「「ソーラーカー」の実用化に現実味はある? 太陽電池で走るプリウスの実証実験から、EVの未来を考える」の写真・リンク付きの記事はこちら

トヨタ自動車のエンジニアたちは、おそらくこまめに天気予報をチェックしていることだろう。太陽光で充電できる「プリウスPHV」の実証試験を7月下旬から日本で開始すると発表していたからだ。

プリウスPHVは、すでに量産モデルにもソーラーパネルが一部搭載されている。今回の公道走行用実証車はトヨタがシャープと新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と協力して開発したもので、量産モデルから大きく進化している。天気がいい日に駐車しながら充電するだけでなく、プリウスとしては初めて走行中にも充電可能なシステムを搭載しているからだ。

こうした取り組みを進めているのはトヨタだけではない。今年6月には、オランダのスタートアップであるライトイヤーが、ソーラーパネル搭載の電気自動車(EV)「Lightyear One」を発表し、限定モデルの先行予約を価格12万ユーロ(約1,450万円)で開始している。納車は2021年の予定だ。

ソーラーパネルが搭載されたからといって、ガソリンスタンドや充電ステーションに行く必要がなくなるわけではない。自動車メーカーの意気込みとは対照的に、こうしたクルマは快晴の日にごく短距離だけ走行する場合でも、ソーラーパネルだけでは十分な電力を供給することはできない可能性が高いからだ。

あくまで補助的な位置づけに?

プリウスPHVにソーラーパネルを搭載した市販モデルは、定格発電電力が180Wである。太陽電池セルの変換効率は22.5パーセントで、これは1日の充電で6.1kmほど走行できる電力に相当する。だが実際のところ走行用というよりも、エアコンなどの内部システムに電力を供給する役割を主に担っている。

これに対して今回の公道走行用実証車は、定格発電電力が860W、太陽電池セルの変換効率が34パーセントになっており、太陽光で丸一日充電すれば駐車時に44.5km、さらに走行中も充電を続ければ56.3km走れるという。それでも天気さえよければずっと走行を続けられるという意味ではない。

それに860Wの発電が可能なのは快晴の真昼だけで、朝夕や曇天のときには発電量はもっと少なくなると、南オーストラリア大学教授でソーラーカーのレース「ワールド・ソーラー・チャレンジ」技術委員会の委員長でもあるピーター・プドゥニーは指摘する。

「日射しが十分であっても、発電される電力はヘアドライヤーを使うために必要な電力の半分ほどしかありません。このクルマの電気モーターが走行するために必要な電力を供給するにはまったく足りないでしょう。このクルマのモーターは、加速時には最大で53,000Wの電力が必要なのですから」と、ブトゥニーは説明する。「このクルマには、1日以上かけて集めた太陽光エネルギーを蓄積するバッテリーもあり、走行を補助するために短時間だけ利用する仕組みのようです。それに電力が足りなくなれば、ガソリンエンジンでも走れるようになっています」

短距離の通勤なら太陽光だけで走れる可能性

それでも今回の公道走行実証がうまくいけば、特定の条件下に限っては完全に太陽光エネルギーだけでクルマを走らせることが可能かもしれないと、ピッツバーグ州立大学准教授のエリック・メイヤーは言う。

「仕事の間に8時間ほど駐車しておいて、ソーラーパネルで860Wの電力を得られたとしましょう。そうすると、電力量は6.88kWhになりますね」とメイヤーは言う。「つまり、仕事中に駐車している間にバッテリーをフル充電できる計算になります。通勤距離が片道12マイル(約19.3km)以内なら、ガソリンを使ったりコンセントで充電したりすることなしに、完全に太陽光エネルギーだけで走ることも可能かもしれません」

とはいえ、それには条件もある。メイヤーが指摘するには、バッテリーに充電するシステムの効率性や、太陽光がソーラーパネルに直に当たるかどうかによるという。だが実際のところ、太陽光がパネルに直に当たらないこともあるだろう。道路が渋滞してさえいなければ、太陽光エネルギーだけで通勤が可能になる人もいるかもしれない。

だがこの距離は、オーストラリアで2年に1回開催される耐久レース「ワールド・ソーラー・チャレンジ」でソーラーカーが走る3,000kmと比べると、あまりにも短い。このレースの過去3回のクルーザー部門は、アイントホーフェン工科大学の学生たちが優勝している。チームにはライトイヤーのEVの開発に携わっている人たちもいる。

