ブラックでもないのに志望学生が集まらない企業にはどんな特徴があるのだろうか(写真:8x10/PIXTA)

毎年学生の企業に対する志望度を調査しているが、年を追って好悪が明確になってきているように感じる。メディアのブラック企業報道、政府の働き方改革や女性活躍推進の取り組み、そしてキャリアセンターの指導によって企業選びの目が肥えてきている。

年によって重点項目の変遷もある。今年はコロナ禍によって「テレワーク」「オンライン」「フレックスタイム」への関心が高い。

その一方で、採用のタブーになっている項目もあるが、タブー項目を自覚せずに上から目線で学生に接し、墓穴を掘っている企業もある。2021年卒採用で学生の不評を買った項目を紹介したい。

使用データは、HR総研が2020年6月に「楽天みん就」と共同で、2021年卒学生に対して行ったアンケート調査である。

対面選考にこだわる企業

まず紹介したいのは、コロナ禍への対応である。4月、5月は採用のハイシーズンだが、今年は緊急事態宣言が発令され「外出自粛」「イベント自粛」「在宅勤務」などにより、企業と学生の対面接触が制限されていた。しかし、鈍感な企業が事態を甘く見て対面選考を続けていたようだ。


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多くの企業が対面選考からWebセミナーやオンライン面接に切り替え、混乱はあったが自粛要請に応えていた。強引な対面選考にこだわる企業は目立ったはずだ。こういう公徳心に欠ける企業に対する学生の視線は冷たい。

「コロナで緊急事態宣言が出たのにもかかわらず、対面選考にこだわっていた会社」(文系・その他私立大)

「コロナウイルスの影響でオフラインイベント自粛が進む中で、会議室に人を集めた説明会を実施した」(文系・旧帝大クラス)

「緊急事態宣言が出されていたにもかかわらず、対面でグループディスカッションが開催されていた」(文系・その他国公立大)

「コロナ禍での本社面接」(理系・旧帝大クラス)

緊急事態宣言への対応で採用スケジュールは大幅に狂った。年初にコロナ禍の広がりを予見した人はほとんどいなかったからやむをえない。問題は学生への対応、説明責任だ。

学生の焦り、戸惑いに応えず無視したり、連絡しなかったりと礼儀に欠ける企業がかなり多かったようだ。

「エントリーシート(ES)が通過したにもかかわらず、その後の人事面談が人数の関係で予約できず、選考がスムーズに進まなかった」(文系・早慶大クラス)

「連絡が遅い企業で、遅くなる旨の連絡もくれないところは就活生のことを考えていないなと感じた」(文系・上位私立大)

「コロナの影響と言って、全然連絡をくれなかった」(文系・旧帝大クラス)

注目を集める「テレワーク

学生のコメントで今年目立つのは「テレワーク」と「フレックスタイム」だ。コロナ禍によってフォーカスされることが増えたからだろう。

コメントを読むと「テレワーク」がないことが後進性のように受け止められているように思える。実際はどの業種、職種でもテレワークが可能なわけではない。

欧米では医療、警察・消防、銀行、スーパーなどの生活インフラに直結する業種に従事する者を「エッセンシャルワーカー」と呼んでいる。「エッセンシャル」は「欠くことができない」「絶対必要」という意味だ。

しかし、学生には「テレワーク=good(先進)」「出社=bad(後進)」というイメージがこの数カ月で定着したようだ。「コロナ禍が恐い」という心理も働いているだろう。

「リモートワークできない」(理系・上位私立大)

「コロナの状況下でリモートワークがほとんど推進されていない」(理系・上位国公立大)

「フレックスタイム」もgoodイメージだ。導入されていてもコアタイムのあるフレックスタイムは敬遠される。朝礼などの古い企業イメージを嫌う学生は多く、自由に働きたいらしい。

「フレックスタイムが導入されてない」(理系・旧帝大クラス)

「8時から12時のコアタイムフレックス制度。朝礼で社歌を流しながらラジオ体操を行うなど」(文系・早慶大クラス)

休日や残業時間への関心はとても高い。給料よりも労働時間に関するコメントが多い。その理由は、初任給は横並びで大した差もないからなのかもしれない。

IT業界では「初年度年俸1000万円」という企業もあるが、これはAIなどの高度なプログラム能力に対する処遇だ。こういうジョブ型を前提とした採用は異例中の異例。ほとんどの企業は学生を採用してから育成するので、初任給の差はあまり大きくない。

