日本人観光客にもよく知られている華西街観光夜市のゲート(北端)

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海外旅行がままならず、自宅で楽しく過ごす方法を模索するみなさんに、今回は自宅で台湾情緒にどっぷりつかれる映画を紹介したい。

【写真11枚】台北ディープ・ゾーンの魅力をさらに見る

台湾映画はほんわかしたラブ・ストーリーや学園モノが目立つが、一方で台湾の特定の街を舞台にしたものも多い。いずれも風景描写が絶妙だ。

この機に、訪れたことがある台湾の街や、これから行ってみたい土地にまつわる映画を鑑賞し、「行った気分」になってみてはいかがだろうか。

台北の下町風情と美形男子満載の映画『モンガに散る』

80年代の台北西部の艋舺(バンカ、萬華)という街を舞台とした映画『モンガに散る』(原題=艋舺。2010年)。

艋舺は日本人にもなじみ深い龍山寺や華西街観光夜市のある繁華街だ。

かつては蛇の血やスープを飲ませる店が有名だったので、ご存知の方も多いかもしれない。

東京でいえばひと昔前の浅草、大阪でいえば天王寺、ソウルでいえば鍾路3街のようなところだ。

『モンガに散る』は艋舺を根城とする本省人ヤクザと、勢力を拡大しようとする外省人ヤクザがしのぎを削る物語だが、その主人公は高校中退の極道予備軍の若者5人だ。彼らが艋舺という街に翻弄されながら成長する姿が描かれている。

ヤクザ映画といってもそこは台湾映画。コメディやロマンス、懐かしい80年代の音楽が盛り込まれていて、女子でも十分に楽しめる。

しかも、5人中3人はかなりのイケメンだ。彼らはいずれもグッドシェイプで、タトゥーの入った裸身を惜しげもなくさらしているので目の保養になる。

本省人ヤクザの活動拠点は艋舺の清水厳祖師廟という実在する廟だ。龍山寺と西門町のほぼ中間に位置するこの廟には、今でも境内に飲み屋や深夜営業のお粥店がある。

台北リピーターなら見覚えのある風景満載

映画の冒頭では華西街観光夜市の南端のゲート前で大乱闘が起こったり、今も健在な老舗のイカあんかけ屋台『兩喜魷魚羹』で主人公が買い物をしたりするシーンもあるので、台北リピーターなら「あっ、ここ行ったことある!」と興奮すること間違いなし。

艋舺の全盛期(台北の西側が開発される前、艋舺や西門町が中心的繁華街だった)の匂いを存分に堪能できる。

ほかにも、屋台で使われているシマシマのビニール袋、「當」という文字が書かれた質屋の看板、廟をうろつく野良犬など、懐かしい台湾の風景がリピーターの心をくすぐるだろう。

また、主人公の若者たちがオーディオ店街を走り抜けるシーンや義兄弟の契りを交わすシーンは、香港映画『インファナル・アフェア』(2002年)にも通じるものがあり、香港映画ファンにもおすすめだ。(←たぶん台湾がパクった)

日本に居ながら台北ディープ・ゾーン歩いた気分に

艋舺はかつて赤線地帯としても有名だった。今は飾り窓のようなあからさまな店はないが、それでも路地裏を歩いているとそれらしい「理容店」や「茶館」、その周りで客待ちするストリートガール風の女性を見かける。

主人公の高校生が初めて売春宿を訪れ、娼婦と恋仲になるシーンは、殺伐とした物語に甘酸っぱさを添えている。

『モンガに散る』のもうひとつの楽しみはボーイズラブ疑惑。

男どうしの友情っていいなあ、と思わせるシーンがたくさんあるのだが、モンク(イーサン・ルアン)と呼ばれる若者はどうも女性に興味がなさそうで、義兄弟であるドラゴン(リディアン・ヴォーン)に向ける視線がどこか悩ましい。

描写が曖昧とはいえ、民俗的多様性や性的多様性を認め、LGBTに大らかな台湾ならではの設定だ。

この映画では、ヤクザの縄張り争いを通して台湾の民族的葛藤も垣間見える。艋舺は本省人と呼ばれる戦前台湾に移民した人々が暮らすエリアだが、そこへ外省人(日本の敗戦後、蒋介石が大陸から率いてきた人たち)というよそ者が入ってくる。

本省人ヤクザが話す台湾語と外省人ヤクザが話す北京語の雰囲気の違いなども聞き分けられたらおもしろいだろう。

また、日本の桜に憧れる主人公の心象風景の描写も、本省人の日本に対する複雑な感情を表していて興味深い。

戦前は日本人に、戦後は中国人に翻弄された台湾人の苦悩をところどころで垣間見ることができる。

ヤクザ映画なので、目をそむけたくなるような激しいシーンもあるが、乱闘や果し合いの場面の背景にムードのあるホーンセクションの曲が流れたり、売春宿で主人公と娼婦がエア・サプライのヒット曲を聴いたりするシーンが、一服の清涼剤となっているので、最後まで心地よく鑑賞できる。

台湾ロスを補って余りあるこの作品、ぜひ観ていただきたい。

(つづく)