だからこそ、最後になるかもしれないこの3か月間は、今まで以上に一瞬一瞬を大事に過ごしてきた。“一瞬一瞬”のところでも勝負にこだわることで、山田はプロ選手としてのハングリー精神を身につけて、自分にしかない武器を見つけることができたという自負がある。
 
「元々、プロは一瞬一瞬を大事にすることが大切で、とくに俺なんて、すごい才能があったわけでもないから。よく最近、若い選手に言うんだけど、自分で勝負できる武器を持てと。俺は最初にプロになった時、ヴェルディに入って自分がチームで一番下手くそなんだって思った。それならなんだったら勝てるのか。逆にボールを持たなかったら勝てそうだなと思った。
 
 だったら球際を激しく行こうとか、誰よりも声を出そうとか。それが生きる道だと思った。チームのなかでなにか一番にならないとプロとして生きていけない。10メートルだったら走り負けないかなとか。シャトルランの1本目だけは一番になれるとか。起き上がるのは一番かなとか。ご飯を食べる量だけは負けないとか。今治の選手には、そういう日々の小さなところから勝負にこだわって、小さなモノでもいいから、一番になれそうな武器を見つけてほしいと思っている。小さな競争でも負けたくない。そういうハングリー精神を持ってほしい」
 カテゴリーが下がれば下がるほど、そうしたハングリー精神が薄れていることが残念でならないという。むしろ、“トップ・トップ”でプレーしてきたわけではない人間だからこその“雑草魂”を持ってほしいと願っている。
「岡田さんは、自分のことをあらゆる面で『主体性がある選手』と言ってくれている。でも、それはプロになったということは、自分のサッカー観を持っているということ。だからプロ選手イコール個人事業主として、どのように自分を生かすか。それを考えていなければいけない。チームに属しているという学生時代の感覚はちょっと違う。
 
 となると、俺でも誰でも、自分はこういう選手です、ということを自らプレーで伝えていかなければいけない。自分はなにが通用してなにが通用しないのかと、チームメイトとよく話すのだけれど、俺はゴールキーパー以外、すべてのポジションをやってきた。もちろんどこかのポジションでスペシャリストになるのも素晴らしいことだけれど、いろんなポジションができるのもまた才能だと思うし、大きな武器でもある。
 
 自分のビジョンとして上のステージへステップを踏んだ時、自分はどのポジションで勝負すべきか、もしくは勝負したいポジションがあれば、それを追い求めるべきだということは、チームメイトには伝えていったつもりだけどね。FC今治もそうだし、どこでプレーしている選手もそうだけれど、これからの選手だからこそ、もっと主体性をもって頑張ってほしい」
 元日本代表プレーヤーにして、J1、J2、JFL、そして海外と、あらゆるカテゴリーやリーグでプレーしてきた。プロ選手として、あらゆる経験を積んできて、あらゆる人間とも関わってきた。残念ながら、この3か月間で、ピッチ上において見本を示すことはできなかったが、山田卓也がチームに存在するというだけで、その影響力は計り知れないものがあったに違いない。FC今治でのセカンドチャンスにして、サッカー選手としてのラストチャンス。並々ならぬ思いを持って臨んだ3か月を終えた今、山田はなにを思うのか。
 
「自分の両足は、よく走り続けてくれたし、よく蹴り続けてくれたなと、いまは感謝している。もちろん所属クラブ、各クラブのサポーター、そのほか支えてくれた家族友人、サッカーボールでつながったすべての仲間にお礼を言いたい。さまざまな経験をし、自分を磨き続けることができた。この素晴らしい経験をさせてくれたサッカーという競技にも、心からありがとうと伝えたい」
 
 21年間におよぶ長き現役生活にピリオドを打った山田。今後の去就については未定だが、FC今治で引退試合を実施することは考えている。現役生活最後のシーズンで目標としていた新スタジアムのピッチで大好きなサッカーをプレーする。3か月前に心に誓っていた“最後の夢”を実現させ、そこで応援してくれたファンに対し、プレースタイル同様、熱いメッセージを伝えることになる。
 
取材・構成●小須田泰二(フリーライター)
 
■プロフィール
山田卓也
やまだ・たくや/1974年8月24日生まれ、東京都出身。177センチ・80キロ。桐蔭学園高、駒澤大卒業後、東京V入り。その後、C大阪、横浜FC、鳥栖、タンパベイ(アメリカ)、FC今治、奈良クラブでプレー。プロ生活21年目を迎えた今年8月にFC今治に再入団した。J1通算274試合23得点。日本代表Aマッチ4試合出場。主なポジションはセンターバック、ボランチ、サイドバック。
山田卓也オフィシャルブログhttp://www.diamondblog.jp/official/yamataku/