デキる人は紙1枚で会話を"見える化"する
※本稿は、木部智之『複雑な問題が一瞬でシンプルになる2軸思考』(KADOKAWA)を再編集したものです。
■「コミュ障」だった私がたどりついたのは……
私は、外資系企業のマネジャー職を務めているので、「人前で雄弁に話をするのだろう」とか「プレゼンがうまいのだろう」と思われがちなのですが、実は、それほど話すのが得意ではありません。
私は若い頃、コミュニケーション能力とは「声が大きく、雄弁に話し、相手を言いくるめるのが得意なこと」だと思っていました。ですから、声が小さくて伝えるのも下手な自分のことを「コミュ障」だと感じ、話すことに長年苦手意識がありました。
しかし、仕事をしていく中で、声は大きくなくても、たとえハキハキとしていなくても、「自分が伝えたいことを的確に表現することのほうが重要」であることに気づきました。
そして、「どうしたら伝わるか?」を突き詰めた結果、「2軸で書いて伝える」という方法にたどり着いたのです。
■2軸メモを書きながら、会話する
私は現在、500人のチームメンバーを抱えています。その全員と会話をすることはなかなかありませんが、それでもコミュニケーションに費やす量は多くなります。それゆえ、必然的に、1回1回のコミュニケーション時間を短くせざるを得ません。
ですが、チーム全体の動きで見ると、たった1つのコミュニケーションミスも、全体に大きな影響を与える可能性があります。そのため、「短い時間で、確実に伝えたり聞いたりすること」がとても大切です。
そのような状況の中で、確実にコミュニケーションをするために行っているのが、「紙に書いて会話すること」です。
伝えたい内容を2軸で整理した図に書いて、「2軸メモ」として相手に渡すのです。こうすることで、口頭で伝えるより何倍も「確実に伝わる」ようになります。
ここで言う「2軸」とは、「タテとヨコ2本の線を引いて、そこに、あらゆる事象を配置してみると、シンプルに整理しながら考えられる」ということで、私が「2軸思考」と呼んでいるものです。そして、この考え方を活用して書いたメモが「2軸メモ」です。
例えば、次のメモは、部下に対して、あるタスクの作業手順について確認していたときのメモをおおまかに再現したものです。ここでは、ヨコ軸に時間(フェーズ)、タテ軸に実施すべきタスクを置いています。
時間の推移とタスクとの関係を口頭だけで説明しようとしたら、わかりにくいですし、時間もかかります。2軸メモを使えば、スーッと頭に入ってくると思いませんか?
■紙1枚に1つの2軸(メッセージ)を厳守する
私がチームのメンバーと話をするときには、この2軸メモを書きながら話し、話が終わったあとは、紙をそのまま相手に渡しています。
紙を渡しておくと、受け取った相手は、あとでそれを見返すことができます。また、みなさんにも経験があると思いますが、話をしたその瞬間はわかった気になったものの、あとで考えるとよくわからなかった……ということは少なくありません。メンバーも忙しいので、直後に別の緊急な打ち合わせが入ってしまい、私との会話が全部すっ飛んだ! なんていうこともあり得ます。そんなとき、このメモが役立つのです。
また、今後の作業工程の中で、もし、私が指示したことが違った形であがってきた場合は、私自身も自分が指示した内容をすべて細かく覚えているわけではないので、「この前のメモを見せて」と、そのときの自分の指示を確認できます。
こうすれば、「言った」「言わない」が回避できるのでお互いに便利ですし、何より指示が伝わらなかった箇所とその理由がすぐにわかるので、効率的に修正作業にかかれます。
メモを書く上で厳守したいのは、「ひとつの2軸(メッセージ)につき、紙1枚に書く」というルールです。
話をしていると、「そういえば……」と別の話題に移行したり、話が膨らんだりすることもあります。
それ自体は悪いことではないのですが、別の話題を同じ紙に書くと、あとからどのメモを見ればいいかわからなくなったり、記憶が曖昧になったりしてしまうことがあります。
ですから、「紙1枚にひとつの2軸」というルールを守ることで、こうした混乱が防げますし、書いたあとに「タイトル」をつけておくと何を話したかがすぐわかるので、検索性も高まり、あとから見返すときに便利です。
■相手の話を聞くときにも、2軸メモを書く
自分が話をするときだけではなく、相手が何かを説明しているときも同様に2軸メモを活用します。
例えば、あるメンバーが、トラブルの報告でやって来た場合。
状況が整理されていないままの報告を受けて、すぐに理解ができなければ、「それって、こういうこと?」と紙に2軸で整理しながら話を聞きます。
トラブルが発生したときは、「何が起きたのか」すら、わからないことがあります。そのときには、まず「何がわかっていて、何がわかっていないか」を仕分けることで糸口がつかめます。トラブル対応は、わかっていないことに対して、わかるためのアクションを打っていけばよいのです。
話している側も、紙の上に「見える化」されていくと、どんどん頭が整理されてきます。そして結果的に、「ホウ・レン・ソウ」の質も上がります。
■2軸メモをチームで活用しよう
2軸メモをチーム全体が実践するようになると、驚くほどチームの成果が高まります。これは私の実体験から間違いなく言えます。
チームで2軸メモを活用するために重要なのが、「すぐに書ける環境」を用意しておくことです。
私は自分の席の隣のスペースに簡易的なテーブルを置き、そのテーブルにコピー用紙とカラーペンを常備しています。こうすることで、
・会議室を確保する
・資料を準備する
といった煩雑さが排除され、メンバーがいつでもすぐに集まり、紙に書きながらコミュニケーションすることが可能になりました。
リーダーである私自身がこうした「場」を作ることで、メンバー全員に対して「会話をするときには2軸メモを使おう」というメッセージを発することにもなり、チーム全体が紙に書きながらコミュニケーションするクセをつけることができました。
2軸メモに必要なものは、紙とペンだけです。みなさんの職場でも、ぜひ、日々の業務に取り入れてみてください。
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日本IBMエグゼクティブ・プロジェクト・マネジャー。横浜国立大学大学院環境情報学府工学研究科修了。2002年に日本IBMにシステム・エンジニアとして入社。2017年より現職。著書に『複雑な問題が一瞬でシンプルになる2軸思考』『仕事が速い人は「見えないところ」で何をしているのか?』(以上、KADOKAWA)がある。
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(日本IBMエグゼクティブ・プロジェクト・マネジャー 木部 智之)