e-BOXERと呼ばれるマイルドハイブリッドを搭載した「Advance」が「XV」に新たに加わった(筆者撮影)

今年10月、SUBARU(スバル)「XV」に新たに加わったグレードである「Advance」は、先日発売された同社のフォレスターのAdvanceと同じパワーソースを持つ。


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つまりe-BOXERと呼ばれるマイルドハイブリッドで、排気量2.0Lの水平対向4気筒直噴エンジンとモーターを組み合わせたシステムだ。

フォレスターではこのe-BOXERを搭載したAdvanceのほかに、2.5Lの水平対向4気筒エンジンを搭載したPremiumやX-BREAKなど、各グレードは並列的でキャラクターの違いで選んでもらうような感覚だった。しかし今回XVに加わったAdvanceは、XVの最上級に位置づけられるグレードとなっている。

e-BOXERのマイルドハイブリッドの仕組み

最近はメルセデス・ベンツやアウディなど、48Vのマイルドハイブリッドを用いたモデルが続々登場して話題となっているが、フォレスターや今回のXVが用いているe-BOXERのマイルドハイブリッドは、これらとは仕組みが少々異なる。


118Vの電圧で動くのはCVTとAWDの間に位置するモーターのみ(筆者撮影)

2.0Lの水平対向4気筒エンジンは最高出力145馬力/最大トルク188Nmを発生する。そしてリニアトロニックCVTを介し、シンメトリカルAWDによって路面に伝えるわけだが、概念的にはこのCVTとAWDの間にモーターが位置することになる。そしてこの位置は大きな径のモーターは入れられないので最高出力13.6PS、最大トルク65Nmを発生するモーターが組み込まれることになるわけだ。

このモーターは118Vで駆動および回生をして、ボディ後方に置かれたリチウムイオンバッテリーに出し入れする。そしてこのモーターは駆動と回生のみに用いられており、118Vの電圧で動くのはこのモーターのみとなっている。

そしてこれとは別に12Vで駆動するISG(インテグレーテッドスタータージェネレーター)が用意されており、このISGはアイドリングストップからの復帰にのみ用いている。そして通常のエンジン始動はセルによって行われている。ここまで読んでいただければわかるように、なんとも“もったいない”仕組みでもある。


通常のエンジン始動はセルによって行われる(筆者撮影)

だから比べると、たとえばメルセデス・ベンツCクラスのBSG(ベルトドリブン・スターター・ジェネレーター)などは、スタータージェネレーターが通常のエンジン始動、アイドリングストップからの復帰を含むエンジン再始動、そしてモーターとしてのパワーアシストとエネルギー回生を1つに集約している。そしてこれを48Vですべて賄っているわけだ。

モーターのアシストを感じる走りが魅力

そうした効率はさておき、XV Advanceの走りは先に登場したフォレスターAdvanceよりも、ハッキリとモーターのアシストを感じる走りが魅力だ。

最大の理由はこのXV AdvanceがフォレスターAdvanceより約90kg車両重量が軽いことにある。それだけにわずか65Nmを発生するモーターでも、停止から発進するようなシーンや、アイドリングストップからの再始動や、そして加速時のアシストなど、あらゆる面でフォレスターよりも“電化”している感覚をモーターのフィーリングから感じ取れる。


電動駆動が加わったことでアイサイトの反応は向上した(筆者撮影)

今回は実際に街中、高速道路、ワインディングとさまざまなシーンで走らせてみたが、こうしたときにエネルギーフローのモニターを見ていると、e-BOXERはかなり頻繁にリチウムイオンバッテリーに電気の出し入れをしていることがわかる。バッテリーの容量は1kWと小さいため、上りなどで長く踏み込むとすぐになくなるが、逆に下り坂などではすぐに回生して満タンになる。

また、「良いな」と思えたのはアイサイト・バージョン3との親和性の高さである。XVはまだ「インプレッサ」などが採用しているアイサイト・ツーリングアシストになっていない点は残念だが、e-BOXERによる電動駆動が加わったことでアイサイトの反応は向上した。

たとえば、前走車に追従して走行している際に、当然ながら前走車は一定のスピードで走っているのではなく、交通の状況に応じて加減速するわけだが、アイサイトはこれをカメラで見て前走車の動きに合わせて加減速を行う。そうしたときに、内燃機関だけのモデルでは、前走車が減速して自車が減速し、前走車が再加速するような状況で確実に1テンポ、いや2テンポくらいはタイムラグがあって自車の再加速が始まる。

