■「自分を変える特別な体験」を提供できるか

父親の仕事の関係で、小学生時代はレバノンのベイルート、高校生時代はオーストリアのウィーンで暮らし、グローバルな社交の場に身を置く機会に恵まれた山田理絵氏。大学卒業後フジテレビに入社、報道記者を経て社長室付となり役員の海外賓客との社交をサポートした。こうした経験を生かし、現在は夫・長光氏とともに都市の競争力を高める研究機関「アーバン・キャビン・インスティテュート」にて、グローバルリーダーを対象にさまざまなプログラムを講ずる。そのひとつに「ハイエンドトラベル」がある。

ラグジュアリー・コンサルタント 山田理絵氏

全世界で年平均6.4兆円の成長が見込まれ、2022年には約127兆円に達すると予想されるのがハイエンドトラベル市場。世界の旅行者のわずか3%のハイエンドトラベラーが旅行消費全体の4分の1を占めるという調査結果もある。本書で山田氏は、そうしたハイエンドトラベルの現状を先進事例、価値創造のヒントとともに解説する。

山田氏によれば、ハイエンドトラベルの起源は16世紀の英国で始まった「グランドツアー」にあるという。

「当時の貴族や上流家庭は教育の仕上げとして、生き抜く力と教養を身につけさせるため、子供を旅に出しました。子供たちは見知らぬ土地で視野を広げ、社交術を磨きながら、その地でしか得られない特別な体験を持ち帰る。これがグランドツアーです」

■最良のハイエンドトラベルとは

現在、欧米ではそのエッセンスを汲み取ったハイエンドトラベルが広く浸透する一方、日本においては本質の理解が進んでいない。

山田理絵『グローバルエリートが目指す ハイエンドトラベル』(講談社)

「ハイエンドトラベルとは、必ずしも上流家庭のためのものではありません。そしてハイエンドトラベラーが求めるのは、『お金で買える最高級』ではなく『お金で買えない特別な体験』です」と山田氏は指摘する。

「いまの自分に何が必要か。自分自身を見つめ、テーマを選ぶところから旅は始まります。旅を切り口に、豊かな人生を送るためにはどんな経験をすればいいか、どのようなステップで希望を実現するかを考えることに意味があります。同伴者がいるなら、旅の前に時間をつくって話し合い、お互いの価値や目的を理解する。そのうえで、旅という非日常の空間で、日々の閉塞感から脱し、自己を解放し、人との交流や体験を通して答えを導き、自分自身を高めていく。最良のハイエンドトラベルとは、内面に刺激を与え、自己を変容させ、新しい自分に出会う旅なのです」

社交に長けたグローバル人材が圧倒的に不足しているとされる日本。本書の指摘から学ぶことは多いだろう。

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山田理絵
ラグジュアリー・コンサルタント
早稲田大学第一文学部卒業。1996年に茶道宗徧流十一世家元の山田長光氏と結婚。茶名・山田宗里。

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野崎 稚恵(のざき・ちえ)
ジャーナリスト
1967年新潟県生まれ。青山学院大学英米文学科卒業。証券会社のディーラー、トレーダー、雑誌編集者を経て独立。経済、金融、経営分野で活躍中。翻訳本にレイ・クロック自伝『成功はゴミ箱の中に』がある。
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(ジャーナリスト 野崎 稚恵 撮影=ミヤジシンゴ)