「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今日の漢字は「詩(シ)」。

日々忙しく過ごす人たちへ、一遍の詩に触れるひとときを。そんな想いをこめてひもとく漢字です。

(TOKYO FM「感じて、漢字の世界」2019年9月28日(土)放送より)



「詩」という字は「ごんべん」の横に「寺」と書きます。

「ごんべん」は言語や表現に関連する部首。

「寺」は、もともと「之(し・これ)」という字の下に「寸法」の「寸」と書く字です。

「之(し)」は紀貫之の「之(ゆき)」、芥川龍之介の「之(の)」とも読みますが、

甲骨文字で書かれたこの字は足跡の形を表し、

「ゆく、すすむ」という意味をもつといわれています。

「寸」は手の形や、手を動かす様子を表す漢字。

つまり「之(し)」と「寸」をあわせた「寺」という字は、手足を使って「ゆく、すすむ」ことを意味しているといいます。

そこから「詩」という漢字は、心が「ゆく・すすむ」様子を表現する「ことば」を示すようになったのです。

爽やかな秋の1日は五感の扉を開き、美しい季節の訪れや、忘れていた大切なことに気づかせてくれます。

花びらからこぼれる朝露、稲穂が描き出す金のさざ波。

そして、茜色の夕暮れに浮かぶ、なつかしい面影。

あふれ出す想いを誰かに伝えたくなって、ことばを探すいにしえの人。

中国最古の詩集と呼ばれる『詩経』にはこんな1説があります。

― 詩は志の之く所(ゆくところ)なり。

心がまっすぐ目指すところ、志あるところに生まれたことばが、詩になるのです。

今日の漢字は「詩人」「詩集」の「詩」。

「ごんべん」は言葉や表現に関する部首。

「寺」のもとの字は足跡と手の動きを組み合わせたもので、心が「ゆく・すすむ」様子を表現した「ことば」を意味する漢字です。

― いい詩には、ひとの心を解き放ってくれる力があります。

これは、詩人・茨木のり子の名著、『詩のこころを読む』の冒頭に掲げられた一文です。

若者に向けて記された現代詩の入門書は、

感情をしまいこみ、飼い慣らして生きる大人にとっても座右の書。

彼女はこの中で、「言葉が離陸の瞬間を持っていないもの」は詩にあらず、

「地を蹴り宙を飛行する」のが詩である、と説いています。

誰かの心が、行きたい場所を目指して飛び立つときに発したことば。

そのことばが詩となって心に直接届いたとき、

人は初めて、おもむくままの感情を取り戻すのです。

「読書の秋」と大げさに構えなくとも、まずは1遍の詩をゆっくり味わってみる。

それだけで、凝り固まった心の筋肉がやさしくほぐれます。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。

その想いを受けとって、感じてみたら……。

ほら、今日一日が違って見えるはず。

*参考文献 『常用字解(第二版)』(白川静/平凡社)

      『詩のこころを読む』(茨木のり子/岩波ジュニア新書)

10月5日(土)の放送では「費」に込められた物語を紹介します。お楽しみに。



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<番組概要>

番組名:感じて、漢字の世界

放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国38局ネット

放送日時 :TOKYO FMは毎週土曜8:20〜8:30(JFN各局の放送時間は番組Webサイトでご確認ください)

パーソナリティ:山根基世

番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/kanji/