ペットフードからシェービングキットまで、いまやあらゆるものにD2C(Direct-to-Consumer)ブランドがある。そしてこのたび、新たに生命保険のD2Cブランドが誕生した。その名はデイフォワード(Dayforward)。

デイフォワードは、中間業者を排除し、顧客がサイトから直接購入できるようにすることで、保険業界の改革をめざしている。アドエージェンシーのヒュージ(Huge)のCEOで共同創業者だったアーロン・シャピロ氏は、2018年にエージェンシーの世界を去って以来、この仕事に取り組んできた。

「本当に大きな社会的影響のある問題にフォーカスしたかった」と、シャピロ氏は述べる。生命保険加入は複雑なプロセスであり、実際に加入している人は少ない。D2C生命保険の提供により、シャピロ氏は生命保険をもっと身近なものにしたいと考えている。

2020年創業のデイフォワードは現在、テキサス州で生命保険販売のライセンスを取得しており、数カ月ごとに利用可能な州を増やし、2年以内に全米への拡大を目指している。シャピロ氏は「成長のデータを公表するのはまだ早い」としており、現在の顧客数は不明だ。

データドリブンなメディア戦略



シャピロ氏はエージェンシーの経歴から転向したが、いまもかつての従業員の才能を活用している。デイフォワードでは、ヒュージの元エグゼクティブクリエイティブディレクターのティム・ノーラン氏がクリエイティブを統括し、元エンゲージメントディレクターのゾーイ・グリューエンバーグ氏がマーケティングと広告戦略の担当部署のトップを務める。スピードと臨機応変さを実現するため、デイフォワードにはクリエイティブとメディアを担当する社内エージェンシーが設置された。

「コンセプトを考え、すぐにテストし、迅速に最適化を積み重ねられる」と、シャピロ氏はいう。「我々は従来のエージェンシーにはないやり方で、データとクリエイティビティの統合の限界を突破できる」。

デイフォワードは全体的にデータドリブンなメディア戦略を重視しており、最近もコンテンツエンジンとしてインカミングマガジン(Incoming Magazine)を立ち上げた。なお同社の広告費の規模については、詳細を尋ねたものの回答は得られなかった。

「直接テストする絶好の機会」



D2Cブランドを立ち上げたエージェンシー幹部はシャピロ氏だけではない。DIGIDAYが以前に報じたとおり、このところパフォーマンスマーケティングエージェンシーの幹部による独自のD2Cブランドの創業が相次いでいる。複雑な手続きに煩わされることなく、ブランドの成長や自らが信じるマーケティング戦略をコントロールしたいというのが、その動機だろう。

シャピロ氏は2018年にヒュージでの役職を退き、未公開の新たなベンチャーを準備していると報じられてきたが、それがのちにデイフォワードとして実現した。エージェンシー業界の元CEOで共同創業者でもあったシャピロ氏にとって、別のエージェンシーを立ち上げるのは簡単だっただろうが、同氏は新しいことに挑戦したかったと話す。

デイフォワードは「ブランドを実際につくりだすなかで、何がうまくいくのかを自分たちで直接テストする絶好の機会」だと、シャピロ氏はいう。

ヒュージでも保険会社をクライアントとして仕事をした経験のあるシャピロ氏だが、この業界にはディスラプション(創造的破壊)が必要だと考えている。顧客を第一に考えるよりも、ポリシーの宣伝に重きがおかれていると、同氏は指摘する。加えて、世界的パンデミックにより、多くの家族が経済的に厳しい状況におかれているうえに、保険業界はデジタル経済への移行に遅れをとっている。

「いまや何でもオンラインで購入できる時代だ。パンデミックの影響で、最近では中古車や家さえもオンラインで購入できる。生命保険もそうあるべきだ」と、シャピロ氏は語る。

自分の時間は自分のために



D2C投資家でありシャーマブランド(Sharma Brand)の創業者兼顧問でもあるニック・シャーマ氏は、オフィスチェアからエアコンまで、さまざまなD2Cブランドを見てきた。同氏によれば、D2Cブランドの立ち上げはエージェンシー業界から脱出したい人々にとって有望なキャリアパスであり、そこには自由がある。

「エージェンシー幹部は常にテーブルの向こう側の誰か、つまりクライアントのために働いている。D2C企業を経営すれば、自分の時間は自分のために使える」と、シャーマ氏は取材に対してeメールで述べた。

[原文:‘Crafting the brand’: How former Huge CEO is pivoting from agency background in service of DTC life insurance startup]

KIMEKO MCCOY(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:長田真)