/ハーフ1300円)がおすすめだ。黒豚入りの焼売6種類を食べ比べることができる。シーフード系の焼売メニューや、麻婆豆腐、担々麺など王道の中華メニューも揃っており、一人でもファミリーでも楽しめそうだ。

○「焼売酒場」の焼売を食べてみた

今年3月、神奈川・横浜にオープンした居酒屋横丁「横浜西口一番街」内の「焼売酒場 ひげ吉」の焼売を食べてみた。同店は、神奈川県内に7店舗展開する焼肉店「食彩和牛 ひげ吉」初となる焼売酒場業態だ。「横丁の中ではあまりスペースを広くとれないので焼肉店は難しい。それなら店で余ってしまうことの多いひき肉を使って焼売を作ろうと考えました」(しげ吉を運営するシゲキッチン代表 間宮茂雄さん)

同店の焼売の特徴は、なんといってもA5ランク和牛を贅沢に使っているところ。特に肉質がよく柔らかいメス牛を使うことにこだわっている。焼売メニューは全4種類あるが、今回はそのうち3種類を実食!

まずは目玉商品、蒸籠(せいろ)でじっくり蒸しあげた「和牛焼売」(2個360円)から。テーブルに運んできたスタッフの「オープン!召し上がれ!」の元気な掛け声とともに蒸籠の蓋が開けられると、ふわりと湯気が立ち上り、熱々の焼売が姿を現した。

中に和牛のひき肉がぎゅっと詰まった「和牛焼売」。箸で持ってみるとズシッとボリュームを感じる


まずはそのままほおばってみると、肉汁がじゅわっとあふれ出し、肉の旨味をダイレクトに感じる味だ。「和牛100%だと脂っこくなってしまうので、鶏肉を少し混ぜています」(間宮さん)とのことで、肉々しいがしつこくない、絶妙なバランス。二口目は、特製酢醤油を数滴たらしてパクリ。ほのかな酸味でさっぱりとした後味になり、肉の旨味・甘みをさらに引き立ててくれる。

「出汁焼売」(写真手前)と「揚げ焼売」(写真奥)。アレンジの幅が広いのも焼売の魅力だ


続いて、和牛焼売を魚介のだしにつけて味わう「出汁焼売」(1個120円)。焼売から出る肉汁とだしが口の中で交わり、旨みがさらにアップ!ちょっと贅沢な和風スープを楽しんでいるような気分だ。春巻きの皮で鶏ひき肉・ニラ・春雨を包んで揚げた「揚げ焼売」(1本250円)は、パリッとした皮の食感が楽しく、揚げ物だがあっさりした具材を包んでいるので重さを感じない。何個でもパクパクと食べられそうな美味しさだった。

同店の利用客の男女比は半々で、特に20,30代の若い層が目立つ。開放的なテラス席やテイクアウトも人気だ。今後の展望については「県内に焼売酒場の2店目オープンを計画中で、オンラインショップの開設も進めたい」(間宮さん)とのこと。さらなる展開に向けて既に動き出しているそうだ。

幅広いアレンジやお酒との相性など、焼売の魅力を深く知ることができる焼売酒場。コロナ禍による自粛の日々は未だ続いており、今回取材した各店でも自治体の要請に応じて時短営業などに協力しつつ、消毒や換気など感染症対策もしっかりと行い営業を続けている。今はテイクアウトなども利用しつつ、“焼売飲み”を楽しんでみては。