新国立競技場の建設工事が進んでいる。1階スタンドに加え2階スタンド部分とおぼしき骨組みも姿を現し始めている。だが、一目で緩いと分かる1階スタンドの傾斜角について、言及するメディアはない。

 スポーツはどこで観戦するかで、印象が大きく変わる。カンプノウの正面スタンド最上部に位置する記者席は、ピッチを俯瞰するロケーションにあるが、そこに初めて座った時、サッカーが別物に見えた思い出がある。優れた眺望、視角で、バルサのサッカーはより良いものとして映った。

 それとは180度真逆の関係にあるのが横浜国際(日産スタジアム)だ。その正面スタンド1階部分に設けられた記者席から観戦している限り、よりよいものには映らない。先日知人から「一度スタジアムに行ってサッカーを観戦したことがあるが、何が何だかよく分からなかった。サッカーはテレビ観戦に限りますね」と言われた。テレビでは楽しめても、スタジアムでは楽しめない。多数派だとは思わないが、初観戦で、横浜国際の1階席に連れて行かれれば、そうなる可能性は十分あり得るだろう。

 サッカーならサッカーの観戦が、キチンと楽しめる環境にあるのか。よいスタジアムか否かの分かれ目だが、カンプノウは巨大スタジアムであるにもかかわらず、それが保たれている。世界でも珍しい例外中の例外だ。一般的には、巨大スタジアムより、5万人以下の中堅クラスのスタジアムの方が観戦に適している。

 観戦に適したスタンドの規模。それは競技によって異なる。ほぼ同じピッチサイズで行われるラグビーは、サッカーと同じで大丈夫と思うが、もし同じ場所で、テニスの試合が行われたとすれば、観客にとってはいい迷惑だ。コートサイズに対してスタジアムサイズが大きすぎる。だったらテレビで観戦した方がマシだという話になる。

 テニス、バスケットボール、アイスホッケーなどは、コート(リンク)サイズが視界に収まりやすい競技だ。サッカーより観戦の難易度は低い。テレビ観戦にも適している。全体像が画面の枠内に凝縮されている。現場で見てよし、テレビで見てよし、だ。

 だが、そうでない場合も多々ある。例えば卓球。そのテーブルの大きさは1525ミリ×2740ミリだ。ビリヤードのサイズよりさらに小さい。東京五輪では東京体育館で行われる予定だが、収容人員1万人の体育館でそれを観戦しようと思えば、双眼鏡は必需品になる。決勝戦ともなれば、卓球台は一台しか設置されない。日本人選手が強い注目の競技なので、チケットは即完売だろうが、肝心の競技は見やすいとは言えない。視界に飛び込んでくるアクションの絵はことのほか小さい。

 満足に観戦できる環境にあるのは、せいぜい2000〜3000人。スタンドの規模が卓球台のサイズに対して大きすぎるのだ。お茶の間でテレビ観戦した方が、試合内容そのものは遙かによく分かる。

 サッカーで言えば、ゴール裏のサポーター席のド真ん中で見るのと同じだ。詳しい試合内容は分からない。だが、雰囲気は最高。そこで味わう臨場感は何にも代えがたい魅力がある。

 シンクロナイズドスイミングも、チームはともかく、ペアは見にくい。大きな50mプールの中で演技するのはたった2人。この絵はかなり寂しい。ズームレンズで迫ってくれるテレビ観戦と、ワイドオンリーのスタンド観戦と、どちらがいいかと言われれば、チケットの値段次第でもあるけれど、テレビだと言いたくなる。

 速すぎてよく分からないのが、冬季五輪のボブスレー、リュージュ。写真に撮ることさえ難しいほど、一瞬にして目の前を通過していく。目が追いつかない競技と言えば、アルペンのダウンヒルだ。山のてっぺんに近い場所から時速100キロで滑り降りる姿を、長い時間観戦できるポイントはそう多くない。一方で、結果は、ゴール付近にいないと分からない。結果を優先すれば、レースの醍醐味は味わえない仕組みになっている。両方を同時に叶えることは難しいのだ。