ネットの声は当てにならない!片道二万円の豪華夜行バス、ドリームスリーパー東京・大阪号を本音レポ

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片道二万円の夜行バス、その実力を体感する。


関東バスは、大阪東京間において、従来とは全く異なる夜行高速バスの運行を2017年1月18日より開始した。名称は「ドリームスリーパー東京・大阪号」、片道料金がなんと20,000円という超豪華夜行バスである(4月27日までは運行記念割引で18,000円)。大きな特徴としては、一便につき11席のみの完全個室、絨毯張りで土足厳禁、快眠を追求したリクライニングシートや多様な設備…。

世間で語られる夜行バスの利点とは「安さ」だろう。中には同じ距離で3,000円台というものまであり、一時期はコスト削減が事故につながりかねないと社会問題にもなったが、現在までそのポジションが変わることはない。が、旅客輸送というくくりでの競合では、新幹線や飛行機(LCC)が挙げられる中で、ドリームスリーパーの二万円という価格はそれらより高額だ。当然、インターネット上では「それなら新幹線を選ぶ」という声が散見されたが、何事も確かめてみねば分からない!乗車レポートと、関東バスの方に取材を行った。

結論を先に伝えると、ドリームスリーパーは、夜行バスにまつわる「我慢」という印象から程遠いものだった。
足を伸ばせない我慢、トイレに行けない我慢、ほかの乗客の生活音に対する我慢、衛生面での我慢…。
それらから解放された、新幹線やLCC(飛行機)すら上回る快適な移動手段、それがこの正体だ。

何も褒めるために取材をしてきた訳ではないのだが、見知ったまま書いた結果、ほぼ絶賛している。
だから、「提灯記事じゃないヨ!」と先に断っておこうと思った。

それと、この記事は長い、完読まで3分はあなたの時間をもらうだろう。
インスタント麺を食べる前ならお湯を入れてからにしてほしい。

ドリームスリーパーの利用を検討している人には、きっと役に立ってくれると思う。


乗車は大阪、なんばOCAT内にある湊町バスターミナルから。


出発10分前、定刻に着いたバス。後に聞いたところ、この日は満席(満室)だった。

快眠へ誘う贅沢設備&サービス、まずはそのすべてをご紹介。

体験した感想も併せて設備とサービスについて紹介する。
本サービスは一時期いろんなメディアに露出していたため、ご存知の方も多いかもしれないが、おさらいも兼ねて読んでほしい。

バス業界初!たった11席の完全個室


まずはじめに、靴を脱ぐ(!)。


車内内観、左の手はコートを脱ぐ乗客の方。

ドリームスリーパー、最大の強みがこの完全個室だ。
四列シートなら40席前後のところをあえて1/4の11席まで減らし、一人当たりの占有率を4倍にまで高めている。


内壁は革張り風で、指で押すとわずかに凹む。
揺れて頭をぶつけても痛くなさそうだ。


ドアはほどよく厚みがあり、シッカリと外側と内側を隔ててくれる。

これにより静音性が保たれ、結果として周りの生活音はほぼ聴こえなかった。
正直なところ、高額という点からも比較的マナーの良い客層が多いという理由もあるかと思う。


見上げると緊急ボタンがあった、急な体調不良などの緊急時用とのこと。

飛行機のビジネスクラス並、多種多様なアメニティ。



ドアの向こうは、葉巻でも吹かせたくなるような(吹かせないが)イスに丁寧に備品が置かれていた。


引いて撮ると、このような内観になる(画像は関東バス提供)。


真正面のテーブルにすべてを乗せて品定め。
このテーブルもまたすごく良いサイズなのだが、それはまた後述。
ひとつひとつ紹介していきたいところだが、終わりが見えなくなってしまうのでまとめよう。


歯磨きセット、スリープマスク、耳栓、ヘッドフォンカバー。


おしぼり、スリッパ、ヘッドフォン、iPhoneとAndroid用のケーブル


最後に、水と、ブランケット。
スリープマスクの裏地の起毛と、おしぼりの厚手っぷりには目を見張るものがあった。
おしぼりは到着後も湿っているほど抜群の保水力、長時間の乗車には重宝するだろう。


とくに意味はないが、すべて付けるとこうなる。

これらは、ブランケットと電子機器類を除いてすべて持ち帰ることができる。
一口に飛行機のビジネスクラスと言ってもいろいろあるだろうが、同程度のアメニティはありそうだ。

