石塚 しのぶ / ダイナ・サーチ、インク

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私が敬愛するニューヨーク大学マーケティング学教授のスコット・ギャロウェイ氏がいつもながら非常に示唆に富むブログを書いておられたのでその内容をシェアする。

まず、今、我々が直面しているコロナ・クライシスは、全世界を間違いなく恐慌に陥れる大きな出来事であり、最近では、「コロナ後の世界はどう変わるのか?」が政治、経済、社会、文化の面で盛んに論じられている。

それに対するギャロウェイ氏の持論は「コロナの影響で『変わる』というよりは、起こるべき変化が一気に起こる」というもの。

たとえばグローサリー(食料品・日用品)のネット販売。コロナ以前のアメリカではネットのグローサリー販売が市場全体に占める割合はわずか3%程度だったが、先月中には米国世帯の3分の1がネットでグローサリーを購入したという。コロナ・クライシスが長期化すればするほど、これは一般生活者の「あたり前の」購買行動として習慣化し、コロナ後も定着すると予測されている。

何年もかかってゆるやかに起こるだろうと考えられていた変化が、光の速さで一気に起こっているということだ。テレワークも然り。ロボット化も然りである。

「光の速さで一気に起こるであろう変化」のもうひとつの例としてギャロウェイ氏があげているのが、「学校教育のデジタル化」だ。アメリカの大学はそのほとんどすべてが3月中旬にキャンパスを閉鎖し、現在は受講をデジタルに切り替えているが、ギャロウェイ氏は「年内(2020年)にキャンパスが再開することはまずないだろう」と予言している。そして、キャンパスの無期限閉鎖を受けて、「大学教育のデジタル化」が加速化することを予言しているのだ。

しかしギャロウェイ氏が描く「未来図」は、ただ単に各大学が授業をネットで配信するというだけのものではない。GAFA(グーグル/アップル/フェイスブック/アマゾン)やネットフリックス、マイクロソフトなどといったテクノロジー大手が有名大学とのタイアップで教育産業に進出してくるだろうというのだ。そうすることにより、何兆円もの「ステークホルダー価値」を創造するだろうと予言している。

アメリカでは近年、大学教育の価格高騰とそれが生み出す格差が社会問題化している。大学教育のデジタル化が価格最適化を生むとギャロウェイ氏は予言する。デジタル化することで地域障壁が取り除かれるので全世界からより多くの学生に授業を提供できる。たとえばMITのような名門校が二年制の専科コースを一人頭10万ドル(高いように思えるが今日の米大学の標準からすれば大幅ディスカウントだ)で10万人に提供するとして、年間50億ドルの売上が見込める。

これが実現すれば、より多くの人々に良質な大学教育の門戸を開くことになり、世の中のためにもなる、とギャロウェイ氏は主張する。

どうだろうか。コロナ後の世界は未知数であり不安なことだらけだ、と憂鬱な気持ちになりがちだけれども、こういう風に考えると世の中のために望ましい変化も期待でき希望が持てる。ただし、企業の経営者や、産業の未来を背負っていく若手のリーダーの人たちにしてみれば、「これからじわじわと起きる」と思っていた変化が一気に起きるのだからゆっくりと構えてはいられない。まず、Fast Learner(敏速に学ぶ人)でなくてはならないし、敏速に遂行できる人でなくてはならないということだ。