サービス残業は当然嫌われる

それよりも学生が注意深く見ているのは残業時間だ。長時間残業とサービス残業をとことん嫌がっている。

「ワークライフバランスを充実できるかどうかを重視していたので、残業が多い企業には魅力を感じなかった」(文系・その他国公立大)

「サービス残業(理系・上位国公立大)

みなし残業(見込み残業、固定残業)の評判はもっと悪い。たぶん「基本給にプラスされる手当」という言い方に欺瞞臭を感じとるのだろう。

「みなし残業は額面にかかわらず志望度が下がった。働いた分だけ残業代が出るほうが、安心できると感じた」(文系・早慶大クラス)

「固定残業が含まれ、基本給が20万円を切っていることや、住宅手当が2万円以内など」(文系・上位私立大)

労働時間と報酬についての警戒感は強い。裁量労働制は、本来は特定の職種に限定された「高度なスキル労働に対する報酬制度」なのだろうが、みなし残業として運用している企業があり、学生はこの言葉を聞くだけで警戒する。

当たり前だろう。「新入社員から裁量労働制」と聞かされれば、残業代も出ないのに「ノルマを課される」と考えて当然だ。

インセンティブ制度にも疑いが持たれている。もともと個人の成果に対して正当に評価し報酬や休暇を与えるものだが、学生は企業がそういう志を持っているとは考えていない。基本給を抑えて、一部の成績優秀者だけを優遇する制度ととらえがちである。

「1年目からの裁量労働制」(文系・その他私立大)

「裁量労働制を導入している会社」(理系・旧帝大クラス)

「インセンティブ制度、みなし残業代制度がある会社」(文系・上位国公立大)

「ノー残業デー」も要注意

ノー残業デーは、残業時間を削減するために導入した企業が多いはずだ。そして、福利厚生の一環と自慢する経営者もいるが、これまた疑われている。学生は「残業時間が多いからノー残業デーがあるのか?」「ノー残業デーの代わりにノルマがきついのではないのか?」と考えるのだ。

「ノー残業デーなど、反対に就業時間のノルマが厳しくなるのかなと思ったから」(文系・早慶大クラス)

就活を終えた学生の感想を読むと、「大人はウソつきだ」「都合のいいことしか言わない」などの詰問調での不満が必ずある。学生は「本音」を聞きたいと思って説明会に参加するのに、「企業は誤魔化そうとしている」と感じてしまうのだ。

誰だって正直に話したくないことはある。先生・親に隠したいことはあるし、友だちにも言いたくないことがある。企業にもあるだろう。

ただし、学生の関心が残業時間や離職率などにあると、その誤魔化しは透けて見える。そして誤魔化そうとする企業は「改善しようとしないブラック企業」そのものだ。

もっともホワイトであればそれでいいというものではない。

「ホワイト企業であることしか売りがなく、事業にまったく興味がなかった」(理系・上位私立大)

「パネルディスカッションで、社員同士の仲の良さをひたすらアピールするところ」(文系・早慶大クラス)

確かにホワイトかもしれないが、将来性は感じない。

「威張る社長」に「粗雑な人事」

大人が常識をわきまえているかというと、そうでもないようだ。まず威張りたがる社長がいる。

「インターンシップでの社長講演。具体的な経営ビジョンを示さず精神論のみを語られていたため、志望度が下がった」(理系・その他国公立大)

学生との懇親会の途中で帰ってしまう社員もいる。

「インターンシップの懇親会の途中で先輩社員が帰る」(理系・その他私立大)


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粗雑な人事もいる。

「エントリーシートの受領連絡もなく、締め切りから何カ月も音沙汰がなかった企業。提出からかなり経ってから通過連絡があったが辞退した」(文系・早慶大クラス)

「エントリーシート通過から面接まで1カ月以上空くにもかかわらず、まったく接触がなかったこと」(文系・早慶大クラス)

今年はコロナ禍によって連絡が遅れた企業が多かったが、ねちっこくしつこい企業も存在する。

「エントリーしただけで、電話が何回もかかる。そして、辞退の電話やメールをしても、聞いていなかったかのように何度も連絡が来る」(文系・その他私立大)

このほかにも評判の悪い企業としては、オワハラ、サイレント(不合格連絡なし)、きついインターンシップ、圧迫面接、暗い社員、つまらない説明会などがある。いくらでも工夫の余地があるはずだが、こういうタブー項目が毎年繰り返されている。

そして、説明会では企業理念や事業構造を説明して学生の共感を得ようとしている。不思議だ。こういう企業は採用でも苦戦するはずだし、本業で成果を出しているとは思えない。