感染爆発を受けた緊急事態宣言の再発令によって経済も再び大きなダメージを受ける(写真:Bartolome Ozonas/iStock)

新型コロナの非常事態宣言が再発令されたこの機会に、手前味噌ですが、私が昨年書いた『日本経済予言の書』を読み直しました。この本は前回の非常事態宣言期間中の4月中旬までの情報をもとに、プロの未来予測専門家の技術を駆使して「2021年をふくめてこれから起きること」を予言しました。

本の冒頭にはこのように未来予測の技術の適用範囲を記しました。

1. どれくらいの規模の被害になるかは予測がぶれるがどういうことが起きるかは予測しやすい

2. どの業種でどのような被害が起きるかは比較的明確に指摘できる

3. 新しく見えてきたリスクの芽について警鐘を鳴らすことができる

実際に予測が当たっていたことを並べてみます。


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前回、4月7日に発令されたばかりの緊急事態宣言について、数理モデルを活用して「解除は最短で5月20日、長くても6月3日頃」と予言しましたが、実際に5月25日に緊急事態宣言は解除されています。つまり数理モデルをきちんと見ておけば今回の再流行がどうなるかについても予測はある程度つきそうです。

夏場の第2波がコロナへの警戒度を緩めた?

2020年のその後のコロナの流行について「夏場の第2波では死者は少ないがこの冬の第3波では死者は増加する」と書きましたが、これも残念ながらその通りになってしまいました。8月に急増して9月頭に収束した第2波の特徴は重症者が少なく若者の無症状感染者が多く出ました。

ここである意味「コロナはそれほど怖くない」という誤解が生まれたように思いますが、冬のコロナの危険度は違います。現実にはこの冬、緊急事態宣言再発令の直前段階ですでに第3波の死者数は第1波を上回っています。

2020年のビジネスチャンスは7月から10月まで4カ月しかないとも書きました。2021年の冬の流行までにはワクチンは間にあわないため再度の緊急事態宣言が必要になるという予言もしていたのですが、これも残念ながらその通りの展開になってしまいました。「ウイルスの変異リスクも想定する必要があるという」予言についても、イギリス変異種や南アフリカ変異種が世界の新たな脅威になってきているように、バッドシナリオとして予言通りになってしまいました。

そして、これは書籍に書いた予言ではなく(書籍原稿を印刷に回した後の)とある媒体で5月に出した記事に書いた予言ですが、「この秋に国民は自宅に籠もり政府は国民に外出を呼びかけるようになる」という予言が個人的にはいちばん正しく的中した未来予測になりました。

ご存じのとおりこの秋、コロナの第3波が危惧された時期に菅内閣は最後の最後までなんとかGoToキャンペーンを継続しようと努力しました。最終的に国民の声や知事たちの声明に押されて全国停止に踏み切ったのが12月28日でしたが、それまでの間、経済を回すためになんとかGoToを使い続けてほしいというのが、政府のスタンスだったわけです。

「コロナで最初に大きな打撃を受けるのが航空業界、観光業界、飲食業界そしてイベント業界だ」という予言も的中したのですが、予言が外れた部分についてもしっかりと反省しておきたいと思います。

実は私はGoToについてここまでの規模で政府が対策に踏み切るとは想定していませんでした。書籍の中では否定的に「最大被害を受ける業界がこれまで日本経済再生のカギだと言われてきた業界に集中している。それはインバウンドであり、クールジャパンであり、おもてなし産業です。持ち上げられてきた割にはここまでの政府の対応は冷たいと感じざるをえません」と政府を批判していたほどです。

ちょうど書籍の原稿を書き上げた時期に政府が「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」を閣議決定したというニュースはあったのですが、当時はひとり10万円の特別定額給付金が実現するかどうかも不透明で、持続化給付金が対策の本命だと私は見ていました。政府がここまで踏み切って観光業界、飲食業界を支援するとは想定していなかった。ここは反省点です。

大型倒産が相次ぐかもしれない

ただその点に関連して、まだ必ずしも外れたわけではない予言が残っているという点については今後気を付けなければいけません。それが「2020年の秋以降、大型倒産が相次ぐ」というものです。

飲食業界では残念ながら新型コロナの影響で2020年に過去最多の780件が倒産しています。アパレルも苦境が続いていて、昨年には大手のレナウンが倒産したことが思い出されます。「LCC(格安航空会社)が真っ先に危ない」という予測に関してはエアアジア・ジャパンが破産申請、韓国のイースター航空が経営危機、タイのノックエアラインズが経営破綻という形で現実になってはいます。

ただ、全体的に言えばまだかなりの企業が政府や銀行の支援を受けながらなんとか持ちこたえている状況です。これがこの冬の緊急事態宣言で頼みの綱が切れそうなギリギリのところまできてしまっています。いまのところ菅内閣から具体的な新規支援策は提示されていないこともあり、緊急事態宣言の冬を通じて新たな破綻企業が出現するリスクは相変わらず残っていると思います。

もうひとつ私の予測が外れたのが株価です。昨年、新型コロナのパンデミックが起きた当時、それまで2万4000円台だった日経平均が急落しました。しかしそれは行きすぎだと分析して私は「日経平均の下限は悲観的に見ても1万9000円のラインだ」という予測を提示しています。

