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●「セレナ」の特性と電動パワートレインの相性は

日産自動車はミニバンの「セレナ」に電動パワートレイン「e-POWER」を搭載した。エンジンで発電し、モーターでクルマを走らせる「e-POWER」を日産が導入するのは、小型車「ノート」に続きセレナで2台目。いろんなクルマを作っている日産だが、このシステムをセレナに積むことに決めた理由とは何か。

○「セレナ」のDNAは「BIG、EASY、FUN」

セレナは1991年に発売となったミニバンで、現行モデルは5代目となる。2016年のフルモデルチェンジでは、日産が高速道路同一車線自動運転技術として展開中のシステム「プロパイロット」を同社として初めて搭載したことも話題となった。

e-POWERは発電用のエンジンで作った電気でモーターを動かし、その力でクルマを走らせるパワートレインだ。同技術については以前、岡本幸一郎さんに解説していただいている。この記事にもあるように、日産はe-POWERを小型車のノートで初採用したが、その効果もあってかノートは販売に勢いがつき、日産を車名別月間販売ランキングのトップに押し上げた。

セレナにe-POWERを積んだ理由はいろいろありそうだ。「セレナ e-POWER」の開発責任者を務めた日産の中谷信介氏によれば、「家族」という明確なターゲットカスタマーを設定したセレナのDNAは「BIG、EASY、FUN」の3つであり、それらにe-POWERを組み合わせることが「DNAを強化する手段となりうると確信して」導入を決めたという。

●ワンペダルで使いやすく、加速のよさで楽しく

○アクセルとブレーキの踏みかえが劇的に減少

セレナのDNAである「EASY」は「すべての人が実感できる使いやすさ」に表れているというが、この部分については、e-POWERとの組み合わせで「ワンペダル操作」(日産は「e-POWER Drive」と呼称)という新たな機能が追加となった。

e-POWERは100%モーター駆動で走り、アクセルの踏み込みを弱めたり完全に踏むのをやめた時には、電気を回収してバッテリーを充電する「回生ブレーキ」がかかる。回生ブレーキはエンジンブレーキのようなものだが、これがエンジン車より効くというか、アクセルペダルの操作によく反応する。加減速をアクセルの踏む・弱めるで操作できる点は「ゴーカート」と似た感覚で、踏むのをやめればクルマを停止させることもできる。

アクセルだけでクルマを操作できる領域が広がれば、アクセルとブレーキの踏みかえ回数は少なくなる。中谷氏は「ブレーキの踏み変え頻度がドラマティックに減ると思っている。初めて乗る人は、どこで(どのくらいのアクセルペダル操作で)止まるかについて慣れが必要と仰る場合もあるが、1時間も乗ってもらえれば、楽に止められるようになる。社内データではあるが、踏みかえ回数は7割くらい減る」と説明する。

高速道路を走行する時には、アクセルペダルの操作でエンジンブレーキをかけつつ速度を調整することがよくある。この操作をワンペダルで行うと、回生ブレーキが効きすぎてギクシャクしないかと心配だったのだが、セレナ e-POWERで高速を走った印象としては、そこまで違和感は感じなかった。

○クルマの大きさを感じさせないリニアな加速

「FUN」の部分に寄与するe-POWERの特性、それはモーター駆動であることそのものだ。電動ならではの力強い加速とリニアな反応は、停止状態から走りだす時にはっきりと感じられる。つまり、スッと発進できる。「踏んだ分だけ加速するというところを、実際に、具体的にモーターでやるのは結構大変で、どういう風に電流を流すと余計な振動をせず、スムーズにモーターが回るかは、『リーフ』(日産の電気自動車)で長年培ってきた制振制御技術が生きている」というのが中谷氏の解説だ。

エンジン、バッテリー、モーターの全てを持つe-POWERは、場所をとるシステムでもある。セレナが大事にしてきた室内の広さ、つまり「BIG」の部分には悪影響がでてもおかしくないが、セレナ e-POWERではモーターをエンジンルームに積み、バッテリーはエンジンルームと前席下に格納することで「ミニバンNO.1の広さはそのまま」維持できたとしている。

このように、セレナとe-POWERの組み合わせは相性抜群というのが日産の説明だが、e-POWERを投入する背景には、同クラスのミニバン市場で強力な競合車と同居するセレナの販売を加速させたいという思惑も当然ある。

●激戦のMクラスミニバン市場で突出できるか

○トヨタ車が3台も! 混み合う市場で「セレナ」の立ち位置は

セレナは「Mクラスミニバン」というセグメントに属するクルマだ。ここにはトヨタ自動車の「ヴォクシー」「ノア」「エスクァイア」がいて、ホンダの「ステップワゴン」もいるので混み合っている。これらのクルマがシェア争いを繰り広げているのだが、特にセレナとヴォクシーは抜きつ抜かれつといった間柄だ。

セレナ e-POWERの開発責任者である中谷氏は、このクルマが置かれた市場環境について「2社が相当強い」と競合の実力を認めつつも、「勝つためにe-POWERを導入した」と力を込めた。e-POWERの導入により、セレナはヴォクシーおよびステップワゴンに対し、燃費の面で優位なポジションを獲得している。

2018年に入ってからの数字を確認しておくと、1月の販売台数はセレナが約7,800台であるのに対し、ヴォクシーは約7,300台。2月はセレナが約1万400台、ヴォクシーが約8,000台だ。e-POWER導入の発表時、日産で国内販売を担当する星野朝子専務はセレナの月間販売目標を8,000台と定めていた。e-POWER導入により、セレナが同クラストップの座を確固たるものとできるかどうか、まずは3月の数字が気になるところだ。