連休明けに通信崩壊?/純丘曜彰 教授博士
どうも日本は多様性が無い。同調圧力が強い。だれかがZoomだオンラインだと言い出したら、すぐ、全社全員がそれを使え、ということになる。全国民にPCR検査しろ、と言っていた連中の発想と同じだ。資源が有限であることが、視野に入っていない。その負荷に既存施設が耐えられるかどうか、だれも考えない。連休明けに、日本中が一斉に動画会議などを使ったら、〈通信崩壊〉が懸念される。
以前、33年も前、全国放送の深夜討論番組に関わっていた。ウリは、視聴者の意見も電話を受け付けるという仕掛けで、それまで一方通行で送りっぱなしだったテレビの「放送」を、リアルタイムのインタラクティヴに仕立て、これが当たった。
深夜だから視聴率も知れたもの、まあ、なんとかなるだろうと軽い考えで企画したが、現実には法外な数の電話がテレビ局にかかってきた。ネットもなにも無く、せいぜい新聞の読者投稿欄くらいしかなかった時代だったので、番組なんかろくに見ずに繋がるまで電話をかけ直し続け、言いたいことを言いたいという「視聴者」が大量に潜在していた。オペレーターは30人、ときには50人。そのブースは、スタジオの三分の一にもなった。しかし、それでも捌ききれない。
それどころではない。テレビ局内はもちろん、地域一帯の電話まで麻痺した。地元交換機が処理しきれないのだ。深夜とはいえ、警察や消防の緊急電話もダメになる。それで、各地方から東京の当該番号に発信している段階で制限をかけていただいた。ところが、こんどはその制限をかけた地方でも輻輳や障害が発生し、視聴者意見紹介コーナーなど、リアルタイムの番組の進行に合わせて、微妙なさじ加減で細かく調整していただいて、毎回、どうにかかろうじて乗り切っていた。
あれから33年、猫も杓子もスマホだ。おまけに動画。ニコニコだ、Abemaだ、Youtubeだに加え、近年は大量の映画配信。また、個人でもSkypeなんて、ほんの十年前までは、ちょっと気の利いた人々しか使いこなせなかったのが、いまや全員強制参加のZoom会議。それも、このコロナ騒ぎで、コロナなみに爆発的に激増している。
しかるに、日本のネット環境。スピードテストで知られるOOKLA社の世界比較(2020年3月)で言うと、モバイルでは日本は42位。スロヴァキアやルーマニアより下。アラブ首長国連邦が83.52Mbpsなのに対し、日本は35.73。つまり、首位の半分以下。ちなみに、韓国は81.39、中国は73.35。日本は、アジアでも後れまくっている。
5Gになれば、とか言うが、日本はかなり厳しい。というのも、結局は物理的問題なのだ。東京をはじめとする日本の大都市は、狭いオフィスで、人口密度だけでなく、通信密度が破格に高い。そんな法外な通信量を捌くには、現場に実物として巨大な基地局を造らなければならない。だが、日本のオフィス街の真ん中に、そんな大きな空きスペースがどこにある?
中古住宅の電源コンセントが足りないのと同じ。いっそ新築なら、いまの時代に合わせて設計できる。ところが、日本の大都市は、小分けでガチガチにできあがってしまっていて、直しようがない。まして、通信基地局という公共施設のために、まとまって自分の高値の土地を手放すなんていう奇特なやつはいない。先行者アドバンテージの逆、先行者ディスアドバンテージに填まり込んでいる。
来週、連休明けの朝、繋がらない、となれば、日本中のドシロウトたちが、ガチャガチャ、いっせいにF5(更新)を押しまくるだろう。それでよけい輻輳して、しっちゃかめっちゃかになる。パソコンも出していた電器メーカーのシャープですら、マスク販売で、サイトが止まった。そのほか、和牛の提供でも、Switchの販売でも、協力金申請でも、みんな繋がらない。大都市圏で、どこかがトラブれば、その周辺まで波及して、ぜんぶ麻痺する。
繋がらなかったら、あきらめろ。みんながどうにかしようなどとすればするほど、トラブルが長引く。そもそも回線を大容量で占拠して商売する動画企業こそ、一時的に「自粛」が必要ではないのか。また、テレワークだのオンラインだの言っている企業や組織も、それ、ほんとうに同時性が必要か、再検討すべきだ。通勤と同様、時間差で一時集中的な「オーバーシュート」さえ避ければ、回線容量の負荷を減らせる。
そもそも、それ、動画である必要があるのか? 同窓会の写真を無圧縮のフルサイズでメールに添付してくるバカ幹事みたいなことは止めよう。動画だらけ、生中継だらけで、社員や学生の側が仕事や勉強で負担する従量制の通信料金が、月末にいくらになるのか、いまからそら恐ろしい。そもそも手順の説明でも、ホワイトボードに書いていくのをまるまる動画で撮るより、パワポで作業をなぞるだけのほうが、はるかに軽い。どのみちレイアウトも図表もないベタ打ちのワープロ文章をわざわざPDFにして個別にダウンロードさせるのも、バカげている。手書きのHTML、実質テキストデータだけなら、サクッと見えるぞ。
不要不急のくせに、我先に、自社は最先端の技術で、などという自己満足は、トイレットペーパーの買い占めと同じ。ケガや急病など、いそいでネットで調べたいことがある人のじゃまになるだけ。通信回線という資源は有限だ。トラブルなく、スムーズに、スマートに使いこなすには、社会全員の協力が必要だ。とくに日本は、上述のような物理的事情で、海外各国と同じようにはいかない。コロナ騒動が長引けば、直接訪問が減って、これからさらに通信量は増える。だから、日本の通信事情に合わせ、あえてのローテクで、ほんとうに必要で肝心なエッセンシャル情報が、みんなに滞りなく行き渡るように、みんなで考えていかなければならない。