消費増税に伴う軽減税率への対応等で、小売業は対応に追われている

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 10月1日、消費税率が10%に引き上げられた。政府は、今回の消費税率の引き上げで軽減税率や条件付きながら顧客へのポイント還元を導入するなど、影響の大きい小売業者へ向けた施策を打ち出している。これまで小売業はインバウンド需要が好調であったが、近時は中国経済の減速や日韓問題の影響で一部地域および一部業種を中心に大きな影響を受けている。

 帝国データバンクでは、2008年度以降の小売業者の倒産動向(負債1000万以上、法的整理のみ)について、集計・分析した。

小売業の倒産、3年連続で前年度比増加の勢い

 2019年度上半期(4〜9月)の小売業者の倒産件数は988件となった。前年同期(2018年4〜9月、916件)を7.9%上回っており、東日本大震災の発生した翌年度となる2011年度以降、減少傾向で推移していたが、2016年度を底として増加傾向となっている。このままのペースで倒産が発生すると、3年連続の前年度比増加となる。

 一方、2019年度上半期の負債総額は811億2200万円。前年度には(株)ケフィア事業振興会の倒産(2018年9月破産、負債約1001億9400万円、東京都)が発生していたこともあり、大幅に前年同期を下回った。

 負債規模別にみると、負債「1000万〜5000万円未満」が738件で全体の約7割を占め最多。負債「5000万〜1億円未満」の94件と合わせ、負債1億円未満の小規模業者が全体の8割超を占めた。負債「1億〜5億円未満」は131件で、年度上半期としては2014年度上半期以来5年ぶりに130件を超えた。

 2019年度上半期は既に負債50億円以上の倒産が2件発生している。具体的には(株)リファクトリィ(2019年5月、民事再生、東京都)とマザウェイズ・ジャパン(株)(2019年6月、破産、大阪府)の2社で、ともに衣料品販売業者であった。負債50億円以上の衣料品販売業者の倒産は2014年8月に民事再生法の適用を申請した(株)オルケス(負債63億4500万円、東京都)以来となった。

飲食店で最多更新の勢い、アパレルでは大型倒産が顕著

 業種別にみると、「飲食店」が375件で全体の約4割を占め最多となり、過去10年で最多となった2011年度の732件を更新する勢い。「飲食店」は、参入障壁が低い一方、流行や衛生・安全面での評判の影響を受けやすいとされ、個人消費の減退に加えて近時では人手不足も顕著で人件費の増大などが業績不振の一因ともなっている。

 そのほか「織物・衣類・身のまわり品小売業」は122件、「飲食料品小売業」は167件、「家具・じゅう器・家庭用機械器具小売業」は55件となり、前年度の件数を上回るペースで推移している。 

一方、「自動車・自転車小売業」は58件と前年度(147件)を大幅に下回るペース。

■主な倒産事例(2019年度上半期)

 人気アパレルブランド「J.FERRY」を展開していた(株)リファクトリィ(東京都中央区、2019年5月民事再生)は、銀座本店、自由が丘店を中心に、百貨店やショッピングモールなど、首都圏・大都市圏を中心とした日本全国に32店舗を展開。オンラインショップでも販売を手がけ、2018年6月期には年売上高約44億円を計上していたとされていた。しかし、今年5月に入って10年以上にわたる粉飾決算が判明。実際には2016年以降の売り上げ不振が続き、2018年6月期の年売上高は約25億6000万円にまで減少していた。こうしたなか、多額の簿外債務も重荷となり、自主再建を断念した。

増税を機に廃業・倒産するケースも 粉飾決算などコンプライアンス面での課題も噴出

 2019年度上半期の小売業者の倒産は、988件を記録した。負債総額は811億2200万円となったが、前年同期には負債1000億円以上を抱え倒産した(株)ケフィア事業振興会が発生していたため、前年同期を大幅に下回った。

 小売業者は近時、ECサイトを運営する業者との競争激化や、これまで売り上げを支えてきたインバウンド需要が中国経済の減速や日韓問題の過熱などから減少傾向にあり、厳しい状況が続く。加えて、10月1日からは消費税率が10%になり、政府は対策として軽減税率やポイント還元などの施策を講じているが、増税を機に廃業を検討する業者が増加しており、その結果倒産に至るケースも聞こえてきている。

 今年に入り、小売業を中心に中堅企業の長期間にわたる粉飾決算が発覚するケースが散見される。そのため、金融機関も警戒感を高めており、融資先への評価を見直す動きがあるとも聞かれ、企業からは融資姿勢の変化などを懸念する声があがっている。

 2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催を控え、東京都では受動喫煙防止条例が全面施行される予定となっており、従業員を雇う飲食店では原則禁煙となるなど飲食店には条例に応じた対策を講じることが必須となっている。インバウンド需要には期待感が高まっているが、その一方で同条例施行に伴う費用負担など未だ懸念材料が多くあり、引き続き注目度の高い業界であると言えよう。