どんなに自分で満足がいくソフトウェアやウェブサービスを開発しても、それが売れなければ収益があがらず、運営を続けるのが難しくなります。Djangoを用いた開発者向けのテンプレート販売サービス・SaaS Pegasusを開発するコリー・ズーイ氏は、販売不振を抱えていたものの、セールを行うことに対しては不快感を持ち続けていました。しかし、思い切ってセールを試してみたところ、1週間で3カ月分に匹敵する売上げを達成できたということで、セールを行う時に参考になる教訓をまとめています。

Lessons from Running a Sale that Earned 3 Month's Profit in a Week | Cory Zue

https://www.coryzue.com/writing/black-friday/



◆付加価値をつけることによる適切な販売構造

アメリカでは感謝祭の翌日に行われるブラックフライデーやサイバーマンデーといった大規模なセールが有名ですが、ズーイ氏が行ったのも、このブラックフライデーに合わせたセールとのこと。一般的にブラックフライデーでは「通常価格の95%引き!」とった大幅値下げが行われますが、このような大幅値下げは膨大なコストが発生するという点が問題です。また、「95%引き」といった大幅な値下げを行うことで、購入した顧客がその製品を「通常価格の5%しか価値がないもの」と見なすことも考えられます。これにより、「素晴らしい商品」のイメージが「ただの商品」に変わってしまうこともあり得ます。

そこでズーイ氏は単純に価格を下げるのではなく、「付加価値をつける」という戦略を立てました。 この戦略はたとえば、通常295ドル(約3万1000円)で販売されている「Tailwind UI」という製品と、通常149ドル(約1万5000円)で販売されている「Refactoring UI」という製品を合わせて279ドル(約2万9000円)で販売するというもの。この場合、購入者は合計で120ドル(約1万3000円)の得をすることになりますが、売る側にとってもいずれか1つだけ売れるより高い売上を得られることになります。



SaaS Pegasusには他にも、単一サイトだけで使える295ドル(約3万1000円)のコースとサイト数無制限の750ドル(約7万80000円)のコースがあったため、単一サイトの価格でサイト数無制限のコースを購入できるようにしたとのこと。これにより、顧客あたりの収益を大幅に減らしたり、製品の価値を下げたりすることなく60%の値引きを顧客に提供することが可能になりました。

◆販売促進

セールで販売促進を行う場合、その対象は大きく4つにわけられます。

1.セールに興味を持っていて、セールの存在に気づいた人

2.セールに興味がなく、セールの存在に気づいた人

3.セールに興味を持っていて、セールの存在に気づかない人

4.セールに興味がなく、セールに気づかなかった人

1と3は潜在的な顧客ですが、2と4は販売促進のメールなどを迷惑に思う人です。販売促進の基本的な考え方は2と4にスパム扱いされないようにしながら、1と3にアピールすること。特に3は顧客の喪失につながる部分なので、一般的には興味のない人に宣伝するリスクを負いつつも、興味を持つ人にしっかりアピールしていく必要があると考えられています。

そして、販売を促進する第一の場所がウェブサイトです。ウェブサイトを訪れている人はそもそも製品に興味を持っている人なので、ウェブサイトの訪問者がセールの知らせを確実に目にする取り組みをすべき。ズーイさんの場合はウェブサイトの上部に黄色い目立つバナーを表示しました。



また、メールリストがある場合、メールリストに載っている人もまた「製品に興味がある人」といえるので、セールの通知を送るべき人に含まれます。

ズーイ氏は、以下の2回のタイミングでメールを送りました。

1.セール開始時

2.セールの終了まで残り24時間の時点

なお、セール終了の48時間前にもメールを送る人もいるとのことですが、4通以上のメールは「迷惑行為」とみなされる可能性があるため、推奨されていません。

そして、ズーイ氏がお気に入りだというお知らせメールの例は以下の通り。メールの構成は上から「自己認識」「偽りのなさ」「ブラックフライデーメールをミュートにするオプション」「適切な量のアピール」「感謝の意」となっています。



上記のメールを翻訳するとこんな感じ。内容は、オンラインコースの講師が生徒にセールを伝えるものです。

「分かっています、月曜日にまたブラックフライデーのメールか!って感じですよね。

でも最後まで聞いてください。今週は、私の年収の大部分がかかっているんです。もうしばらくの辛抱を。

ブラックフライデーのセールには我慢できないけれど、私のことは嫌っていないという場合は、ここをクリックしてセールが終了するまでミュートにしてください。もし一切のメールを受け取りたくないということであれば、ここから定期購読をやめることもできます。

私はオンラインコースで大幅なセールをやっていて、そのほとんどが50%オフです!このようなセールは年に1回しかやりません。年を越す前に新しいことを学びたいと考えている人、あるいは2021年の初めから勉強を始めたい人は、いますぐ1つか2つ試してみてください!

それだけです!2020年は大変な年でした。サポートしてくれた全ての人に感謝します。このような仕事を得ることができたこと、そしてコーディングと平凡なジョークを伝えることができたことを幸運に思います」

◆セール中のトラフィックを促進する

セール中にトラフィックを促進する試みを行うことは、他のどの時期に行うよりも価値があるとズーイ氏。広告を掲載している場合はセール実施中の予算を増やし、コンテンツマーケティングを行う際には記事や記事広告を公開することを検討すべきとのこと。

ズーイ氏の場合はModern JavaScript for Python Developersというカンファレンスを開催した際に、潜在的顧客であるPython開発者が見ているだろうと考えて、プロモーションを行ったそうです。カンファレンスを映したムービーはオンライン掲示板であるDjango subredditで話題となったため、セール中のウェブサイトへのトラフィックが大きく跳ね上がり、数百から数千ドル(数万から数十万円)の収益につながったとズーイ氏は述べています。



◆セールの結果

上記のような取り組みの結果、ズーイ氏は1週間で通常の3カ月分の売上げを上げることができたとのこと。



セールの詳細は以下の通り。

実行日数:7日

総売上数:21個

総収入:6195ドル(約64万4500円)

利益総額:6002ドル(約62万4400円)

メールからのコンバージョン率:0.8%(6売上)

新規登録からのコンバージョン率:16%(14売上)

また、セール中に誰かがアカウントを作成した場合、セール前に比べて製品購入の確率が20倍近く高くなることもズーイ氏は記しています。