新型コロナウイルスの対策に追われる安倍政権。株価の大幅下落は政権にも打撃。今後劇的な策が打ち出されるだろうか(写真:つのだよしお/アフロ)

株式市場は新型コロナウイルスで激震に見舞われているが、まずはその「震源地」はどうなっているのだろうか。2月24日付けのJPモルガンのレポート「コロナウイルス・デイリー・モニタリング」では「中国6つの省が緊急レベルを下げ、作業再開が焦点に。高速道路の混雑は大きく増え、人々が街に戻ってきた」としている。

事実、この時点(現地時間2月25日8時43分)での感染者数は7万7779人だったが、日本時間3月7日の6時現在では8万0573人と、11日間の感染者増加数は2794人だ。明らかに中国本土では峠を越え、感染者ゼロを続ける省も出ていると見られる。

「NYダウ12%下落」なら「20%下落」へ?

しかし、それを先見するはずの株価は、アメリカでは皮肉なことに2月24日のNYダウ1031ドルの下落となって、連続安のスタートを切った。NYの投資家にとって「遠いアジアの出来事」と思っていた新型コロナウイルスの感染拡大が「イタリア北部11自治体封鎖」の報で、欧米に一気に身近なものになった瞬間だった。

その後は同月25日879ドル安、26日123ドル安、27日1190ドル安、28日357ドル安と、5日間で3580ドルの下落を演じる。3月に入ると西のカリフォルニア州の非常事態宣言、東のニューヨーク州の感染者発生など、アメリカの国内に入り込んで来たコロナウイルスへの恐怖感で超過敏な相場となった。

NYダウは、ファンドのリスクパリティ(ポートフォリオに占める各資産のリスクの割合が均等になるように分散保有する運用手法)やAI短期筋の無機質な売買に主導され、3月に入ると2日には1293ドルと過去最大の上げ、3日785ドル安、4日1173ドル高、5日969ドル安、先週末6日256ドル(一時は約900ドル)安と狂ったような乱高下となった。

 結局、ダウは2万9000ドル台から2万5000ドル台へと、2008年のリーマンショックに匹敵する下げとなった。終値ベースで12%動いた方向へ継続して動くという「ダウ12%の理論」も、弱気派を元気付けている。2月12日の史上最高値2万9551ドルから12%の下げは2万6005ドルだが、2月27日の終値1190ドル安の2万5766ドルでそれはブレイクされた。「12%の下げは20%下げる可能性を大きく高める」とも言われ、米国でのコロナウイルスの「これから」の感染拡大不安と連動して、NYダウに底値達成の議論はまだ出ていない。

NYダウの現状を確認すると、厳しい下げが続いている日経平均株価の底値確認の作業に意味はないということになる。では「落ちるナイフは拾うな」なのか。

しかし相場は、予想以上に高くなることもあれば、予想以上に安くなることもある。それはテールリスクとして認知されている。今回の新型コロナウイルスの感染拡大は世界の人々にとっては特別な事件だが、100年に1度と言われたリーマンショックや、1000年に1度と言われる東日本大震災を経験して来た日本の株式市場にとっては、過去にもあった下げ相場の一つの形に過ぎない。

総合乖離で見て、日経平均2万0150円が一つのメド?

ここで下値のメドを真摯に考えることはリスク管理においても意味のないことではない。短期的には80%以下が買いゾーンと言われる騰落レシオ(25日)において、先々週末の53.31%、先週末の58.13%は強い買いシグナルと言える。

ただ、現在の弱気相場では短期的に戻っても売られると思われるので、もう少し長くみる尺度として総合乖離(25、75、200日移動平均乖離率の合計)がある。先週末の総合乖離はマイナス26.27%だ。比較的最近では、2016年6月24日に予想外の国民投票でEU離脱が決定(英国のブレグジット)し、日経平均株価が1286円安で1万5000円を割れた時のマイナス33.23%まであるとすると、それは2万0150円ということになる(ここで必ず下げ止まるということではない)。

またテクニカル分析でよく使われるフィボナッチリトレースメントで下値を測ると、直近の日経平均が2018年12月の1万9255円で始まり、2020年1月高値2万4083円(終値ベース)で終わったと考えて押し目を測ると61.8%押しの2万1038円(これはすでに突破された)、76.4%押しの2万0318円ということになる。

世界の2月のPMI(購買担当者指数)は、中国製造業35.7(前月比−14.3)、非製造業26.5(同−25.3)という恐ろしい数字をまだ織り込んでいない。アメリカ製造業50.7(同−1.2)、非製造業49.4(同−4.0)、ユーロ圏製造業49.2(同+1.3)、非製造業52.6(同+0.1)と言ったところだ。また、日本製造業PMIも47.8(同+0.2)、非製造業46.8(同+0.1)とすでに50を割れているが同様の結果となっている。3月の数字に新型コロナウイルスの影響がどれだけ反映されてくるか。今週末の3月ミシガン大学消費者態度指数速報値(3月13日)がまず注目される。

また、日本では2019年10〜12月期のGDP改定値が注目される。速報値では物価の変動を除いた実質で−1.6%、年率換算で−6.3%となってショックを与えたが、さらに下方修正される可能性がある。今週は前述の日経平均のメドが、これらの指標が出たときに「耐える」ことができるか。欧米の中央銀行、日銀そして中国人民銀行、さらには共同声明を出したIMF(国際通貨基金)と世界銀行など、世界が一体となった金融政策に期待する。

重ねて言うが、今の相場は、大きく見れば、過去にもあった相場の一つに過ぎない。冷静に対応すべきだ。ただし、日本市場は「2020東京五輪中止・延期」の可能性を完全に織り込んでいない。信用取引の枠に余裕のない投資家は、それ相応のリスク管理が必要になる。