これは前走車が再加速したことをカメラが認識して、そこから加速をすると判断し、アクセルを開ける信号を出してこれをエンジンが受け取って回転が上がり、そして実際の加速となる……という一連の動きがあるためだ。しかしながら、e-BOXERの場合はこうしたシーンで、エンジンの回転が高まるよりも先にモーターが即座に力を発揮して加速が行われる。そしてここに回転の高まったエンジンの力が後から付いてくるので、これまでのようなタイムラグが解消されるのである。


フォレスターのe-BOXERをしのぐ反応(筆者撮影)

もちろんこの理屈は同じe-BOXERを搭載するフォレスターAdvanceでも同じであるが、やはりこうしたシーンでもXV Advanceのほうが軽量なだけあって、よりキビキビ反応するところがフォレスターのe-BOXERをしのぐ。

さらにXV Advanceではハンドルの右スポーク根元に「エコクルーズ」ボタンが設置されており、これを押すことによってEVモードの領域が通常の40km/h以下から80km/h以下へと範囲が拡大する。またエアコンの制御を行い、温度設定をやや緩慢にしてコンプレッサーの作動を低減。さらに追従時の加減速を穏やかにするなどして燃費を向上させるのだ。

スバルの"電化"の将来

今回、XVにe-BOXERが搭載されたことによって、スバルは現状の“電化”にはひとつの答えを出しているが、今後はさらに高効率が求められるのも事実。しかしながら、将来に関しても先日、ひとつの提案を行った。

それが先日開催された「第31回国際電気自動車シンポジウム・展示会」(略称:EVS 31)に出展したプラグインハイブリッド車のプロトタイプ。これは同じXVをベースとしたもので、搭載エンジンは2.0Lの水平対向4気筒と変わらないものの、その後ろに与えられるトランスミッションが新しいものとなっている。これはトヨタのTHSをベースに開発されたもので、2つのモーター/ジェネレーターを搭載するものとなっているのだ。

ちなみにトヨタのTHSを搭載するプラグインといえばプリウスPHVだが、このモデルのスペックを見るとモーターは最高出力72ps、最大トルク163Nmを発生する。ここから予測するに、XVのプラグインでも、かなり力強いアシストが実現されると同時に燃費の向上効果も大きいだろう。

このモデルに関して詳細は明らかにされていないが、すでに年内にアメリカでの発売が決まっていると言う。もちろんこれは、今後厳しくなるアメリカでの環境規制に対応するための策である。では、このプラグインが日本導入されるのか? 現時点では、日本への導入予定はないと言われている。

スバルは今年の7月に出した中期経営ビジョン「STEP」の中で、2020年以降に新設計のダウンサイジングターボを投入することを明らかにしており、またその先でEVのグローバル投入や新ハイブリッドを順次投入とうたっている。が、具体的なのはダウンサイジングターボで、ここにはまだハイブリッドの話は見えてこない。

しかし日本市場においても周りがSUVにもハイブリッドを続々投入している状況であり、特に燃費という点においてはスバルのプロダクトは厳しい状況にあるのも事実。

それを少しでも払拭するために、フォレスターやXVにe-BOXERを搭載したAdvanceを用意しているのだろうが、これはあくまでもモーターが動力性能を補完しているものであり、プロダクト的には魅力的に仕上がっているものの、今後求められる燃費向上への抜本的な解決を図るための切り札とは言えない。

さらに今後のスバルのプロダクトを考えた場合には、特にこれまで以上にパワーソースが重要になってくるのも事実。今後も水平対向エンジンを用いていくならば、現時点で将来的に投入予定のダウンサイジングターボは当然として、現状よりもさらなる“電化”と“低燃費化”が求められるわけで、そこにはプラグインハイブリッドシステムやそれ以上の進化が必須だといえる。

特にここ最近の自動車の動向を見ていると、わずか数年で急速に市場が拡大する傾向にある。たとえばSUV市場なども、この数年で急速に広がった。そうしたケースを見ていると、最近はさまざまなカテゴリーでの電化が進んでおり、欧州を中心にマイルドハイブリッドの波が大きくなりつつある。それはつまり、今後はピュアな内燃機関ではなくプラスαの電化された新世代パワーソースが増えていく流れである。そしてこうした流れも何かをきっかけに、一気に大波となって押し寄せる可能性はある。そうしたことを考えても、筆者としてはXVのプラグインのようなプロダクトは日本市場で展開してもいいのではないかと思うのだが……。

とはいえ今後のスバルの電化については、注意深くウォッチしていきたいと思う。