いよいよ3歳クラシックの開幕である。その第1弾となるGI桜花賞(阪神・芝1600m)が4月7日に行なわれる。

 今年は、昨年末のGI阪神ジュベナイルフィリーズ(12月9日/阪神・芝1600m)を制して2歳女王に輝いたダノンファンタジー(牝3歳)が、前哨戦のGIIチューリップ賞(3月2日/阪神・芝1600m)も難なく勝利。人気のうえでは同馬が中心と見られている。


昨春の新馬戦ではグランアレグリアがダノンファンタジーに圧勝した

 だが、このダノンファンタジーをデビュー戦であっさり退けたグランアレグリア(牝3歳)や、阪神JFで僅差の2着となって、年明けのGIIIクイーンC(2月11日/東京・芝1600m)を快勝したクロノジェネシスなど、手強いライバルも数多く控えている。

 ここまで4連勝中とはいえ、ダノンファンタジーも決して安泰とは言えない状況だ。また、3歳牝馬にとっては未知なる距離での戦いとなるGIオークス(5月19日/東京・芝2400m)となれば、思わぬ馬が台頭する可能性も大いに考えられる。

 そういう意味では、3歳牝馬クラシックは混戦模様である。素人目には、その行方はなかなか読めない。

 そこで、今年も競走馬の分析に長(た)けた元ジョッキーの安藤勝己氏に取材を敢行。今年の牝馬クラシックに挑む面々の実力について診断・分析をしてもらい、独自の視点による「3歳牝馬番付」を選定してもらった――。






横綱:グランアレグリア(牝3歳)
(父ディープインパクト/戦績:3戦2勝、3着1回)

 生まれ持った素質は、この世代では一枚上――そう思わせたのは、昨春のデビュー戦(6月3日/東京・芝1600m)。馬の完成度で言えば、同レースで2着に敗れたダノンファンタジーのほうが高かったが、その馬をまったく寄せつけずに完勝したのだ。

 そして、そのダノンファンタジーがその後、阪神JF、チューリップ賞と、いわゆる桜花賞への王道路線を歩んで連勝。この馬はその上にいるわけだから、「横綱」はこの馬、ということになる。

 前走のGI朝日杯フューチュリティS(12月16日/阪神・芝1600m)では3着に敗れたけれども、牡馬相手の一戦で、勝った馬に出し抜けを食らった感じだった。それまで楽な競馬ばかりだったから、ちょっと隙があって、そこを突かれた印象だ。決して力負けではないし、この馬の能力はあんなものではないと思う。

 一瞬でサッと抜け出す脚があって、前からでも、後ろからでもレースを進められ、どんな競馬にも臨機応変に対応できる。何よりスケールが大きいし、まだ完成途上で伸びしろもある。オークスまではこの馬で決まり、だろう。

 桜花賞に向けては、前走から間隔が開きすぎていることを問題視する人もいるみたいだけど、どこかが悪くて使えなかった、というわけではなく、ぶっつけのGIでも勝負になると見込んでのことだから、大きく割り引く必要はないと思う。

 もしかすると、オークスのあとの目標は、凱旋門賞なのかもしれない。それを考えれば、この時期は疲労を残さないためにも、使うレースは絞ったほうがいい。今回のぶっつけローテーションには、そんな思惑もあるような気がするね。

大関:ダノンファンタジー(牝3歳)
(父ディープインパクト/戦績:5戦4勝、2着1回)

 ここまで5戦して、グランアレグリアにしか負けていないわけだから、この馬が「大関」。前走のチューリップ賞も強い競馬だった。

 最初、スタートがよくて、ちょっと折り合いを欠いてしまったけど、すぐに落ち着いて、道中はインを楽に追走していた。ところが、直線に入って「さぁ、これから」というところで、馬群に包まれて、出るところがなくなってしまった。

 並の馬なら、ここで戦意喪失してもおかしくないところ。でもこの馬は、そこから外へ外へと進路をとって、空いたところを見つけると、一気にパワーを全開にして先頭へ。勝負どころで不利があったにもかかわらず、それをものともせずに楽勝した。ああいう競馬ができる馬は強い。

 この馬のいいところは、第一に完成度の高さ。加えて、レースがうまくて、操縦性も高いこと。ゆえに、後方から強襲した阪神JF、先行して抜け出したチューリップ賞と、いろいろな競馬ができて、崩れることがない。デビュー戦では敗れたけれども、桜花賞ではグランアレグリアともいい勝負ができると思う。

 ただこの馬は、見るからに(馬体の)前後が詰まっていて、体形的には距離が持たない印象がある。おそらく、距離は2000mあたりがギリギリではないか。その点からして、桜花賞がメイチの勝負。完成度が高いこともあって、そこを勝たないと、その後は苦しくなるかもしれない。

関脇:クロノジェネシス(牝3歳)
(父バゴ/戦績:4戦3勝、2着1回)

 この馬のいいところは、長くいい脚を使えること。しかも、どんな展開になっても確実に使える。つまり、最後に必ず伸びてくる。

 桜花賞では、おそらく直線一気の終(しま)いの競馬に徹するだろうから、横綱、大関といえども、抜け出すタイミングをわずかでも誤ると、この馬に食われるシーンもありそうだ。

 ここまで4戦して3勝だが、最も強いと思ったのは、唯一2着に敗れた阪神JF。勝ったダノンファンタジーとは半馬身差だったけど、あの差は馬の能力ではなく、騎手が肝心な仕掛けどころを間違っていた気がする。

