<フランスでは、学校が「父親」「母親」という言葉を使用しなくても済むよう法律を修正する案が国民議会(下院)で可決した>

ゲイの両親を持つ子への配慮

日本では先日初めて、同性婚を認めないことの違法性を問う裁判が始まったが、2013年に同性婚がすでに合法化されているフランスではこのほど、学校が「父親」「母親」という言葉を使用しなくても済むよう法律を修正する案が国民議会(下院)で可決した。

フランスでは現在、「学校への信頼を取り戻す」というスローガンのもと教育改革が進められている。下院で可決したこの修正案もその一環で、学校が書類などに「父親」や「母親」などの言葉を使うのをやめ、「親1」や「親2」という表現を使うことができるようにするものだ。このあと、上院で採決されることになる。

与党の共和国前進はこの修正について、フランスの学校を、2013年に成立した同性婚を合法とする法律に即したものにしていくのに必要なステップと捉えている。両親が同性婚で必ずしも「父親」と「母親」がいるわけではない家庭の子供が、こうした言葉を使わずに済むようになるのだ(本誌米国版)。

英テレグラフ紙によると、共和国前進のヴァレリー・プティ議員は、「父親」や「母親」のどちらかに印をつけなければいけないチェックボックスが付いた、学校から家庭に渡される書類を例に挙げて次のように述べた。「こうした古めかしい社会モデルや家族モデルに固執したチェックボックスに不本意ながら直面しなければならない家庭がある。我々にとってこの条項(今回加えられた修正)は、社会的平等の程度を測るものだ」。

またフランス最大の保護者会統括組織FCPEPのロドリゴ・アレナス会長は、「子供がいじめられる時は大抵の場合、普通と違うというのが理由でターゲットにされてしまう」とし、今回の修正は「非常にいいこと」だと歓迎した。

どっちが「親1」で「親2」?で序列を作りかねない

とはいえ、少なからず反対意見も上がっている。共和党のグザヴィエ・ブルトン氏は今回の修正について、「現実に呼応しない政治的な考えによるものだ」とし、「(父・母が)古めかしい形だと言っているのを聞くと、現在のフランスにおける結婚の95%は男女の夫婦だと指摘したくなる」と述べた。

また、同性婚に反対する組織「LMPT」の代表者リュディヴィーヌ・ド・ラ・ロシェール氏は、親を「1」や「2」などとすることについて「全くもって非人間的な扱い」だと反発した。

極右政党である国民連合のマリーヌ・ルペン党首は、今回の修正が、マクロン政権の家族観は家族を侮辱したものだということを示しており、同政権の「仮面が剥がれた」と述べた。

同性婚両親のための協会AFDHは、同性婚の両親が学校の記入欄に取り入れてもらえることを歓迎する一方で、「親1」は誰で「親2」は誰なのか、と両親の間に序列を作りかねないと警告。それよりも、「父親、母親、法定代理人」のような包括的なものにするよう求めた。

なおテレグラフによると、「父」「母」をやめ「親1」「親2」とする話は、2013年に同性婚を法制化した際の議論にも出ていたものだった。しかし当時、ジャン=ミシェル・ブランケール氏(現在の国民教育相)がこれは国レベルで立法化されるべき問題ではないと反対したこともあり、法案に盛り込まれなかったという。

松丸さとみ