男性にとって精巣(キンタマ)は急所だ。しかしそんな急所が無防備にも体の外についているのはなぜなのか。医師の工藤孝文氏は、「ほ乳類の体温が、精子が育つのに適した温度よりも高いため」という――。

※本稿は、工藤孝文『ざんねんな人体のしくみ』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/champja
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■エッチな気分でもないのに朝起きると勃起している謎

健康な成人男性であれば、40歳くらいまではほぼ毎日のように経験する「朝立ち」。男性の皆さんは、男の身体に備わっている当たり前の現象として受け止めていることでしょう。

とはいえ、仕事や勉強に真面目に邁進している時期に、特にムラムラしているわけでもないのに毎朝朝立ちするというのは、考えてみれば不思議なしくみです。

そもそも朝立ちとは、いったい何なのでしょう。

朝立ちは、医学的には「夜間勃起現象」と呼ばれています。

睡眠には、深い眠りであるノンレム睡眠と、浅い眠りであるレム睡眠があり、それが交互に現れているということは、皆さんもご存じでしょう。ノンレム睡眠とレム睡眠は1セット約90分ほどで、これが4〜5セット繰り返されることで、最終的に浅いレム睡眠から目覚めへと至ります。

レム睡眠中は自律神経が乱れるため、脈拍や血圧、呼吸などが不規則に変動したり、勃起が起こったりすることがわかっています。つまり、「朝立ち」は最後のレム睡眠中に起こった勃起が、目覚めたときに残っていた状態のことで、実際に朝になったから立つのではなく、夜のうちに何度も勃起を繰り返していることがほとんどなのです。

このような睡眠中の勃起は、夢や性的な刺激などとは関係なく起こるもので、男性の身体に備わっている自然な機能にほかなりません。

なぜこうした現象が起こるのか、確実な答えは出ていませんが、おそらく、生殖機能を維持するための試運転のようなものだと考えられています。機械はまったく使っていないと動きが悪くなるのでときどき動かして機能を維持しますが、夜間勃起現象の意義も、そんなイメージです。

試運転の調子が悪くなってきたら、泌尿器をはじめとした疾患や、男性の更年期症候群であるLOH症候群の可能性があります。「あれ、おかしいな」という日が長く続いたら、一度医師に相談してみたほうがいいでしょう。

■リスク大なのにキンタマが体の外についている理由

私は野球部でキャッチャーをしていたので、股間にボールが当たると痛みで冷や汗をダラダラとかき、もがき苦しんでいました。これは、男性のキンタマが身体の外に出ているから起こる悲劇といえるでしょう。

男性の股間にぶら下がっている左右の袋には、精子を作る精巣が入っているわけですが、実は多くの動物の精巣はおなかの中にあります。しかし人間を含めたほ乳類の雄は、精巣=キンタマが外についています。身体の外にあれば、ボールはもちろん、何がぶつかるかわかりません。おなかの中にあるより明らかにリスク大なのに、なぜ人間のキンタマは外についているのでしょうか。

これは、精子が育つのに適した温度が、ほ乳類の体温よりも低いため。おなかの中に精巣があると、体温が高すぎるために、精子が育ちにくくなってしまうからです。

ちなみに、精巣が入っている袋はシワシワになっていますが、あれも非常に重要です。シワシワの下にある筋肉が、暑いと伸び、寒いと縮むことでラジエーターのような役割を果たし、キンタマの温度を常に精子の適温に保つ役目を果たしているのです。

まあ、その点はよくできたシステムともいえるのですが、痛い思いをするリスクと隣合わせというのは、ちょっとざんねんというか、なんともコワイ話です。

■陰毛が縮れているのは陰部を守るため

ベッドやカーペットの上、お風呂場などに、ときどき取り残されている陰毛。きれいなストレートであればそれほど気にならないのかもしれませんが、微妙に縮れているせいなのか、発見した瞬間、なんともざんねんな気持ちになるものです。

どうして私たちの陰毛やわき毛は、頭の髪質にかかわらず、ストレートヘアではなく、縮れているのでしょうか。

3つほど説があるのですが、まず“クッション説”から紹介しましょう。わきも陰部も日常動作で擦れる場所なので、摩擦から肌を守るために、縮れ毛にすることでクッション性を持たせている、という説です。特に陰部は性交時に激しくぶつかります。その時の衝撃を吸収し、大切な性器を守り保護するため、というわけです。

2つ目が、“バリア説”です。陰毛が生えているあたりには大事な穴がいくつかあるため、縮れた陰毛が細菌やウイルスといった外敵の侵入を防ぐのに役立っている、という説です。

■縮れているから異性を引き付けられる?

