ベルギーを相手に“前半スコアレス”を実現した日本代表【写真:Getty Images】

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過去の16強進出時に見られなかった日本の“意思”、だからこそ出会えた課題

 サッカー日本代表は2日(日本時間3日)、ワールドカップ(W杯)ロシア大会決勝トーナメント1回戦で国際サッカー連盟(FIFA)ランキング3位の強敵ベルギーに2-3で惜敗した。前半を無失点でしのぐと、後半開始直後にMF原口元気(デュッセルドルフ)、MF乾貴士(エイバル)のゴールで2点のリードを奪ったが、同20分過ぎから立て続けに失点。最後は試合終了間際のカウンターで決勝点を奪われ、力尽きた。

 今大会屈指の強豪相手を脅かした日本。一時は初の8強進出に手をかけながら逆転負けを喫した展開を専門家はどう見たのか。「THE ANSWER」では、W杯4大会出場の経験を持つ元日本代表GK川口能活(SC相模原)に話を聞いた。

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 ベルギーに勝利し、歴史が変わる瞬間を目に焼き付けたい。その思いで朝3時に目覚まし時計を鳴らし、日本代表の試合をチェックさせてもらいました。

 負けてしまったものの、すごく良い試合をしてくれたというのが一番の感想です。立ち上がりから日本の動きが良く、これはポーランド戦で先発を6人入れ替えた効果も少なからずあったのだと思います。前半15分過ぎからは相手のパスワークに圧倒される時間が続きましたが、自陣ゴール前の最終局面で吉田麻也選手と昌子源選手を中心に体を張り、よく我慢しました。ベルギーのような格上と戦って勝利をつかむための最低条件ともいえる“前半スコアレス”を実現したことで勝機を高めてくれました。

 後半に入ってカウンターから先制する展開も理想的でした。柴崎岳選手のスルーパスは、もしかしたら狙いとは少しズレていたかもしれません。でも対応したベルギーDFは利き足が左だったので、自分から見て右側へのボールの処理に苦労したように見えました。ゴールを決めた原口元気選手は常に献身的なランニングで攻守両面を支えていましたから、そのご褒美とも言えるゴールでした。

 追加点となった乾貴士選手のミドルシュートはまさしくスーパーゴールで、これには早朝ながら僕も絶叫してしまいました。「ベスト8が見えてきた」と感じた人も多かったのではないでしょうか。僕自身も、未踏の地に日本が足を踏み入れる日がやってきたのかなと思いましたから。

高速カウンターの起点となったベルギー守護神クルトワの凄さ

 その一方で、2-0が難しいスコアなのはサッカーの世界の定説でもあります。ただ、自分たちが点を取る時間を選ぶことはできません。ベルギーが猛攻を仕掛けてくることは分かりきっていましたから、それをどう防ぐか、あるいはカウンターからいかにして3点目を狙うか。守りに入るのではなく、イニシアチブを握りながらリスクを管理するという、難しいテーマと向き合うことになりました。結果的には2-0の時間を長くできなかったのが痛かった。後半30分くらいまで2-0の状況で進められればベルギーにも焦りの色が出たのでしょうが……。

 1失点目は不運ではなく、相手がヘディングシュートを狙っていた可能性も十分にあると思います。その前にクロス対応した川島永嗣選手のポジションが若干前になっていたのは事実で、その隙を見逃さずにヘディングシュートをコントロールする技術を持っているのが世界トップクラスの選手です。おそらく一歩の差、距離にすれば数十センチなのですが、それが日本と世界との差なのかもしれません。

 2失点目もセットプレーからの二次攻撃でしたが、ゾーンで守っているウィークポイントが出た場面でもあります。最初とは反対サイドからのクロスに対して、自分たちの陣形と相手の入り方を整理し、対応するのが難しい。クロスを上げたアザール選手の技術と、決めたフェライニ選手のヘディングの強さは間違いなくワールドクラスで、心身ともに苦しいタイミングの日本は耐えきれませんでした。

 そしてアディショナルタイムに献上した決勝ゴールですが、起点は相手GKのクルトワ選手でした。今大会、本田圭佑選手のCKを相手GKがキャッチするシーンはほとんどなかったと思いますが、クルトワ選手は守備範囲が広く、キャッチングの技術も高かった。カウンターの第一歩となる球出しも正確でした。時間にして10秒にも満たない高速カウンターがベルギーの底力なのでしょう。

 惜しくもベスト8進出の夢は叶いませんでしたが、今大会の日本が下馬評を覆すプレーを見せてくれたのは間違いありません。ポーランド戦こそ特殊なゲーム展開で賛否両論あったかもしれませんが、その他の3試合は素晴らしいパフォーマンスでした。何よりも選手たちが気持ち良さそうにプレーしていたのが印象的で、ゴールが決まるたびにベンチ前で歓喜の輪が広がる様子は一体感そのものでした。

今大会で痛感したGK育成の必要性、進化するために何が必要なのか

 たしかに2-0の状況から勝ちきれなかったこと、勝負どころを見極める眼や試合運びに関しては課題を残しました。でも、それはただ守るだけではなく攻めて、勝ちを掴みにいったからこそ抽出された課題なのです。2002年の日韓大会はホームアドバンテージがありつつ、フラット3を中心とする守備に軸足を置いて戦いました。2010年の南アフリカ大会も岡田武史監督の下、大会直前に守備に原点回帰し、ベスト16に進みました。

 今大会の日本は組織的な守備をベースにしつつも、チャンスの場面では相手ゴール前に人数を割き、スペクタクルなサッカーを披露しようという意思がありました。そうやって得点を奪ったからこそ、ベルギー戦に象徴されるような次の課題と出会うことができました。攻撃にはリスクが伴いますが、トライしなければ次のステップには進めません。同じベスト16でも日本が前へ進んでいることを実感できた大会になったのではないでしょうか。

 最後に、僕個人の意見として、4年後に向けてGKのさらなる育成と強化が必要だと感じました。失点はGKだけの責任ではありません。ですがGKの力で勝てる試合があることもまた事実なのです。チームの組織力で守ることは大事ですが、最後はGK一人で守るという強いメンタリティーを持った選手がいてほしい。フィールドプレーヤーが世界と対等に渡り合っていたからこそ、僕個人としては対戦国のGKのレベルの高さを感じました。

 ではGKが進化するために何が必要なのか。今大会、日本のフィールドプレーヤーのほとんどが欧州でプレーしていました。その中で、Jリーグでプレーしている昌子選手は彼らと遜色ないパフォーマンスを見せたと思います。だから成長するために海を渡らなければいけないということはありません。南アフリカ大会でゴールマウスを守った川島選手は、当時Jリーグでプレーした経験しかありませんでした。

 GKの育成・強化は簡単ではありません。まずは地道な練習で腕を磨き、試合で結果を出さなければならない。それと並行してアンダーカテゴリーの時から国際経験を積むのはとても重要ですし、次のステップとして国際AマッチやACLで重責を背負った中でゴールを守る。それらの過程で、海外でチャレンジできるチャンスがあれば、それも一つの手でしょう。そのすべての延長線上にW杯があるのだと思います。

(SC相模原GK川口能活=元日本代表/98年フランス大会、02年日韓大会、06年ドイツ大会、10年南アフリカ大会出場)(藤井雅彦 / Masahiko Fujii)