 ダノンファンタジーと同じように後ろからいって、こっちは終始、外、外を回された。それでも、4コーナーを回り切ったところで一瞬、ダノンファンタジーの前に出た。というか、出てしまった、と言ったほうがいいかもしれない。結局、そこから差し返されて、そのまま……。

 もし、自分があのレースであの馬に乗っていたとしたら、もうちょっと仕掛けを我慢した。我慢して、我慢して、直線一気の競馬にかけた。そういう落ち着きと大胆さが、あのレースでは必要だったように思う。そうすれば、ダノンファンタジーとの半馬身差は十分に逆転できたはずだ。

 あと、この馬の場合、父親が一線級の中に入ると切れ味で見劣るバゴ、というのが気になる。とはいえ、4戦して崩れていないというのは、血統では計れないタイプなのかもしれない。また逆に、父親がバゴということで、オークスでも期待ができる。

小結:アクアミラビリス(牝3歳)
(父ヴィクトワールピサ/戦績:3戦2勝、着外1回)

 今年の桜花賞候補には、末脚自慢が多い。なかでも、「こいつはすごい」と思ったのが、この馬。とにかく、エルフィンS(2月2日/京都・芝1600m)は衝撃的だったね。直線最後方から、前をいく各馬を一気にごぼう抜きしていった。あの爆発力は、すごくインパクトがあった。

 ただ、この馬はそのエルフィンSを含めて、本当に強い相手とは戦っていない。その点は気がかりではあるけれども、逆に言えば、そこは未知な部分でもあるから、目前の桜花賞がどうこうよりも、将来的な楽しみがある。その意味で、「小結」という評価にした。

 この馬のように後ろから行く馬は、展開に左右されるし、(末脚が)ハマるかどうかわからない、という弱点もある。そんな本質をわかったうえで評価するのは、この馬の豪快な競馬っぷり。荒削りゆえの魅力を感じるからだ。

 正直、桜花賞では上位評価の馬には敵わないと思う。でも、荒削りな分、伸びしろも大きいから、オークスでは逆転の可能性が出てくる。

 それに、この馬の鞍上がミルコ・デムーロ騎手、という点にも惹かれる。こうした直線一気のタイプは、ミルコに最も合うからね。

前頭筆頭:シェーングランツ(牝3歳)
(父ディープインパクト/戦績:5戦2勝、着外3回)

 デビュー前から、オークス馬ソウルスターリングの妹として注目を浴びていた同馬。そのわりには、ここまでの戦績はパッとしない。未勝利戦を勝ち上がって、連勝で重賞を制するまではよかったけれども、相手が強化された阪神JFで4着、チューリップ賞でも5着と今ひとつ振るわない。

 実は勝った重賞、GIIIアルテミスS(10月27日/東京・芝1600m)もそれほど強い競馬とは感じなかった。原因は、すべて馬体にある。いかにも緩い。要は、素質だけで走っているようなものだ。

 それでも重賞を勝てるのは、そもそもの能力がいかに高いか、ということ。おそらく馬体がしっかりして、競走馬として完成されるのは、もっと先だと思う。

 だとしても、桜花賞はともかく、オークスでは面白い存在になってきそうな気がする。なぜなら、こういうタイプには東京のような広々とした馬場が合うからだ。しかも、ある程度距離があったほうがいい。すなわち、オークス向き、ということだ。

 ディープの子だが、瞬発力というタイプではないから、ディープ産駒っぽくなくて、フランケル産駒のお姉さんともタイプが違う。何にしても、飛びが大きいから、広いコースで、自分のリズムで気持ちよく走ったら、どこまでも伸びていきそうな感じがする。

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 この他、有力どころを挙げるとすれば、強い相手と戦って、常に善戦しているビーチサンバ(牝3歳/父クロフネ)や、前走のGIIIフラワーC(3月16日/中山・芝1800m)で、逃げて強い競馬を見せたコントラチェック(牝3歳/父ディープインパクト)らの名前が浮かび上がる。

 ただ今回は、あくまでもクラシックを”勝つ馬”という視点を重視して評価した。その点でビーチサンバは、掲示板はあっても、勝つまでの可能性は感じられなかった。一方のコントラチェックも、”オークス直行”という選択がどうなのか。GI NHKマイルC(5月5日/東京・芝1600m)なら、勝ち負けに十分加われると思うが、オークスは同馬にはいかにも距離が長い、という印象がある。

 したがって、桜花賞、オークスを含めて現時点で有力なのは、番付に名前を挙げた5頭。ここから、勝ち馬が出ると思う。

 3歳牝馬の全体的な評価としては、桜花賞でのグランアレグリアのレースぶりにかかってくるのではないか。久々の競馬で、桜花賞にパッと出てきて楽に勝ってしまうようなら、この世代では同馬が1頭、抜けている可能性が高い。オークスとの二冠も有力だ。

 しかし、桜花賞で負けたり、勝つにしてもギリギリの勝負になったりしたら、今年の3歳牝馬は混戦。オークスは、かなりの激戦が予想される。

安藤勝己(あんどう・かつみ)
1960年3月28日生まれ。愛知県出身。2003年、地方競馬・笠松競馬場から中央競馬(JRA)に移籍。鮮やかな手綱さばきでファンを魅了し、「アンカツ」の愛称で親しまれた。キングカメハメハをはじめ、ダイワメジャー、ダイワスカーレット、ブエナビスタなど、多くの名馬にも騎乗。数々のビッグタイトルを手にした。2013年1月31日、現役を引退。騎手生活通算4464勝、うちJRA通算1111勝(GI=22勝)。現在は競馬評論家として精力的に活動している。