最後が“フェロモン説”です。人のフェロモンについてはよくわかっていないことが多いのですが、わきや陰部に発達しているアポクリン腺という部分から出て、異性を引きつけていると考えられています。

わきや陰部の毛を縮れさせることで、フェロモンが簡単に流れ落ちず、毛の周辺に留まることで、長い時間、発散させることができるというのです。

特に女性の場合、尿にもフェロモンが含まれているといわれており、陰毛に付着することで、より強力に放散され、男性を引き付ける力を発揮していることになります。

ちなみに、フェロモンは私たちが鼻で感じる匂いではないので、男性たちはいわゆる尿の匂いにひきつけられているわけではありません。

いずれも共通しているのが、直毛より縮れ毛のほうが表面積が増えるため、各作用が増強される、ということ。陰毛が縮れているのにも、それなりに重要な理由があることは間違いなさそうなので、私たちも温かな気持ちで受け入れていきましょう。

■他人のうんこを大腸に入れてみると……

現代人が多く悩んでいる病気に、花粉症などのアレルギー性疾患、便秘や下痢、うつ病などがあります。もしも、他人のうんちを大腸に入れることでこうした病気が治るとしたら、あなたは試してみる勇気がありますか?

実は、他人のうんこを肛門から大腸に注入してさまざまな病気を改善するびっくりするような治療法、その名も「糞便微生物移植」が、すでに動き出しています。

カギを握るのは、心身の健康に深く関与することが解明されつつある、腸内フローラ(腸内細菌叢)、つまり、腸内にあるさまざまな微生物の群衆です。

腸内には100種類以上、100兆個以上の腸内細菌が生息しており、どんな細菌をどれだけ持っているかは人それぞれ。そのバランスよって、私たちの健康は大きな影響を受けています。

腸内フローラは、食事や運動、生活習慣などによってある程度変わるものの、自力で変えていくのはなかなか大変です。そこで、健常な人のうんこから良質の腸内細菌を取り出し、患者の大腸に注入することで腸内細菌叢のバランスを良くしようというのが、糞便微生物移植なのです。

■他人のうんこで「何かが変わった気がしました」

これは、腸の疾患だけでなく、糖尿病やがん、動脈硬化、花粉症など細菌叢との関連が指摘されている疾病の治療法としても、注目されはじめています。

すでにアメリカでは、難治性の腸管感染症の有効な治療法として政府機関が提示していますし、日本でも、潰瘍性大腸炎の治療などに役立てようと、順天堂大学などいくつかの大学が2014年頃から臨床試験を行っています。

たとえば、臨床試験の結果、うつ病だった患者さんの中には、「以前のように理由もなくふさぎ込むとか感情が突然爆発するようなことがなくなり、自分の中で何かが変わった気がしました」と、確かな効果を実感している人もいます。

工藤孝文『ざんねんな人体のしくみ』(青春出版社)

現在、一般的には、便を生理食塩水に溶かし、ろ過した菌液を内視鏡で大腸に注入する方法がとられていますが、今後、より患者さんに負担が少なくなるように、菌が生着しやすい特殊な液に便を溶かし、ゴム製の管で浣腸する方法が研究されています。

将来的には、例えば緊張しないためとか、やせるためとかに、腸内細菌入りタブレットを飲むような形にまで進化するかもしれません。

しかし、どんなに効果的な治療だったとしても、他人のうんこを体内にとりいれると思うと、どうしてもざんねんな気持ちになってしまうかもしれませんね。

ちなみに、赤ちゃんは生まれるとき、産道を通ることで母親から細菌を受け継ぐといわれており、人の腸内細菌の形成はここからはじまると考えられています。また、行きすぎた除菌習慣や抗生物質の乱用が腸内フローラの多様性を減少させ、疾病を招いていると指摘している専門家もいます。

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工藤 孝文(くどう・たかふみ)
工藤内科 副院長
1983年生まれ。福岡大学医学部卒業後、アイルランドとオーストラリアへ留学。専門は糖尿病、減量外来、漢方治療。「ガッテン!」(NHK)、「世界一受けたい授業」(日本テレビ)などメディア出演多数。著書に『疲れない大百科』ほか。
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(工藤内科 副院長 工藤 孝文)