「ネット中立性」の撤廃が決まったアメリカのインターネットについて独立系ISPのCEOが「質問ある?」を実施

By Marco Verch
アメリカでは2017年末、オバマ政権時に設けられていた「ネット中立性」に関するルールを撤廃することが決定されました。この決定に対しては多くのアメリカ国民や事業者は反対の意向を示していますが、インターネット接続サービスを提供するインターネット接続業者(ISP)にとっては、これまで課せられていた不当に重い負荷が軽減されるものとして歓迎ムードが漂っています。そんな中、インターネットが普及し始める前の1994年に創業し、現在も北カリフォルニアを中心にサービスを提供する独立系ISP「Sonic」の共同設立者であるデーン・ジャスパー氏がredditの名物質問コーナー「Ask Me Anything(AMA)」で一般ユーザーから寄せられたさまざまな意見に回答しています。
https://www.reddit.com/r/IAmA/comments/8eccqb/im_dane_jasper_cofounder_and_ceo_of_sonic/
「ネットワークの中立性(ネット中立性)」とは、「インターネット上のコンテンツの取り扱いは公平であるべき」という理念のもと、ISPに対して特定のコンテンツを有利ないし不利に扱うことを禁止するというルールです。ネット中立性のルールの下では、特定のコンテンツの配信を高速化したりブロックしたりする恣意的なサービス運用がISPに認められていませんでしたが、ネット中立性のルールが撤廃されれば、割増料金を支払った企業にだけコンテンツを高速に配信できる「高速レーン」の利用を許したり、特定企業のコンテンツの配信速度を大幅に遅らせたりといった、利用者ごとに異なる取り扱いをすることが可能になります。
ルールの撤廃により、例えばNetflixやAmazonに後れをとるストリーミングサービスを提供するAT&TやVerizonが、自社のストリーミングサービスを高速配信しつつ、NetflixやAmazon Videoの速度を大幅に制限することで自社サービスを優位な立場に置く、といったことも不可能ではなくなります。また、一般ユーザーに対しても利用料の値上げやサービス品質の低下が行われる可能性もあるなど、公平なネット社会の裏付けとなっていたルールが撤廃されることに対する懸念がアメリカでは広がっています。

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あるユーザーから寄せられた質問「私が住んでいる地域でISPが1つしかない場合、それがどんな事業者であっても警戒すべきですか?」についてジャスパー氏はシンプルに「Yes」と返答。さらに別のユーザーからの質問「ではどうすれば?私は田舎に住んでいて、ISPは(光ファイバーではない)DSLサービスを提供している業者が1社だけです。人工衛星経由のISPの実現も将来の話だと思うので。携帯電話網も1社しかありません……」に対してジャスパー氏は「ワイヤレス接続のISPを立ち上げるという方法があります。Wireless Internet Service Providers Association (WISPA)に加入して詳細を学ぶと良いでしょう」と回答。(画像をクリックするとスレッドに移動)

「自分でサービスを立ち上げればいい」という答えに少し驚いてしまいますが、コメント欄の続きには「まさに私が妻と一緒にやったことだ。私たちがワイヤレスISPを立ち上げるまでは独占業者が月額200〜300ドル(約2万円〜3万円)のサービスを提供していたが、私たちはそれを月額130ドル(約1万4000円)前後で提供した」という返答があり、実はそれほどハードルが高いことでもないのかも。ただし、その後のやり取りでは「初期投資は?」「7万5000ドル(約820万円)」「けっこうな額だね。回収にかかった期間は?」「私たちの場合は約2年」というやり取りが続けられており、完全に事業者ベースで進めるべき手法であることが伺えます。
「ネット中立性が撤廃されると各プロバイダはコンテンツのフィルタリングを始め、アクセスできるサイトをパッケージ化して商品として販売することが考えられます。しかし、そのようなフィルタリングはエンジニアリングの面で難しいとも聞いたことがあります。このようなことを実施するための技術的な課題はどのようなものでしょうか?また、それはどのぐらい難しい、または容易なものですか?」という質問に対してジャスパー氏は「短く答えると、それは簡単なことです。トラフィック管理用デバイスメーカーのSandvine/Procera NetworksやF5といった企業の装置を使えば、ISPは大規模にフィルタリングを行うことができます」と回答しています。

「ウェブサイト側は、自分のコンテンツがフィルタリングや速度低下させられていることがわかるのですか?特に、アメリカ中に利用者がいてそれぞれ別のISPを使っているといった状況の時にです」という質問には、「いい質問です。阻害の実態は多くの場合、コンテンツ提供側がそれを知ることはできません。その場合は、エンドユーザー側で速度が遅くなったなと感じられるだけです。しかし大規模な事業者の場合は別で、接続が混雑する状況に気づくでしょう。そして、エンドユーザーに快適にコンテンツを届けるために追加料金を支払うことを求められることになるでしょう」と回答しています。

独立系ISPのSonicのCEOによるAMAということで、小規模ISPを運営することについての質問も寄せられています。「インフラにかかるコストの点で、小規模で独立系のISPは運営ができないと考えてきました。それは問題にならなかったのですか?」という問いにジャスパー氏は「私は誰もがネットにつながるということをずっと支持してきました。もし、ISPが25社あるような地域であればネット中立性のルールは必要ないでしょう。しかし、1〜2社だけが市場に存在する寡占状態にある場所では、ユーザーとオンラインサービスの両方を守るための規制が必要です。事業を立ち上げることは容易ではありませんが、SocketやTing、Cruzio、Gorge、EPBのように、そのような状況でもビジネスで成功している例がいくつもあります」と答えています。

ネット中立性の撤廃を決めたFCCの議長は、2017年1月にトランプ大統領から指名されたアジット・パイ氏です。パイ氏は「オバマ政権時に導入されたネット中立性のルールは厳しすぎて企業の成長を阻害している」としてルールの撤廃を決めたという経緯があります。そんなパイ氏がFCCの議長に選ばれたことについて尋ねられたジャスパー氏は「複雑な感情があります。良い面としては、パイ氏は新しいインフラ導入の障壁を取り去ることに関心を示しています。一方、ネット中立性の撤廃については、明確に反対を唱えます」と回答。

「SnapchatやInstagram、redditなどのスマートフォンアプリにも影響はありますか?」という質問には、「そのようなアプリは大きな帯域幅を必要としないので影響はありません。それよりも、動画ストリーミングやオンラインゲーム、AR(拡張現実)サービスなどは多くのデータを必要とするので、制限の対象になるリスクがあります。その結果、そのようなサービスは利用料金が上がったり、広告の表示が増えるなどの結果を招くでしょう」と回答しています。

「例えばSonicがVerizonやComcastぐらい大きな会社になったとしても、今と同じようなネット中立性を支持する姿勢を保ち続けますか?今回のAMAはPRにすぎないのではありませんか?」という厳しめの質問に対してジャスパー氏は「Sonicはユーザー志向に基づいたネット中立性に関するポリシーを何年にもわたって支持し続けてきました」として、これまで行ってきた取り組みや、優良企業として表彰された実績を挙げることで、質問のような変節が起こることを否定していました。
