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『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)が発売から約3カ月で11万部を超えるベストセラーだ。この本には、夏目漱石やドストエフスキーなど文豪から、イケダハヤトなどの人気ブロガーまで、100パターンの文体を真似て「カップ焼きそばの作り方」を書いている。

たとえば、「完璧な湯切りは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね」。小説家の村上春樹風の文体で書かれたフレーズがクスリと笑いを誘う。ネット上では「それぞれの特徴をちゃんと掴んでいる」などと好評を得ている。

ただ、気になるのは「文体」は誰でも真似していいのか、ということだ。たとえば、「完璧な湯切りは〜」を読めば、村上春樹を思い浮かべる人は少なくないだろう。文体を真似ることは法的に問題ないのだろうか。著作権にくわしい桑野雄一郎弁護士に聞いた。

●「文体」には著作権は成立しない

「文体そのものには著作権は成立しません。

著作権が成立するのは著作物ですが、著作物とは『思想または感情を創作的に表現したもの』とされています。

文体は、思想または感情を表現する方法であって、文体そのものに思想または感情が表現されているわけではありません。

村上春樹の小説についていえば、一定の文体を使って表現された小説の内容が著作物になるのであって、小説の内容から切り離された文体そのものが著作物になるわけではないのです。

ですから、村上春樹風の文体をまねた文章であっても、その内容が村上春樹の小説と無関係であれば、村上春樹の著作権の侵害とはなりません」

●絵画・音楽・映像でも「作風」を真似することは著作権侵害にあたらない

「絵画における画風についても同様です。『ピカソ風』の絵画を描いたからといって、ピカソの著作権の侵害になるわけではありません。

また、タレントの清水ミチコはライブで、松任谷由美や中島みゆきなどの作風を真似た曲を演奏しています。このように作風を真似しても、楽曲そのものが違っていれば、音楽の著作権侵害にならないわけです。

また、T.M.Revolutionの『魔弾』のPVは、小津安二郎の作風を真似した映像作品となっていますが、内容は小津安二郎の映画作品とは無関係ですから、著作権侵害になりません。

このように、著作権が成立するのは、具体的な作品において表現されている内容で、表現に際して使われている手法や技法ではないのです」

(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
桑野 雄一郎(くわの・ゆういちろう)弁護士
骨董通り法律事務所。島根大学法科大学院特任教授。「外国著作権法令集(46)−ロシア編―」(翻訳)、「出版・マンガビジネスの著作権」(以上CRIC)、「著作権侵害の罪の客観的構成要件」(島根大法学第54巻第1・2号)等。
事務所名:骨董通り法律事務所
事務所URL:http://www.kottolaw.com