受けた印象はビジネスホテル、車内設備はバスにはあまりに贅沢すぎるレベル


このドリームスリーパーについて、関東バスは「移動するホテル」と謳っている。
新幹線の料金との差分が宿泊代と考えれば確かにお得感はあるが、実際はどうなのだろう。
こちらも(本当はひとつひとつ説明したいのは山々なのだが)長くなってしまうので、まとめてご紹介。


合計6つの照明、仕切り付きで物が落ちない構造の棚、奥行き十分のテーブル、コート掛け。

照明は前後二箇所の明るさを調整でき、誇張抜きで日中並の明るさを維持できる。


ヘッドフォン用の音源と調整つまみ、電源とUSBソケット、空気清浄機、冷房(冬季なので稼働せず)。

音源は、小川のせせらぎなどのヒーリングミュージックが四種類選べた。
顔に近い位置に空気清浄機がある点もいい、夜行バス独特のこもった空気を一切漂わせない。


地味だが、窓際の溝が、カード類やペンを置くのに有り難い。
右の黒いカードは預け荷物の引き換えカード。

バスには広すぎる個室とはいえ、なんだかんだ言っても一人用の個室。
にも関わらず、よくもまぁこれだけのものを、本当に頑張りましたなぁ…と意味もなく関西人風に褒めたくもなる。

そのほか、圧迫感を思わせない工夫がすごかった。


前面は鏡面仕上げ、足を伸ばしても届かないほどの空間、カーテン開閉は思うがまま。

そして設備最大の売りが、ゼログラビティシートと銘打った座席調整システムだろう。


左の肘掛けのすぐそばに、合計8つのスイッチがある。

座席は、リクライニング(背面)、フットレスト(足置き)、チルト(角度)、合計三箇所を調整できる仕様。そしてすべてを同時に切り替える全自動のスイッチが付いている。個室内なので撮れる広さに限界はあるが、これは動画で見てもらった方が分かりやすい。


一人ということもあって無表情だが、内心はドヤ顔だ。

車内の中央部分には、少し下に降りた場所にトイレが完備されている。
それ自体は今や珍しくもない設備だが、ドリームスリーパーはバスのそれではない。


ウォシュレット付き…!


トイレを出たところには鏡まで!


バスの後方には、カーテンで仕切られたパウダールーム(洗面台)まであった!


ここだけ見て「バスだね!」と答える人はきっとエスパーだろう。
ちなみに、ここにも左脇に、もしもの時の緊急ボタンがある気配り。


筆者の身長は172cmだが、席で立っても頭上に余裕がある。


折角なのでと寝間着に着替えると、よりリラックスできた。

ただし、室内には安全を確保するためのカメラがあり、停車中に立っていると発車しない前提となっている。座っている限り映らないのでプライバシーは守られているが、立って着替えると丸見えなのでオススメはしない。

語っても語っても尽きないドリームスリーパー。
次は、この豪華夜行バスをさらに楽しむ方法を紹介したい。

改めて言うが、私は別に褒めるためにこの記事を書いている訳ではない。
正直ちょっぴり悔しい気持ちすら湧きながら、また同時に楽しみながら、引き続きご紹介。

ホテル使いも良いが、書斎使いも良い!


快眠ばかりが取り上げられるドリームスリーパー、名前からしてそれも当然かもしれない。
しかし、想定する乗客にはビジネスマンも含まれるとのことなので、仕事をせずには寝られないという方もいるのではないか。

そこで、ホテル使いも良いが、書斎使いも良かったと伝えたい。
実際、私も締切間近の原稿があったため車中で仕事をしてみた。


テーブルの両端は仕切りがあるため横に傾いてしまうが、


これはPCケースを挟むことで解決。


左側には電源とUSBのソケットが付いているし、


車内にはWi-Fiも飛んでいる。

Wi-Fiは、トンネルや一部の地方などつながりづらい場所はあったが、その点は新幹線と同じだろう。
言語は、日本語のほかに、英語、中国語、ハングル、タイ語、ポルトガル語、などが選択できた。
将来的には、訪日外国人観光客も見込んでいるものと思われる。

気にする人は少ないかもしれないが、セキュリティ上の注意書きにも誠意を感じた。

そして肝心の集中度は…抜群!であった。

個室ならではの静けさの中で美しい夜景が流れている環境は、集中する作業にはもってこい。
シートベルトで物理的にも座席から離れられない環境も、かえって良いのかもしれない。

