菅総理と加藤長官

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防衛省「馬毛島」買収に暗躍した「加藤勝信」官房長官(2/2)

 鹿児島県の種子島の西方約12キロに浮かぶ広さ約8平方キロメートルの無人島、馬毛島(まげしま)。昨年12月、政府はこの馬毛島を約160億円で買収すると発表したが、買収を巡り、加藤勝信官房長官による“口利き”があった疑惑を前回(「利権の島」買収の裏に「加藤官房長官」 “口利き”面会記録も)報じた。評価額45億円といわれる島が160億円で買収された裏側とは――。

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 地権者は島の99%以上を保有する「タストン・エアポート」(以下、タストン社)という会社である。すでに島の所有権の半分以上が国に移っており、全てにおいて売買が完了したあかつきには、米軍空母艦載機の発着訓練(FCLP)用地として利用される予定だ。

菅総理と加藤長官

 が、この買収の裏で大きな役割を果たした「リッチハーベスト」(以下、「リッチ社」)という不動産会社が、タストン社を相手取り、馬毛島の売買代金160億円の3%、約5億円を仲介手数料として支払うよう求める民事裁判を起こしていることはまだほとんど知られていない。

 タストン社とリッチ社は専属専任媒介契約を結んでおり、その背景に「脅迫」があったとタストン社側は主張しているが、提出された証拠には興味深い点がある。

 その証拠とは、馬毛島売買の仲介行為に関する「面談記録」である。これを見ると、専属専任媒介契約が交わされた2日後の2016年6月2日、リッチ社は当時内閣府特命担当大臣だった加藤勝信官房長官の議員会館で秘書と面談している。

馬毛島買収の経緯

 さらにその2年後18年10月25日から12月28日にかけて、リッチ社は4度も議員会館で面談している。タストン社と防衛省が馬毛島の売買仮契約を結んだのは19年1月9日だから、契約直前にリッチ社は加藤氏と面談を重ねていたことになるのだ。

 では、リッチ社と加藤氏はいかなる関係なのか。政府関係者によると、

「リッチ社と加藤さんの義父、故加藤六月元農水相は古くからの親しい間柄で、それが勝信氏に引き継がれていると聞いています」

 リッチ社は加藤氏を使って馬毛島売買交渉をまとめたことにより、いかなる利益を得たのか。それに触れる前に馬毛島の歴史をざっと振り返っておきたい。

いわくつきの島

 日本の無人島として第2位の広さを誇る馬毛島は、金と人間の欲望に翻弄され続けたいわくつきの島である。その歴史は、常に利権にまみれてきた。

 元々は1970年代、後に不正融資事件で経営破綻する平和相互銀行がレジャーランドを建設する目的で島の一部を買収したのが発端だ。平和相銀の子会社、馬毛島開発が所有者となったが、レジャーランド計画は頓挫。80年代には平和相銀の幹部が大物右翼を使い、自衛隊のレーダー基地として当時の防衛庁に買収させようと画策。数十億の金を政界にバラ撒いたとの疑惑が持ち上がったこともある。

 勲氏が社長を務める立石建設が馬毛島開発を4億円で買収したのは95年。その後は使用済み核燃料の中間貯蔵施設の建設計画が浮上したり、沖縄の普天間基地の移転先候補として取沙汰されるなど、さまざまな思惑に翻弄されてきた。

「勲氏が馬毛島開発を買収した時には島の約6割の土地しか買収されておらず、残りは勲氏が地権者を一軒一軒訪ねて買い増した」

 と、先の政府関係者。

「勲氏は一時、貨物専用空港を構想し、滑走路整備と土地の買い増しで200億円を上回る資金を投じたと主張していました。その後、米軍空母艦載機の発着訓練(FCLP)の誘致に切り替え、防衛省との協議を開始してからも滑走路の整備を続けました」

「あまり筋のいい会社ではない」

 民主党政権時代の2011年には、日米外務・防衛閣僚会合(2+2)の共同文書に馬毛島がFCLPの候補地として明記された。にもかかわらずその後、防衛省と折り合いがつかない状況が長く続いたのは、

「あくまで売買での契約を求める防衛省に対し、勲氏が賃貸借契約を強く求めたためです。あと、勲氏がほうぼうから借金を重ねたことも影響した」(同)

