By Acid Pix

人類は環境に適応して、長い年月をかけて進化を重ねてきました。一説では人類の進化は既に止まっているという主張もありますが、「3つの点で人類はいまだに進化し続けている」と、Inverseのライターであるサラ・スロート氏が主張しています。

Humans are still evolving: 3 examples of recent adaptations

https://www.inverse.com/mind-body/humans-still-evolving-3-recent-adaptations

◆1:平均体温の低下

1868年、ドイツの医師が、華氏98.6度(摂氏約37度)を人間の正常な体温の基準としました。それ以来、平均体温は摂氏37度が一般的に受け入れられ、体温が37度以上ある場合は熱があり、著しく体温が低下すれば低体温症であると判断されます。

しかし、2020年1月に発表された研究によると、人間の平均体温は摂氏37度よりも低く、華氏97.9度(摂氏約36.6度)である可能性が高いことが示唆されました。また、研究チームが体温測定を含む過去200年間の医療記録を分析した結果、平均体温はおよそ10年ごとに約0.05度ずつ下がっていることが明らかになりました。



By bondarillia

研究を行ったスタンフォード大学医学部教授のジュリー・パーソネット氏は平均体温の低下について、「世界的な炎症の減少と生活水準の改善に関連している可能性が高いです。19世紀頃によく見られた感染症の多くは慢性炎症を引き起こし、人の代謝率と体内温度を上昇させたのでしょう」と語っています。時代が進むにつれて感染症が減少したことから、その変化が体温に反映されたのだろうとパーソネット氏は推測しています。

また、エアコンといった空調設備の登場により、室内で快適に暮らせるようになったことも人間の平均体温に大きな影響を与えている可能性があります。健康的な生活が平均体温の低下の原因になっている可能性は高いものの、平均体温の低下が人間の健康を増進するかどうかは分かりません。



By Pressmaster

◆2:遺伝子の変化

遺伝子の変化を裏付ける研究として、2016年にFADS2遺伝子に関する研究が発表されました。FADS2遺伝子は、肉や植物などの食事をどのくらい摂ったかによって変化する可能性があり、インドのプネーでは、何世代にもわたって菜食を続けていると、FADS2遺伝子が変異する頻度が高くなることが明らかになりました。この変異によって、ω-3脂肪酸およびω-6脂肪酸を、脳の健康に不可欠な成分に変換することを可能にしたとされています。

同時に、乳糖不耐症に関する遺伝子も変化しています。数千年前までは、牛乳を飲むことによる不調を防ぐ酵素は子どもしか持っておらず、大人になると無くなっていました。しかし、2000年〜2万年前の間に起こった遺伝子の突然変異により、人々が乳製品への耐性を持ったまま大人になることが可能になりました。研究者の推定によると、東アフリカでは3000年前に乳糖不耐症に関する遺伝子の変化が起きていたという調査結果があり、牛を飼うことが人間の生活の大部分を占めるようになったことが原因とされています。



By Alex9500

遊牧民から農業従事者へ、農業従事者から産業従事者へと人間の生活が変遷したことによって、遺伝的の変異が促されることが多くあります。もう1つの例として、都市部で生活することと、結核への耐性が改善されることの間に関連があるという研究が2010年に発表されています。結核の耐性に関する遺伝子の進化は、過去8000年以内に起きた可能性が高いとされています。

研究を行ったロンドン大学のマーク・トーマス教授は、「人類に農業が定着する以前は、現代では日和見感染とされる病の脅威にさらされていました。この1万年間で人類は様々な病気に適応して進化しています。病原体に対する抵抗の大部分は遺伝的なものなので、自然選択が起こっていると考えられます」と語っています。人間社会が都市に居住するスタイルに変化したことで、人類を脅かす病気も変化しているとのこと。



By claudioventrella

◆3:骨

人類の骨は、約1万年前の祖先と比べて弱くなっており、密度も低いとされています。2015年の研究では、人類の骨が弱くなり始めたのは約1万2000年前、人々が農業を始めた頃だと推定されています。農業の定着によって狩猟が減り、家畜の飼育も定着したことから、重く耐久性のある骨が必要性がなくなったため、骨格は軽くなり、もろくなったと推測されています。

2014年の研究でも、農業の定着以来、人類の骨が弱くなったと結論づけられています。この研究でも、身体活動の低下が骨の強度を低下させた原因であると主張されています。また、定住により人々の移動が少なくなったことが原因のひとつであると研究者らは述べており、身体活動の低下による骨の弱化は今後も続く可能性が高いとされています。

研究を行ったケンブリッジ大学の研究者であるコリン・ショー氏らのチームは、「本来、人間の骨にはオランウータンと同じくらいの力を発揮できるポテンシャルがある」と述べていますが、人類の骨が再び強く進化するかどうかは分かりません。



By pixelaway

科学者の中には「人間自らの発明によって進化の速度を飛躍的に向上させている」という仮説を立てる研究者もいます。「飛躍的な進化が起こるかどうかにかかわらず、1つ確かに言えることは『生物学に終わりはないだろう』ということです」とスロート氏は語っています。