ブルームバーグメディア(Bloomberg Media)のデジタル版の会員数が今年末までに倍増する見込みだ。同社によれば、全収益に占めるサブスクリプション収益が2020年内に10%を超える予測となっているという。

ブルームバーグのペイウォールは2018年5月にローンチした。サブスクに関する正確な数について同社は公開していないが、会員数は現在「数万人」規模となっているという。同社はローンチしてから年末までに予想の3倍近い会員を獲得しており、今年末までにその人数をさらに倍増させようと計画している。ここまでの躍進の原因となっているのが、ペイウォール関連要素の頻繁な改善だ。たとえば同社は、無料アクセスできる記事や価格戦略、商品露出の手法や場所について細かく調整を行ってきた

動的なペイウォールを導入



ブルームバーグは22の基準にもとづいた動的なペイウォールを導入している。たとえばサイト上の読者滞在時間、参照トラフィックソース、再訪問といった、読者の会員登録に関わる要素が考慮される。ブルームバーグメディアでデジタルおよびメディア配信担当のグローバルリーダーを務めるスコット・ヘイブンス氏は、新規訪問者から会員を獲得しやすい記事数は1カ月に3本だという。同社は当初、合計10記事の固定メーター制から開始したが、まもなくして読者データにもとづくさまざまなペイウォールを試すようになった。これまでパブリッシャー各社のあいだではサブスク拡大のため、ペイウォールをより厳しくする傾向が見られた。2012年の時点では、メーター制は平均で1カ月に13記事だった。ショーレンスタイン・センター(Shorenstein Center)およびレンフェスト・インスティテュート(The Lenfest Institute)の調査によると、これが現在では同5本にまで減少しているという。

ヘイブンス氏は、サブスク収益が無視できないものになりつつあると明かす。今後数年かけて、サブスクは9桁(数十億円)規模の収益を生み出す見込みだという。ブルームバーグメディアのデジタル版サブスク商品は、初年度の特別価格以降は、年額で450ドル(約4万8500円)となっている。

「収益が無視できないレベルで拡大しているため、デジタル版の広告とサブスクの収益バランスの最適化について検討をはじめている」と、ヘイブンス氏は語る。

「不安定な市場は追い風」



ペイウォールは当初、会員獲得とリテンション、カスタマーサービスを担当する20名規模のチームでスタートした。同社はこういったスキルを備えた人材を、コマースやカスタマーサービス分野のブルーエプロン(Blue Apron)やアメリカン・エキスプレス(American Express)といった企業から雇用した。さらに、カスタマーのディスカウント商品の購買意欲が高い7月には、Amazonプライムデーの自社版サービスのようなカスタマーマーケティングを実施し、前月比で43%のサブスク獲得に成功している。

サブスク獲得に貢献しているのが、ブルームバーグ・ビジネスウィーク(Bloomberg Businessweek)の元素周期表といったコンテンツに加え、米中貿易戦争の最新情報やナイジェリア政府に対する90億ドル(約9700億円)の判決といった長い記事だ。また、不安定な世界経済も追い風になっているという。

「我々にとって不安定な市場は追い風になる」と、ヘイブンス氏は語る。実際、8月は新規会員数の伸びが過去最大だったという。ニュース系パブリッシャーがトランプ米大統領によるサブスクの伸びを経験しているように、経済系パブリッシャーも会員数を増やしており、不況への恐れもトラフィック増加につながるという。

ヘイブンス氏によれば、ブルームバーグの会員の3分の2はウェブサイトの訪問者から来ている。同社の月間ユニークユーザー数はおよそ5000万人だ(シミラーウェブ[SimilarWeb]の統計によれば、ブルームバーグの8月の月間訪問者数は6300万人超となっている)。また25%はブルームバーグのアプリから、8%はApple Newsからとなっている。Apple Newsでは1日2記事までであれば、どの記事でも無料で閲覧できる。残りの会員は検索やソーシャルマーケティング、eメールニュースレターを経由して契約している。

平均より高いコンバージョン率



メディアアナリストのトーマス・ベイクダル氏によると、パブリッシャーのウェブサイトのトラフィクから会員になる割合は平均で2%程度だという。ブルームバーグの場合、ウェブサイトのオーディエンスからこれより高いコンバージョン率を達成可能だ。

「ブルームバーグは非常に絞り込まれた市場を対象としている。成長率も高い」と、ベイクダル氏は指摘する。「だが、サブスクをさほど必要としないオーディエンスで、ある程度の飽和状態になるまでどれくらいかかるかも考慮する必要があるだろう」。

ほかのメディア企業と異なり、ブルームバーグは利益率の高い事業を抱えているため、他企業ほどペイウォールを急いで導入する必要性は薄い。ライバルのフィナンシャル・タイムズ(The Financial Times)やウォールストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)はデジタル版でペイウォールを導入して数十年が経つ。

「ブルームバーグでは、ペイウォールはうまくいかないと考えられてきた」と、ベイクダル氏は語る。「予想の3倍となる会員数を獲得したということは、裏返せばそれだけ期待値が低かったということだ」。

チャーン率を下げる取り組み



同社ではペイウォール導入が進むなかで、カスタマーのチャーン率を下げる取り組み、そして新規カスタマー獲得コストを削減する取り組みがより重要となりつつある。

たとえば傾向モデルによると、過去10日間ウェブサイトを訪れなかったカスタマーはチャーン率が2倍になる。そこで商品およびマーケティングチームは、読者のファーストネームと関連コンテンツを記載したメールを送っている。同社によると、ファーストネームで送られてきたEメールは開封率が186%増加するという。また解約しそうなカスタマーに対し、月間契約ではなく魅力的な年間契約を提案したことで解約を10%阻止することができたとのことだ(ただし具体的なチャーン率について同社は公開していない)。

ペイウォールを柔軟に展開しているため、非登録ユーザーへコンテンツを公開しないことによる広告収益の減少はそこまで大きくなかったものの、ヘイブンス氏は広告販売チームから当初は懸念の声が上がっていたことを認めている。

「パブリッシャーが生き抜くにはバランスが大切だ」と、同氏は語る。「ページ閲覧数と月間ユニークユーザー数が多ければ、2種類の数十億円規模の収益源が確保できる。私の目標は、このふたつの収益源を最大化することではなく、収益が確実に保証されるようにデジタル全体の視点で最適化することだ」。

Lucinda Southern(原文 / 訳:SI Japan)