コロナ禍で見えた、介護施設とは異なる、「高齢者のみ世帯」の3つのリスク。/川口 雅裕
感染症全般に言えることだろうが、感染すると高齢になるほど重症化しやすく、死に至る危険も高い。新型コロナウィルスでも、死亡した人の年齢は、70才以上で全体の約85%を占めている。今回、特に注目すべきは、ヨーロッパで死亡者の4〜6割が「介護施設」の入所者だったことだ。日本でも、介護施設でいくつもの集団感染が発生している。千葉県ではやはり、死者の半数以上が介護施設の入所者であったようだ。
●介護施設での死者が多い
介護施設で、感染者が出やすい理由はざっと3つ考えられる。
一つ目は、サービス提供において「濃厚接触」が避けられないこと。職員が行う、「抱き起し」「排泄介助」「オムツ替え」「投薬」「部屋の清掃」「食事の介助」「入浴介助」といった行為は近づかないとできない。耳の遠い方には、近くで話しかける必要があるし、自室にキッチンがないから食事は、食堂で集まってとる。サービスをしようと思えば、「三密」は避けられないのである。
二つ目は、共用の設備・用具などが多いことだ。トイレや風呂は共用だし、タオルやシーツなどのリネン類も自分のものを使うわけではない。食事の際に使う食器や箸なども、共用となる。もちろん、施設は清潔に保つ努力をしておられるが、自宅に比べれば、他者が触れたものに接触する機会が当然に多くなるから、感染の可能性も高くなる。
三つめは、そもそも入所者の免疫力・抵抗力が低いこと。要介護認定を受けるなどがないと施設に入れないわけだから、体力が弱っていたり、基礎疾患があったりする方も多いだろう。したがって、健康な人なら感染・発症しない場合でも、感染して重症化してしまう可能性がある。
以上の三点を見ると、介護施設は病院と似たような状況にあることが分かる。濃厚接触が避けがたく、共用の設備・用具も多く、そこにいる人たちの免疫力が低くなっているのは、それぞれ程度の差はあれ介護施設も病院も同じである。感染症の流行時においては、介護施設は医師や看護師がいない病院のようなものといった見方も、あながち間違ってはいないだろう。そう考えれば、今回、少なくない数の介護職員が業務に従事することに二の足を踏んだもうなづける。仕事で自分が感染して、家族にうつしてしまうかもしれないし、自分が施設でのクラスター発生の原因になってしまうかもしれないと考えてしまうだろうからだ。
●「高齢者のみ世帯」のリスク
今回のコロナ禍では緊急事態宣言が出され、外出の自粛が呼びかけられた。社会全体で移動や交流機会が減って、その結果、介護施設以外の「高齢者のみ世帯」で、高齢の人たちの心身に大きな影響があったことは見逃せない。
自立生活が可能な高齢者にとって、外出自粛が招いたリスクは次の3つである。
一つ目は、運動不足によってフレイル(虚弱)が進むことだ。店が閉まり、買い物や外食などちょっとしたお出かけがなくなり、散歩や運動をする機会も減ってしまった。運動をしないと、高齢者では2週間で筋力が23%低下するという調査もあり、若い人ならまだいいが、高齢者は筋力の低下を元に戻すのはかなり難しいことになる。
二つ目は、人と会う機会やストレス解消の機会が減り、抑うつ傾向が強まることである。「三密」を避けるために、定期的に参加していたサークル活動やイベントが中止になるし、近所づきあいなど人と交流する機会も減ってくる。交流機会の減少は、抑うつ傾向を強め、さらには認知症のリスクも高まることは、様々な調査で明らかになっている。
三つめは、孤立・孤独の問題だ。交流の機会、人と話をする機会の減少は、すなわち何か困った時に声をかける人、ちょっと手伝ってくれる人が近くにいなくなるということである。日常的に見守ってくれる人が減る。家庭内事故や体調急変に気づいてもらいにくい、という環境に置かれてしまう。
以上のように、今回のコロナ禍のような事態においては、要介護状態ではない、高齢者のみ世帯においても「フレイル(虚弱)」「抑うつ」「孤立」という3つのリスクがあることが分かった。これからも新型コロナウィルスへの警戒を怠るわけにはいかず、また毎年のようにインフルエンザで3千名が死んでいる(今回のコロナウィルスによる死者をはるかに上回る)ことを踏まえれば、高齢者はまず「介護施設に入らないようにするための健康維持」に努めるとともに、「外出規制などがあっても、近くに人がいて支援が受けられる環境」に住むことが重要になってくるはずだ。