 勲氏に近い関係者は、

「勲さんは物事を大げさに言う癖のある人なので、『馬毛島が高額で売却できたあかつきには……』といったことを言ってさまざまな人や会社から借金を重ねてきました。正直、そこを突かれると閉口するしかない、という状況のようです」

 リッチ社と勲氏が初めて接点を持ったのは12年。それも「借金」を巡ってのことだった。

「すぐにお金を用立てる必要があり、とあるブローカーに紹介されたリッチ社に借金することになったと聞いています」

 と、勲氏に近い関係者は語る。

「このブローカーはすでに亡くなっている方なのですが、たちの悪い人物で、彼に紹介された会社と勲さんは現在に至るまでことごとく揉めています。16年に馬毛島の土地に極度額5億円の根抵当権設定仮登記を打った広域暴力団元組長から金を借りたのも彼経由でした。この元組長とは裁判になり、18年に仮登記が抹消されています」

 リッチ社については、

「後々調べてみたところ暴力団も関係したと言われるJR川崎駅前の土地にも関わっており、あまり筋のいい会社ではない、と聞きました」(同)

「馬毛島を400億円で国に売れ」

 そのリッチ社からの「借金」は異例の形式をとっており、それが後々まで勲氏を苦しめることになった。

「リッチ社と勲氏は、世田谷区の経堂にある立石建設本社ビルと成城にある不動産の売買契約を交わし、勲氏は手付金という形でそれぞれ1億円と5千万円を借り入れた」

 と、事情を知る関係者。

「勲氏はこの売買契約は金を借りるための『架空』のものだと考えていたが、13年、14年の裁判で『架空の契約ではない』と認められており、勲氏は違約金として約4億円と約1億円、およびそれぞれの遅延損害金を支払わなくてはいけない状況に陥った」

 リッチ社はこの違約金について、

「立石建設本社ビルに抵当権を設定するよう要求してきた上、数回にわたって競売申し立てを行ってきた、と勲氏側は裁判で主張している。競売の期日が迫り、勲氏が“待ってほしい”と頼むとさまざまな条件をつけてくるのがリッチ社のやり方だったようです」(同)

 そんな中で登場するのが馬毛島である。勲氏側によると、16年5月末頃、

「馬毛島を400億円で国に売れ。閣僚の某に話をつけてあるから」

 とリッチ社役員に迫られ(リッチ社側はこの発言を否定)、そのための専属専任媒介契約を交わすよう求められたという。そして、契約締結に至るのだ。

 その契約書を加藤氏の事務所に持っていったとみられるが、

「リッチ社は、加藤氏とのパイプを使えば膠着した売買交渉を打開し、高値で馬毛島を売却できる、と勲氏を信用させたのでしょう。実際、菅さんと近い加藤氏の『口利き』があれば、馬毛島を国に売却できる可能性は高まる」

 と、先の政府関係者。

「リッチ社は利息制限法ギリギリの年利15%で勲氏に金を貸していましたが、馬毛島さえ売れれば債権は回収できるわけですから、低リスクで高利回りの投資を行ったようなもの。実際、当初1億5千万円だった債権は最終的に約6億6千万円まで膨れ上がった。しかし馬毛島が売れたことにより、すでに全額『税金』によって回収できています」

 リッチ社はこの「投資」によって約5億円もの利益を出した上、さらに仲介手数料を求めて裁判まで起こしているのだから、何ともえげつないことである。

115億円が上積みという謎

 これら全ては馬毛島の売買が成立したからこそ動き始めたわけだが、この件に関する最大の謎は160億円という売買金額である。何しろ、17年に防衛省が出した土地評価額は45億円。それから売買仮契約が交わされる19年1月までの間に115億円が上積みされたわけである。その背景には何があったのか。

「当初、防衛省はリッチ社に対して『根拠のない国費の支出には応じられない。増額できるとしても100億円を超える額には応じられない』との立場を崩さず、勲氏側も売買代金が200億円を下回ることは容認しない、と主張。18年10月までは交渉は平行線のままだった」

 事情を知る関係者(前出)がそう明かす。

「そこでリッチ社が『売買代金額180億円であれば責任をもって勲氏を説得する』と申し出たところ、防衛省側から『売主の一本化を条件に150億円を超える売買代金を検討する』との回答が寄せられた」

