増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ

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1.大学就活指導の現場から見た新卒採用状況
私は昨年末、都内で人事担当者の方を対象とした日本産業カウンセラー協会東京支部主催のセミナーに登壇しました。そこでは「人事担当者が知っておきたい、大学就活指導の現場から捉える新人採用とその育成」と題して、大学キャリアセンター教員として15年、経験を重ねた視点から、昨今の新卒学生採用について提言を述べさせていただきました。

当初50名のこぢんまりしたセミナーの予定でしたが、当日は予定を超える参加者の方に集まっていただくことができました。人手不足、採用難に直面する企業の採用担当の皆さんのご苦労は日頃からよく理解しているつもりです。一方、大学のキャリア支援の側から見れば、そうしたご苦労はわかるものの、今一つ学生の期待や利便性とずれを感じるところもあります。

東京近郊の大学はまだしも、地方大学では単純に距離の問題があり、距離の問題は時間という有限なリソースを消費します。私の勤務する大学は新幹線に乗れば東京まで90分で行ける距離にあり、地方大の中でもまだ恵まれています。しかしそれでも就活する学生たちは毎回新幹線に乗っての移動などできません。地方の学生は限りあるお金を少しでも有効に使おうと、深夜バスや早割予約など、手を駆使して交通費の倹約に努めています。

2.地方大学からの声
こうしてせっかく苦労して参加したにもかかわらず、説明はつまらなく、知りたいことも得られず、3月初頭のように多くの説明会が集中する日程で参加した説明会え「損した」という印象が残ったらどうでしょう。合同説明会であっても今は交代入替制のものも多く、人数無制限で誰でも希望する出展社の話を聞けるとは限りません。なので地方大生にとって、その説明会は一期一会の、二度と無い貴重な機会なのです。

私は仕事柄、何千社もの企業説明を聞いています。しかし中には、そこまで学生にとっての真剣勝負であるという認識があるのか疑問を感じる内容も少なくないと思います。ホームページ見ればわかることや、採用に直接関わるとも思えない情報をだらだら伝える例も何度も見ています。

ブラック企業への関心が高い昨今ですから、「当社はブラックではありません」という説明はよくあります。しかしながら、それはテレビCMで「ウチの製品はおいしいよ!」と言ってるのと同じで、説得力に疑問を感じます。他にも見れば(読めば)わかるデータをわざわざ時間を割いて説明するより、なぜもっと自社製品やサービスについて説明しないのでしょうか?

三菱電機をエアコンの会社と思っているような学生は今でもたくさんいます。学生の企業知識はびっくりするほど低く、私たち教員ももっと本質的企業研究をするよう日頃から指導はしていますが、まだまだ実現できていません。そろそろ「母集団形成」のような、成果に直結しない説明会の指標ではなく、本質的に企業を理解する学生を増やすべきではないでしょうか。そんな機会が、地方大では特に少ないといえます。

3.理系教員からも好評なWeb説明会とWeb面接
昨年のセミナーで人事の皆さんにお願いしたのは、ぜひWebを利用した説明会や面接を増やして欲しいということでした。もちろんシステム投資が必要なことも理解しますが、ある程度限られた予算で、出来る範囲での実行はできないでしょうか。

移動時間と交通費という地方の2大ハンデを補ってくれるだけでなく、企業にもプレゼンクオリティを標準化できるメリットもあります。当然企業の皆さんの移動コストも減らせます。何より理系の教員を中心に、大学の先生からとても評判が良いというメリットも見逃せません。ただでさえ研究時間確保に頭を悩ます国立大上位校理系大学院の指導教員にとって、こうした学生への思いやりを果たしてくれる企業は好印象となります。

もちろんWebでは誠意や迫力が伝わらないという考え方もあることでしょう。しかし本当にそうなのでしょうか?企業説明でも、目がチカチカするようなパワポで、ありきたりの内容をだらだら説明するだけのものと、パワポも使わず言葉だけで来場学生を鼓舞できる才を持った担当者では、企業の規模以上に説得力が違っていると思います。メディアより中身が相当重要です。

学生、企業、そして教員にもメリットのある一石三鳥なメディア。今回ここにコロナ対策まで加わりました。従前の方法を根本から見直すきっかけとして、ぜひピンチをチャンスに変えていただきたいと思っています。