「人口減少止まらぬ日本」に残された2つの選択肢
どうすれば日本の人口減少を防げるのか?(写真:winhorse/iStock)
6月4日、厚生労働省が発表した2020年の人口動態統計によると、合計特殊出生率は1.34で5年連続の低下、出生数は84万832人と過去最低を記録しました。死亡数は137万2648人で、差引き53万1816人の人口減。今後も毎年、「鳥取県1つ分」に相当する人口減少が続きます。
日本だけでなくいま世界の多くの国で、合計特殊出生率が低下し、出生数が減り、人口減少が開始あるいは加速しています。今後も合計特殊出生率が人口置換水準の2.07を下回って推移すれば、最終的に多くの国家が消滅します。
英オックスフォード人口問題研究所が2006年に「人口減少によって消滅する最初の国は韓国」と発表し、波紋を呼びました。消滅の時期を「22世紀」と予想していますが、韓国ではこのところ出生率が急低下しており、この時期がかなり早まりそうです。
今回は、最近の人口動態を確認した上で、人口減少によって地球上で最初に消滅する国はどこか、国家消滅を避けるにはどういう対策が必要か、という大問題について考えてみましょう。
中国が「2人っ子政策」を緩和した理由
世界各国でコロナが収束に向かい、いま人口問題が脚光を浴びています。中でも最も大きな注目を集めているのが、世界最大の人口を抱える中国です。
5月に発表された国勢調査によると、中国の昨年の出生数は約1200万人で、2016年の1800万人から大幅に減少し、1960年代以降で最も少なくなりました。
中国社会科学院は「2027年から総人口が減少に転じる」という予測を2019年に公表しましたが、今回の調査結果を受けて中国共産党系メディアの環球時報は、「2022年にも人口減少が始まる」という人口統計学者の分析を伝えました。2022年と言えば来年、ピークは今年というわけです。
中国政府は5月31日、産児制限を緩和し、夫婦1組に3人目の出産を容認する方針を発表しました。少子高齢化が進む中国では、1979年から続いた「1人っ子政策」を2016年にを廃止し、2人目を容認しました。しかし、出生数の増加につながらず、わずか5年で方針転換したわけです。人口減少に対する政府の強い危機感と焦りがうかがえます。
アメリカは、2019年7月から2020年7月の人口増加率は0.35%と、統計が存在するこの120年間で最も低い数字にとどまりました。アメリカは、主要国では唯一今後も人口増加が続くとされていますが、出生率の急低下とトランプ政権下の移民制限の影響で、人口減少に転じるという見方が増えています。
このほか、ベトナムなど従来は人口増加が国家的な大問題だった発展途上国でも出生率が急低下し、人口減少が懸念されるようになっています。
コロナ収束しても「人口減少」は止まらない
こうした人口減少を伝える最近の報道では、決まってコロナの影響が指摘されます。たしかに、アメリカではコロナでこれまで約60万人の死亡者が出ていますし、大半の国でコロナによる経済不安や接触制限が出生数に影響したことは間違いありません。
では、コロナが収束し国民生活が正常化したら、人口減少が緩やかなペースに戻るのでしょうか。それはありえないでしょう。なぜなら、コロナが猛威を振るうようになった昨年よりも以前から、多くの国で少子化・人口減少が加速していたからです。
中でも加速が顕著なのが、韓国です。韓国の合計特殊出生率は元々1.2前後と低かったのですが、文在寅大統領が就任した2017年から急低下し、2018年はついに人類史上初めて1.0を下回る0.98を記録しました。2019年には0.92、2020年は0.84と史上最低をさらに大幅に更新しました(2020年の第4四半期は0.75)。そして韓国の総人口は、昨年から減少に転じました。
政府や専門家の想定をはるかに上回るスピードで少子化・人口減少が進行し、制御不能になっています。韓国政府は5年おきに長期の人口推計を行っており、2016年の推計では、出生率と寿命を低く見積もる低位シナリオ(悲観シナリオ)で総人口のピークを2023年と予想していました。しかし、そのわずか3年後に悲観シナリオの想定より4年も前倒しでピークを迎えたわけです。
生産・消費といった経済活動は、コロナが収束すればいずれ元の水準に戻ります。しかし、人口はいったん合計特殊出生率が低下すると、子どもを産む女性の数が減ってしまうので、少子化が加速し、総人口が自然に元の水準に戻ることはありません。「コロナのせい」「コロナだから仕方ない」と考えるのは、あまりにも楽観的・近視眼的です。
韓国は22世紀を迎えられるのか?
定説では、人口減少で国家を維持できなくなり地球上から最初に消滅するのは韓国だと言われています。
冒頭に紹介したオックスフォード人口問題研究所だけでなく、国連人口部やサムスン経済研究所など韓国内外の専門機関が同様の分析を公表しています。これらの推計は消滅時期を「22世紀」としていますが、近年の合計特殊出生率の急低下を織り込んでいません。そのため最近「韓国は22世紀を迎えられるのか?」という超悲観論まで出始めています。
この異常事態に対して日本では、「韓国の経済政策・人口政策は完全な失敗だった」「文政権は反日とかやってる場合じゃないだろ」といった突き放した論調をよく見かけます。しかし、その論調を真っ向から否定する可能性もあります。
なぜなら、韓国には南北統一という切り札があるからです。北朝鮮の疲弊しきった経済、金正恩氏の不健康そうな姿を見ると、これから30年以上、北朝鮮が正常に存続できるかどうかは怪しいもの。早ければ数年後、遅くとも2050年までには韓国が北朝鮮を併合する未来もありえます。
南北統一が実現すれば、単純計算で2500万人近くの人口が増加。南北統一は政治的・経済的には大きな苦難を伴いますが、こと人口問題については韓国にとって強力なアドバンテージになるわけです。
韓国以外で合計特殊出生率が日本の1.34よりも低いのは、台湾1.05・香港1.05・シンガポール1.14・スペイン1.24・イタリア1.27などです(日本以外は2019年のデータ)。ただ、現状では台湾・香港は国家ではありませんし、シンガポール・スペイン・イタリアは国外から移民を受け入れています。
抜本的な解決策を持たない日本が、このままだと韓国よりも一足早く地球上から消滅する可能性だって否定できません。
日本の人口減少を防ぐ「2つのタブー」への挑戦
政府は「1.57ショック」に見舞われた1990年から30年以上にわたって子育て世代の支援を中心にした少子化対策を進めてきました。しかし、成果は上がらず、すでに手遅れ状態になってしまいました。今後は従来の少子化対策にこだわらず、タブーに挑戦する必要があります。
1つめの挑戦は、人口の地方分散です。合計特殊出生率は東京都1.15に対して沖縄県1.82で、少子化問題はかなりの程度、都市問題です。遷都・分都などで地方に人を誘導する方法が検討されます。ただ、全都道府県で合計特殊出生率が2を下回っている状況で、地方分散は根本的な問題解決にはなりません。
そこで必要なもう1つの挑戦は、移民の受け入れです。いま日本だけでなく多くの国で移民は厄介者ですが、近い将来、欧州諸国が移民を積極的に受け入れる姿勢に転じ、移民の大争奪戦が始まると予想されています。早く方針を転換しないと、金を積んでも移民が日本に来てもらえないという事態になりかねません。
もちろん、これらは大きな痛みを伴う改革であり、国民の理解・合意が欠かせません。そのためにまずは、少子化・人口減少を「コロナのせい」の一言で終わらせず、問題を直視することから始めるべきなのです。