新型コロナウイルスの感染拡大で、いまだかつてない深刻な状況に直面しているイタリアだが、どうやら最悪の状態からは抜け出し始めているようだ。そうなってくると話題にのぼるのが、リーグ戦の再開だ。一部のチームからはできるだけ早い時期での再開を望む声が上がっている。だが、そのスケジュールについての議論は迷走中だ。

 まず、レーガ・カルチョ(イタリアサッカーリーグ)はリモート会議を開き、セリエA各チームの決を採った。そこで決定した再開日は6月13日だった。これに待ったをかけたのがイタリア政府。5月18日、「いかなるスポーツイベントの開催も6月14日まで認めない」と発表したのだ。これを受けて、イタリアサッカー連盟は、「中断期間を6月14日まで延長する」とコメントした。


トレーニングのためユベントスの練習場に到着したジャンルイジ・ブッフォン photo by AFP/AFLO

 これにより、再開がその翌週(6月20日)以降になることが決まったのかというと、それもまた違う。レーガ・カルチョは13日再開へ向けて政府と「話し合いを続けていく」とし、イタリアサッカー連盟も「その決定次第」と、13日開幕へ含みを持たせているのだ。

 なぜ6月13日、14日の再開にこだわるのか。

 セリエAで消化されていない試合の数は12。ただし8チーム(インテル、サンプドリア、アタランタ、サッスオーロ、ヴェローナ、カリアリ、トリノ、パルマ)はプラス1試合が残っている。

 一方、UEFAは各国のリーグに8月2日までに今シーズンを終了するよう指示している。UEFAは8月6日から、延期されたEL(ヨーロッパリーグ)とCL(チャンピオンズリーグ)を集中して行なうことを目論んでおり、それまでに各国リーグの日程を消化してほしいのだ。6月13日に再開した場合、週2回のペースで試合をすれば、この期限に間に合うことができる。

 それだけでなく、コッパイタリアの準決勝第2戦のユベントス対ミラン(6月30日)、とナポリ対インテル(7月1日)、そして決勝(7月22日)も行なうことができる。もし再開が1週間延びて6月20日となったら、この3試合を行なうのは無理だろう。

 考慮しなければいけない点は山ほどある。たとえばイタリア政府は、リーグの再開については非常に慎重だ。ゴーサインを出す前に、リーグ再開が新たなパンデミックを起こさないか、さまざまな観点から吟味したいようだ。サッカーは密のスポーツだ。マスクをして距離を置いてプレーできるものではない。スポーツ大臣のビンツェンツォ・スパダフォラはこう述べている。

「再開を望む気持ちが大きいのはわかる。だが、確実な対応が取れなければスタートさせない。サッカー選手はスーパーのレジ係とは違う。集団で走り、汗をかき、ぶつかり合うスポーツ。ソーシャルディスタンスを保ってのプレーはまず不可能だ」

 再開後、もし選手が試合後に陽性となったらどうなるのか。もちろん、すぐにその選手は隔離され経過観察になるが、影響は本人にとどまらない。チームメイト、コーチ、マッサー、チームドクター、そして相手チームの選手、スタッフに至るまで隔離の対象となる。つまり、ひとりの陽性者が出ただけで、リーグはストップすることになるだろう。そうなればフランスと同じように、今シーズンは中止となるに違いない。

 こうしたリスクを冒しても、再開したいのにはチームの経済問題が絡んでくる。

 クラブチームの財政のかなりの部分はテレビ放映権で賄われている。1年分の放映権は通常6回に分割して支払われるが、リーグがストップしたままだと最後の1回分の支払いがなされない可能性がある(5回分はすでに支払い済み)。額にすると1千万ユーロ(約12億円)近く、多くのチームにとっては死活問題だ。

 多くの選手は給料の減額などをチームに申し入れているが、焼け石に水だ。つまり、チームはリーグを再開するか、へたをすると破産するかの選択を迫られている。中小チームだけでなく、伝統あるビッグクラブでさえ同じ状況だ。

 ちなみに各チームは、不可抗力で試合がなくなった場合の条件は、テレビ局と交わした契約書には記載されていないと主張している。もし局側が支払いを拒否すれば、裁判になるだろう。レーガ・カルチョ側は「2020−21シーズンの放映権がほしいなら、支払い期日を順守してほしい」と、局に迫っている。

 しかし、すべてのチームが早期の再開を望んでいるかといえば、そういうわけではない。そこには個々の事情が絡んでくる。

 たとえばマリオ・バロテッリのブレシアは再開には反対だ。ブレシアは感染の激しかった地域だからだが、別の思惑もある。ブレシアは現在最下位で、このままではB降格は免れない。だが、もしリーグがこのまま中止になってしまえば、来年もセリエAでプレーできる。さらにトリノ、ウディネーゼ、サッスオーロ、ナポリ、サンプドリアは準備不足などを理由に、6月13日ではなく、6月20日の再開を支持している。

 選手について言えば、リーグが再開するのであれば多くが1日も早くピッチに戻りたいと思っているだろう。個人での練習には限度がある。試合をしなければプレーの勘も鈍る。ただし、外国人選手はほとんどがイタリアから脱出して母国に帰っていたため、戻ってきてもすぐにはチームに合流することができない。政府の決定に従って、2週間、自宅待機をする必要がある。

 来週の月曜日から集団での練習が始まるが、まずは選手の身心の状態をチェックする必要があるだろう。感染したパウロ・ディバラ(ユベントス)も今は元気になったが、ずっと練習していなかった彼の体力がどうなっているのかはまだわからない。

 チームドクターの責務は非常に重いものとなるだろう。スポーツドクター協会は、4日に1度の選手全員の検査を提案しているが、政府はまず合宿の前に一度、その24時間後にもう一度の検査を求めている。すべてが未定であり、おまけに何が正しいかがわかっていない状態だ。

 一方で、サポーターは早期の再開には否定的だ。各クラブの熱狂的なサポーターグループ、ウルトラスは普段のライバル関係を乗り越え、200以上のグループが手を結び、「Stop Football. No football without fans」のスローガンのもと、リーグ再開に反対の声を上げている。

 6月13日に試合が再開された場合も、当面は無観客で行なわれる予定だ。

「それではサッカーの醍醐味が失われてしまうし、何も確実なことがないのに再開をしてしまえば、流行の第二波が起こるのではという恐れがある」

 そう言うのは、アタランタのウルトラスのリーダーだ。アタランタは今シーズンすばらしい躍進を遂げていた。リーグがストップした時の順位は4位で、来シーズンCL出場の可能性も大いにある。しかし同時に、アタランタのあるベルガモはもっとも被害を被った町の一つでもある。

「(アレハンドロ・)ゴメスがゴールを決めたとしても、今は素直に喜ぶことはできない。亡くなった人、大切な人を亡くした人へのリスペクトがまるでない」

 彼はアタランタの会長にメッセージを送り、ベルガモのスタジアムの入り口に、次のような横断幕を掲げた。

「我々の痛みをお前たちは忘れようとしている。しかし、街に人がいなくてはサッカーに意味はない」

 トリノのウルトラスのリーダーの声明はより過激だ。

「どの街にも何千人という死者が出た。それなのにお前たちは、もうサッカーで金儲けをすることを考えている。根絶しなければいけないウイルスはお前たちだ」

 サッカーが戻ってくるのは嬉しいことだが、現状は、まだあまりにも不確定なことが多すぎる。