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ファーストリテイリングなどに続いて、佐川急便が、東京と山梨県の採用で、週休3日制の正社員の募集を始めたと報じられている。日本経済新聞(6月6日、電子版)の報道によれば、「変形労働時間制」を活用し、1日あたりの平均労働時間を10時間にし、週休2日制と同じ給与水準になるという。休日の副業も認めるそうだ。

個人の事情にあわせ、多様な働き方を認めることで、人材を確保することが目的だという。しかし、総労働時間が減らなければ、社員の負担は減らないのではないかという疑問も残る。週休3日制は、労働者にとって歓迎するべきものなのだろうか。労働問題に詳しい穂積匡史弁護士に聞いた。

●「週休3日制」に異論あり

「週休3日制が社会に浸透して総労働時間を減らし、私生活の時間を増やすことに繋がるならば、歓迎できます。

しかし、佐川急便の例のように、変形労働時間制を利用して1日の労働時間を10時間にし、週の労働時間は週休2日制と同じ40時間のままにするというのであれば、総労働時間は減りません。その上、休日の副業まで認めるならば、かえって総労働時間が増えてしまい、本末転倒です。このような週休3日制には反対です」

一見「休日が増える」と喜びがちだが、総労働時間が増える懸念もあるのだ。

「そもそも1日の労働時間の上限を8時間とした現行法の規制は、メーデーの起源となった1886年のシカゴ・ヘイマーケット事件まで遡り、労働者が文字どおり血を流して勝ち取った成果です。その趣旨は、1日24時間を睡眠8時間、生活8時間、労働8時間に三分して、労働者の私生活と健康・安全を守るという合理的思考に基づくものです。

仮に、週休3日制の下で1日10時間働くことになれば、この成果を自ら手放すことになります」

●副業の場合「割増賃金」を誰が支払うのか?

佐川急便では、副業も認める方針だ。しかし、穂積弁護士によれば、これもまた「割増賃金」の問題が発生してくる。

「変形労働時間制と週休3日制の併用が副業と合わさることで、法律上も様々な問題を生じます。

たとえば、週休3日制のS社で1日10時間(1週40時間)働く労働者が、残りの休日3日間はY社で1日8時間(3日で24時間)働くとします。この場合、1週間の労働時間は通算して64時間となります。

労働基準法は、1週40時間を超える労働に対して割増賃金の支払いを義務付けていますが、この場合、S社とY社のどちらが割増賃金を支払うのでしょうか。両社とも自分では1週40時間を超えないので、『自分は支払わない。他社が支払うべきだ』と主張するかもしれません。

また、上記の例では、1か月の労働時間は約278時間となり、これは過労死ラインを超えています。

もしも労働者が過労死してしまった場合、S社とY社は責任を負うのでしょうか。どちらも、「自分は週40時間までしか働かせていないから、責任は負わない」と主張した場合、遺族は誰を責めることができるのでしょうか。全ては労働者の自己責任ということにされてしまうのでしょうか」

●「労働者にとっては、負のスパイラル」

「さらに別の問題があります。労働者全体にとって不利益になるという問題です。

例えば、S社で変形労働時間制の下、週休3日、週40時間働く労働者が、さらに収入を得る必要にかられて、もう1日をY社で働くとします。この場合、市場にはこれまで以上の労働力が供給されることになりますので、労働者全体の競争力は弱まり、買い手市場となって、賃金水準が低下します。

そうすると、これまでと同じ稼ぎを得るためには、これまで以上に労働時間を長くする必要に迫られます。こうして1人の労働者の行動が、労働者全体の利益を損ない、ひいては自分の利益をも損なうことになります。

確かに今日・明日の収入に困っている方にとって、週休3日制で働く機会が増えることは、短期的には収入の増加につながり、魅力的かもしれません。しかし、長い目で見れば、かえって収入の低下をもたらすかもしれない。それが週休3日制(変形労働時間制併用型)の正体です。

それよりも、人手不足の今こそ、労働者は団結して、労働時間を増やさずに賃金水準を上げる活動に取り組むべきではないでしょうか。たとえば、1日8時間労働で、給料も据え置いたまま、週休3日制を実現するといった具合です。その中心を担うのは労働組合です。1人ひとりが生きやすい社会にするために、労働者の団結が必要です」

(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
穂積 匡史(ほづみ・まさし)弁護士
2004年弁護士登録(神奈川県弁護士会)
主に、労働者の権利、女性の権利を擁護する活動に取り組む。
日本労働弁護団全国常任幹事、横浜国立大学法科大学院非常勤講師(ジェンダー法)等
事務所名:ほづみ法律事務所
事務所URL:http://hozumi-shinyuri.jp/