無自覚に「部下のやる気を殺ぐ」リーダー6選
会社やチームのメンバーが持っている創造力を解き放つことは、重要なミッションである(写真:SARINYAPINNGAM/iStock)
コロナ危機で働き方がガラリと変わり、私たちのビジネスが実はさまざまな思い込みに縛られていたことに気づいた人も多いのではないだろうか。ウェブ会議しかり、在宅勤務しかり、はんこナシの決裁業務しかり。ありえないと思っていたことが、やってみたら意外とできたという声も少なくなかったようだ。
この経験をきっかけに、職場の「思い込み」を一掃することはできないだろうか。経営学者のマイケル・A・ロベルト教授は「イノベーションを妨げている唯一最大の障害は、職場にはびこる6つの思い込みだ」という。どのような考え方や管理職のふるまいが部下のアイデアの芽を摘み、創造性をつぶしてしまうのか。著書『Unlocking Creativity』から一部を抜粋・編集してお届けする。
創造力は生まれつきのものではない
どんな企業にもイノベーションを起こせる素地はある。生まれつき創造力が高い人と低い人がいるわけではない。あなたの会社にはイノベーティブな人材がすでにいる。
ただ、会社にはびこるさまざまな“常識”、先入観、認知バイアス、通念といったものが邪魔をして、彼らのアイデアを生かすことができていないだけなのだ。
そうした邪魔ものを取り除かず、クリエイティブな発想をつぶす主犯格としてふるまっているのは、役員や管理職などのリーダーたちだ。あなたの職場を見渡したら、こういうリーダーはいないだろうか。
【1】ライバル企業の調査に夢中の人
業界トップ企業や競合企業との比較や調査に、多大な時間とリソースをかける。ライバル社に後れをとるまいと、ライバル社を基準とし、自分たちが取り入れられる部分を探し求める。
他社を基準にして自社を評価すると、業務や品質の改善につながることもあるが、他社の戦略やビジネスモデルをまねるだけに終わることも多い。世界の航空業界に倒産が多いのは、戦略の相似がひとつの要因だ。
そうした事態を避けるには、直接のライバルではなく類似業種の企業から得たインスピレーションが役に立つことがある。しかし、ライバルに勝つことで頭がいっぱいのリーダーは、新鮮な視点から出てきた部下のアイデアに耳を貸さないものだ。
【2】「計画どおりにやること」が目的化している人
データ収集・分析、過去の経験に基づく予測と計画、予算の確保、実行、というふうに順を追って仕事を進めるリーダーがいる。
彼らはそうした直線的なアプローチに安心感を覚える。自分は未来を正確に予測できて、スケジュールどおりに物事が進み、未来へと続く流れを把握できると錯覚している。
確実性、秩序、直線的な考え方を好む傾向が、社内の創造力を阻害することは想像にかたくない。
その対極にあるのが、デザイン思考だ。デザイン思考ではまずユーザーを観察し、彼らに共感し、問題を発見して、解決へ向けたさまざまな選択肢を探っていく。試作品を作ったらユーザーからのフィードバックをもらう。
「やってみて学ぶ」というデザイン思考には、アイデアが生まれる機会が豊富にある。
今日、多数の企業がデザイン思考を導入している。しかし、途中でいつのまにか直線的な思考法に戻ってしまい、うまく実践できていないことも多いのが実情だ。
人は未来を予測できると思いたがる
【3】売り上げ予測にこだわる人
新製品の提案に対して「それはヒット商品となるのかね?」と尋ねる上司はよくいる。
新製品のアイデアを形にしようとすれば、顧客のニーズ、市場の条件、技術的に実現可能なことなどについて、はっきりしないことやよくわからないことが驚くほどたくさん出てくる。正確なデータの取得は困難を極める。
そんな中で、その新製品が大きな売り上げをもたらすかどうかを予測することなど、本当にできるのか?
心理学者らによれば、人は不確実さを排除し「自分でコントロールできる」という感覚を求めたがるという。だがその感覚は正しくない。ヒット商品になるかどうかを予測できると思うほうがまちがいなのだ。アイデアを実現し、その後はあらゆる機会をとらえて、改善のための学習をするのが早道である。
【4】不安感を覚えるような環境を改善しない人
経営者は組織の再編が大好きだ。昔ながらの階級制度を持った組織もあれば、最近では上下関係をなくした水平的な組織形態も生まれている。
しかし私は、創造力を働かせるうえで大事なことは、組織そのものより心理的安全性なのだと強調したい。心理的安全性とはチームメンバーの間であればアイデア、意見、疑問、ミスなど何でも安心して話し合えるという状態をいう。
そうした観点から、会議の仕方やメンバーの仕事の範囲などの細目を決めている会社もある。必要なのは、部署の名称を変える組織改革ではなく、そうした環境作りのための改革だ。
アイデアをつぶさない反論の仕方とは
【5】反論さえすれば議論が活性化すると思っている人
あえて反論するというテクニックを取り入れているリーダーは多い。アイデアや創造力を押しつぶさない反論とは、どのようなものだろうか。
ここで私は、3つの大事なポイントとして、反論役の人選、反論のタイミング、態度を挙げたい。1人よりも2人に反論させる、問題解決の初期段階で反論しない、新たな選択肢が生まれるような働きかけをする、などだ。読者の上司が仕組んだ「あえての反論」がそうしたものになっているとよいのだが。
【6】集中することが最上だと思い込んでいる人
創造的な仕事を加速させたいときは、それだけに集中できる時間と、邪魔が入らないスペースを与えればいいと信じている人は多い。
集中することのメリットもあるので、この問題はちょっと難しい。しかし私は、アイデアを生み出したいなら、時には問題から遠ざかるという、心理的な距離を取ることのメリットを述べておきたい。
具体的には自分以外の誰かになりきって、その人ならどう考えるか、というふうに「社会的距離」を取ること。旅行などで「物理的、文化的距離」を取ること。もし未来だったらどのような解決策があるかを考えるというふうに「時間的距離」を取ることなどだ。
イタリアの医師であり、教育者でもあったマリア・モンテッソーリは「人生に刺激を与えつつ、その成長と広がりの邪魔をしない。これが教師のいちばんの仕事である」と述べた。
リーダーの仕事もそうだ。会社やチームのメンバーが持っている創造力を解き放つことは、最重要なミッションのひとつである。