 その後のやり取りについて、リッチ社側は件の訴訟で次のように明かしている。

〈媒介報酬及び被告(勲氏)グループ会社の既存債務の完済ならびに譲渡所得税納付の為には160億円の売買代金額が必須であることを防衛省に説明して粘り強く交渉した結果、同年(18年)12月26日に内諾の連絡を得た〉

 そして、この〈粘り強い交渉〉があったとされる18年10月から年末までの間に、前述した通り、リッチ社は加藤氏と4回、和泉洋人総理大臣補佐官と3回の面談を重ねているのだ。

買収金額を“工作”

「“どのように土地鑑定評価をしても45億円がせいぜい”と主張する防衛省を押し切り、勲氏が勝手に作った滑走路の建設コストを無理に上乗せして160億円という買収金額を工作したのが、菅さんの意を受けた和泉補佐官と、加藤さんだったと見られている。菅さんが加藤さんを官房長官に抜擢したのはその論功行賞もあったのでは」

 と、永田町関係者。いみじくもリッチ社が提起した裁判の証拠資料がそれを裏付けた形だ。

「ちなみに買収が完全に済んだ後、今ある滑走路は撤去されて改めて政府が建設することになっています。無駄なものを価値あるもののように算定したおかげで、血税120億円が消えた、と言えるでしょう」

 売買の立場は逆とはいえ、「森友疑惑」同様のきな臭さが感じられるのだ。

「18年には、不透明な価格算定が行われたのと同時に、タストン社に対して相次いで第三者破産手続きが取られており、リッチ社も6億円の返済を迫り、立石建設本社ビルに極度額10億円の根抵当権を設定。こうした動きを裏で焚きつけていたのは防衛省だった、とリッチ社は裁判で明かしていますが、菅さんや加藤さんも当然、無関係ではないでしょう」(同)

 国側の目的は、

「のらりくらりと交渉を先延ばしにする勲氏の排除です。実際、18年10月15日には債権者の申し出を受けて勲氏がタストン社の社長を退き、次男の薫氏が代わりに就任している」(同)

 そして、薫氏が社長を務めていた19年1月に仮契約にこぎつけたわけである。しかし、160億円での契約に納得がいかない勲氏は2月にタストン社の社長に返り咲く。「中国系企業に売る」として4月に防衛省に対して交渉打ち切りを通告したが、

「11月上旬、債権者から『11月末までに馬毛島を売却しない場合社長解任に追い込む』と通告され、防衛省との交渉を再開します。この債権者の背景にも防衛省の存在があったことが分かっています」

 と、事情を知る関係者(前出)が明かす。

「結局、馬毛島の一部、約4万坪の土地をタストン社が持ち続け、その土地評価額を約4億円とし、増額もあり得るとの『プラスアルファ』を国側から引き出したことで納得し、11月末の売買予約契約に至りました。勲氏としては一部土地を持ち続け、今後の開発工事に関わりたいとの狙いがあったのでしょう」

「赤字になる可能性も」

 一連の経緯について取材を申し込んだところリッチ社の社長はこう回答した。

「(取材申し込み文には)『加藤長官の口利きにより160億円での売買仮契約が締結された』とお聞きになられたとありますが、被告株式会社タストン・エアポートからお聞きになられたということでしょうか。弊社代表者は、故加藤六月氏と親交があり、そのご縁で加藤勝信長官とも面識を得ておりますが、馬毛島取引に関して何らかの謝礼をお支払いしたという事実はございません」

 一方、加藤氏の事務所は、

「ご指摘の土地は、防衛省が交渉に当たり、売買に至ったものと承知しております。また、パーティー券等の政治資金は法令に従い適正に処理し、その収支を報告しているところです」

 勲氏に近い関係者は、

「リッチ社への支払いが島売買による税金から出ていることを突かれると……そうですね、そういった批判はあると思います」

 とした上でこう語る。

「結局、当初の試算では160億円でこれまでの債権は整理できる予定だったのですが、リッチ社から仲介手数料を求められている件もあり、赤字になる可能性も出ているようです」

「週刊新潮」2020年11月19日号 掲載