そこまでは正しかったのですが、私は2020年の株価は2万円弱のラインで低迷すると考えていました。それが外れて株価は上昇を続け、年始段階で日経平均は2万7000円を超えるラインまで到達しました。

マネーの需給で株価が上がる力が強かった

日本だけでなくアメリカの株価も上昇しています。経済のファンダメンタルズがコロナで打撃を受けたことよりもマネーの需給から株価が上がる力のほうが強かったということでしょう。ただ日米ともに新型コロナ第3波で経済がまた大きな打撃を受けることは間違いないでしょう。

株式投資の最大のリスクは、投資した企業が破綻して株が紙切れになってしまうことです。市場全体のインデックスが上昇しているからといって、自分が株主になっている企業が危うくなってしまえば元も子もないわけです。ですから2021年のどこかで再び株価が下がるリスクはまだ残っています。

ただもうひとつ違った観点で私の株価予測は外れそうです。「将来のどこかのタイミングでパニック売りが出る」と予測したのですが、企業倒産が相次いだとしても意外とリーマンショックのときに起きたようなパニックによる大幅な株価の下げは2021年についてはないかもしれません。理由はAI(人工知能)です。

これまではコロナショックのような不意打ちの不況が訪れると、株式市場にパニックが起きるのが通例でした。そこで「パニックで株価が下がれば買いだ」という人間心理の裏をついたセオリーで儲けることもできたわけです。実際私はリーマンショックで半値まで下がったグーグル株を買って大きく儲けた体験があります。

しかしそういった過去の株価の動きをAIが学んだことで比較的早く買い戻しが起きるようになってきたと私は思っています。実際、アメリカの株式市場では10年前以前にはよくアルゴリズム売買の暴走で株価の急落が起きていたものが、過去10年に限っていえばそれがほとんど起こらなくなりました。

パニック売りを狙った投機のチャンスはおそらく過去のものになってしまったのではないでしょうか。ということで反省もこめて「2021年は株価が下がる局面はあるが、パニック売りは起きないだろう」という形に予言を変更したいと思います。

コロナ不況はどんな形でやってくるか

コロナ不況はどんな形でやってくるか。2020年は主に給与所得の減少によって消費者の財布の紐が固くなることによる一部業種への買い控えが問題になりました。昨年7〜9月期の家計調査のデータを見ると勤労世帯での支出全体が1割抑えられる中で、外食、観光、アパレルといった分野で支出が軒並み2割ほど減っていることがわかります。

そしてそれよりもさらに遅れて2021年後半から2022年にかけて社会問題になるシナリオがありうるのが金融機関のバランスシートの傷みです。

これは特に地方銀行を中心に経済問題になるはずですが、観光業、飲食業、サービス業だけでなく、それ以外でも高額な耐久消費財を扱う企業の一部で将来不安からの買い控えの動きに打撃を受ける可能性はあり、地元の産業に対する貸付の回収が難しくなっている事態が判明するわけです。そうなると金融機関は新たな貸し出しが行いにくくなる。つまり投資が滞り、経済回復がそれだけ遅れることになるわけです。

昨年の夏から秋にかけては特定業種の苦境とその影響を私たちは体感してきたわけですが、それが別の業種にも広がる可能性はあり、そして耐えに耐えてきた企業が破綻をしはじめることで経済停滞が長期にわたるようになりかねない。これがこの先想定される新たなリスクなのです。

『日本経済予言の書』について、これから先の話を続けます。書籍に記したように「大半の人類にとってコロナショックは生死のリスク以上に経済のリスクだ」という認識は2021年に入っても変わりません。そしてまだ実現していない予想として「経済についての最大リスクは2021年のオリンピック中止リスク」という要素がまだ残っています。

多くの読者のみなさんは漠然と「いやいやもうオリンピックはいくらなんでも無理だろう」とお考えかもしれません。現実的にはそうなのかもしれませんが、その経済面での打撃はまだ織り込み済みではありません。オリンピックが正式に中止となれば、相応の経済の反動を覚悟しなければいけません

デジタル化で収益構造そのものが変わる業種も

そして最後にもうひとつ、考えておかなければならない予言要素は「コロナを機に日本でもDX(デジタルトランスフォーメーション)が大きく進む」ことです。


これはイノベーションによる産業の健全な新陳代謝だということでもあるのですが、DXによるパラダイムの転換でコロナ後も永遠に需要が戻らない企業や業界が出るという負の要素が存在します。

一例を挙げればリモートワークが浸透すれば、オフィス需要や出張によるビジネスホテル需要の将来予測を大きく変更する必要が出てくる可能性がある。そういったことをこれから先、未来シナリオとして織り込んでいく必要がありそうです。

ここまでの話が2021年初段階での『日本経済予言の書』の予言のアップデートです。実際はこの後、緊急事態宣言にともなって日本政府がどのような対策を打ち出していくのかによって、また未来の前提が変わっていきそうです。このあたりを注視したうえで、今年も未来予測の専門家としてより正しくタイムリーな未来予測をみなさんに提供していきたいと思っています。