金正恩をイラッとさせた、トランプ氏「北のロケットマン」発言の罠
トランプ米大統領は先日、北朝鮮の金正恩氏に対して「ロケットマン」「マッドマン」などと言い放ち挑発、これに対し金正恩氏は初めて自らの名前で声明を出して応戦。事態はますます混迷を極めていますが、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係研究者の北野幸伯さんは、北朝鮮問題をどのように見ているのでしょうか。各種報道等を引きながら、トランプ大統領の「真の狙い」と金正恩氏が置かれた状況について持論を記しています。
大舌戦! トランプvs金正恩
トランプさんと金正恩さんの「舌戦」が激化しています。核保有国同士の「舌戦」。笑えませんね。時系列に見てみましょう。
9月19日、トランプは、国連総会で演説しました。産経新聞9月20日から。
北朝鮮の金正恩体制について「ロケットマンが自殺行為の任務を進めている」と述べ、北朝鮮の核・弾道ミサイルは金体制の崩壊につながると警告。「米国はあらゆる手段を講じて自国と同盟国を防衛する」と言明するとともに、もし軍事攻撃に踏み切る事態となれば「北朝鮮は完全に破壊される」と強調した。
「ロケットマンが自殺行為の任務を進めている」。この「ロケットマン」というあだ名は、定着しそうです。
「北朝鮮は完全に破壊される」。可能性はありますね。
トランプ、独自制裁を強化
9月21日、トランプは、北朝鮮に対する制裁を強化する大統領令を出しました。(国連安保理とは関係ない、アメリカの独自制裁です。しかし、アメリカは、世界1の経済大国ですから、影響は大きいです)。
トランプ氏「北の資金源絶つ」…経済封鎖目指す
読売新聞 9/22(金)1:50配信
【ニューヨーク=黒見周平、大木聖馬】
トランプ米大統領は21日、北朝鮮との貿易や金融取引、航空機・船舶の移動を厳しく制限する大統領令に署名した。違反した場合、財務長官が米国内の資産を凍結し、米国との取引を禁じる金融制裁措置を発動する。米国による独自制裁の範囲を大幅に拡大し、北朝鮮と国際社会のカネとモノの流れを遮断する「経済封鎖」の実現を目指したものだ。
主なターゲットは、北を支援している中国やロシアですね。たとえば中国の銀行が、北朝鮮と取引している。それがばれると、同行のアメリカ資産は凍結される。そして、アメリカ金融機関や企業との取引が禁止される。普通の金融機関、企業に、「アメリカと取引するか、北朝鮮と取引するか、選べ!」と聞けば、99%は「アメリカと取引する」となるでしょう。
怒りの金正恩
さて、トランプの国連演説に激怒した金正恩は、初めて「自分の名」で声明を出します。
<北朝鮮>正恩氏「超強硬対応」 太平洋で水爆実験を示唆
毎日新聞 9/22(金)11:41配信
【ソウル米村耕一】北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は21日、米国のトランプ大統領の国連演説に強く反発する「国務委員長声明」を発表した。
声明は「世界の面前に出て私と国家の存在そのものを否定し侮辱した」と批判、「わが共和国を無くすとの宣戦布告を行った以上、われわれも相応の超強硬対応措置の断行を慎重に考慮する」と威嚇している。朝鮮中央通信が伝えた。金委員長がこうした声明を発表するのは初めて。
「わが共和国を無くすとの宣戦布告を行った以上、われわれも相応の超強硬対応措置の断行を慎重に考慮する」だそうです。「超強硬対応措置」とは何でしょうか?
聯合ニュースによると、国連総会出席のためニューヨークを訪問している北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相は、声明にある「超強硬措置」に関する記者団の質問に「おそらく水素爆弾実験を太平洋上でやるということになるのではないか」と語ったという。核弾頭を装着した弾道ミサイル発射実験を示唆したものとみられる。
「水爆を乗せた弾道ミサイルを、太平洋にぶっ放す」ということでしょうか。
金正恩は「マッドマン」
トランプも負けていません。翌22日。
トランプ氏は自身のツイッターに「飢える国民を顧みない、明らかにマッドマン(狂人)のキム・ジョンウンは、これまでになく試されることになる」と書き込んだ。
(毎日新聞9月22日)
「ロケットマン」の次は、「マッドマン」だそうです。
トランプの言葉は「計算」、金正恩は「激昂」
なんか、小学生のケンカみたいになってきました。小学生の悪口の言い合いは、しばしば取っ組み合いのケンカに転化します。しかし、トランプは「計算ずく」でやっている気がします。彼は、大統領選期間中も、メチャクチャ口が悪かった。インテリは、「もうやめてくれ!」と耳をふさぎましたが、勝ったのはトランプでした。
トランプは、金を「ロケットマン」「マッドマン」と罵倒します。それで、金正恩は、「大平洋で水爆実験をする!」と言う。それをやったら、どうなるでしょう? 彼を待っているのは、さらなる国際的孤立です。日米は、おそらく「今度こそ、完全な石油禁輸を! 今度こそ、金正恩の資産凍結を!」と要求するでしょう。中国、ロシアも、ますます北を守ることが難しくなっていきます。
あるいはトランプさん、金が暴発するよう誘導しているのかもしれません。かつてルーズベルトが日本にしたように。
北が先に攻撃すれば、「トランプのせいでたくさん犠牲者が出た」という非難はされなくなる。「卑劣な『ロケットマン』『マッドマン』が、先に撃ったのだ!」と。
金正恩、ますます追い詰められてきました。
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出典元:まぐまぐニュース!