太陽光レースのクルマの“究極”の姿

そうはいっても、これらのソーラーカーはプリウスPHVのようなクルマとはまったく違った乗り物に見える。わたしたちが普通イメージするようなクルマではないのだ。まず、ソーラーパネルをなるべく多く載せるために、ルーフが平らで表面積が広いものが多い。そしてエネルギー消費を減らすために超軽量の素材でつくられている。

「チャレンジャー部門に参加する1人乗りの車両は、電力網からの充電なしにレースで走行します」と、ワールド・ソーラー・チャレンジの技術委員会委員長のプドゥニーは言う。次回のレースは今年10月に開催予定だ。

「もう少し実用性を重視したクルーザー部門なら2人以上が乗れる車両で、しかも電力網につないで充電してもいいことになっています。それでも1,200km近くを充電なしで走らなくてはなりません。こうした優れたパフォーマンスの秘密は、レースに参加するクルマの重量が通常のクルマの20パーセントに満たない点にあります。それに空気抵抗もずっと少ないのです」

優秀な成績をおさめるソーラーカーは、わたしたちがクルマの運転から想像するような快適性をかなり犠牲にしている。それはあとから考えればいいことなのだ。

トヨタの実証車の優れたポイント

これに対してプリウスPHVの実証車は一見すると市販モデルと変わらず、安全基準を満たした一般的な素材でつくられている。今回の実証車の太陽電池セルは厚さがたった約0.03mmのフィルム状なので、あまり重量を増やさずに屋根やボンネット、トランクに装着できる。

この設計に説得力があるのは、クルマの外見を変えることなくソーラーパネルを搭載した点にあるが、それだけではない。ワールド・ソーラー・チャレンジの技術委員会委員長のプドゥニーは、太陽電池セルの変換効率が世界最高レヴェルに近い点にあると指摘する。「実証車には化合物3接合型のセルが採用されています。つまり、3層の太陽電池が重ね合わされているようなもので、それぞれの層が異なる波長の光に対応しています」

それでもこのパネルは、建物の屋根に設置されているような分厚い標準的なソーラーパネルほどは効率的ではないのだと、プドゥニーは言う。建物用のソーラーパネルは、太陽光を最大限に受け取れる位置に固定し、日陰にならない角度に配置することもできるからだ。

それに自動車のバッテリーは容量が小さいうえ、日射しを最大限に利用できないかもしれない。「ソーラーカーでバッテリーがフル充電されると、太陽電池セルは機能を停止してしまいます。エネルギーの行き場がなくなってしまうのです」と、プドゥニーは説明する。

晴れの日を喜ぶべき理由になる

そうは言っても太陽光エネルギーから生み出された電力は、ほかのエネルギー源に頼らないものだ。自動車が必要とするエネルギーのすべてを太陽光から得ることができないからといって、EVが増えたときに電力網への依存を減らすうえでソーラーパネルが役に立たないわけではないと、ボローニャ大学の生産工学教授ジャンジャコモ・ミナクは指摘する。

「太陽光エネルギーをバッテリーに蓄積すればするほど、クルマが走るためのエネルギー源になるのですから」と、ミナクは言う。そこにエネルギーがあるのだから、使うにこしたことはない。それがたとえ必要とされるエネルギーのほんの一部にすぎないにしてもだ。

とはいえ、ソーラーパワーで走るクルマが成功するには、これまで以上に優れたバッテリーが必要になるうえ、現実にはありえないほどの好天に恵まれる必要もある。それに太陽光はいまのところ、EVに電力を供給するほかのどの方法と比べても効率が低い。ライトイヤーが開発したEVの事例から考えても、仮に実用化されても極めて高価なものになるだろう。

だからといって、ソーラーカーがばかげたアイデアというわけではない。EVの走行可能距離が増えて電力網への負荷が減るだけでなく、設計次第では家庭に電力を供給できる可能性も秘めているからだ。

「ソーラーパネルを積んだクルマや建物を電力網に接続できれば、クルマが必要としない太陽光エネルギーをほかの目的に使うこともできます」と、プドゥニーは言う。つまり、完全に太陽光エネルギーだけで走るクルマの実現は遠いかもしれないが、実証試験がうまくいけば、天気のいい日を喜ぶ理由がひとつ増えることは確かなのだ。