出張前に資料作りなど追い込み作業があるという人には最適だろう。


ふと窓に目を向ければそれはもう美しい夜景、寝台列車に近しい旅情も味わえよう。


ひと仕事を終えて、快眠へ…。

関東バスの人に聞く、ドリームスリーパーの知られざる魅力。


さて、乗車し、結果として褒めちぎったところで、二万円という価格はどうなのか。
正直なところ、私は………乗らない、と、思う。

ここまで書いておいて「なんだそれは!」と思われるかもしれないが、私には私なりの理由がある。
大阪と東京に家族がいるため、どちらにも泊まる当てがあるのだ。
なので、もとより移動するホテルを謳うドリームスリーパーで想定される客ではないのだと明言したい。

が、「客ではない」ということこそがこの豪華夜行バスの需要を紐解く鍵になる。
それまでの、安さが売りの夜行バスと違って、ドリームスリーパーは客を選ぶバスだと言えるからだ。
それは仕掛けた本人たちに話を聞くことでより浮き彫りとなり、必要とする人がいると十分に確信させるものだった。



ドリームスリーパーはすでに広島横浜間で成功していたモデル


――こちらのバスを運行させる経緯について教えてください
久永さん「両備バスさんの提案で、それに乗ったという格好です」

実はドリームスリーパー、両備バスグループの中国バスで、2012年8月から広島〜横浜・町田間で運行がはじまったものだった。
それを大阪東京間で運行させるに当たり、関東バスと提携したということになる。

――それまで関東バスさんが運行する高額バスといえば、どんなものでしたか?
久永さん「奈良から新宿、三列独立シートの28人乗りで8000円というものです」

商品としては至ってスタンダードなもの、高級バスとしては今回が初の試みだとのこと。

――想定する客層はいかがでしょうか、早朝から活動したいビジネスマンはいるかと思いますが…
久永さん「はい、ビジネスマン。そのほかとしては、寝姿を見られたくない女性の方などですね」
――あぁ、個室だから…それは確かに
久永さん「パウダールームもそのためということもあります」

どうしても狭い空間になりがちなバス。独立した三列シートは別として、四列シートでも男女が隣り合わせにならないよう、システムと人の手で事前に回避と本人の了解を取っているとのこと。そのほか、これまで体力的な問題もあって夜行バスが選択肢に入らなかったシニア層においても、空港はもちろん、新幹線の駅まで行かなくても済むといった利点を取った上での利用が見られるらしい。

――こうした快適性を望む声は以前からあったのでしょうか?
久永さん「そうですね。すでに、ほかの会社さんでもシートの仕切りにカーテンを付けたり、快適性を追求する動きはありました。それが進化していく末に生まれたものが、今回の個室型バスだと言っていいでしょう」

今から四年ほど前に夜行バスに乗った際、座席からバタバタと蛇腹式の顔を覆い隠せるシールドが出てきて、ここまでするのかと驚いたことがある。いつの間にやらおもしろい方向に進化しているなと思っていたが、その究極形態が今回のドリームスリーパーなのだろう。個室は静音性のみならず、弁当の匂いなども気にせずに食べられるという。あ、言われてみると、確かに…。

――現在の利用状況はいかがですか?
久永さん「週末はほぼ満席、平日は7,8割といったところです」

ちょうどいいのかも、と思った。運行側からすると満席に越したことはないが、客の立場では、急な出張による駆け込み予約のビジネスマンなども考えられそうで、そのために常に空席に余裕がある状況は客にとっては嬉しい。いつでも選択肢になるからだ。

――運転手の方はこれまでとは畑の違うことをやられていると思いますが、意見はなかったですか?
久永さん「ありました。やはり初めてのことですから、たとえば最初にお客様に靴を抜いでもらう位置は、一段目がいいのか二段目がいいのか、雨の日はどうするのか。どうやって喜んでもらえるのかと現場と本部で意見を重ねてマニュアルをつくっていきました」

そう、この目には映りづらいホスピタリティの効果は抜群だった。

乗車するスタッフの方々の、バスの乗車時に靴を袋に入れてもらう、サービスエリアでの入口での乗降確認、何か問題はないか聞いて回る、など、およそ夜行バスでは体験したことのないサービスに高いホスピタリティを感じた。もちろん、無礼を承知で言えば、それが本業であるホテルなどの対応に比べると幾分おぼつかないところはあったが、この「自分はVIPである」と感じさせるサービスは、従来のバスのイメージを良い意味で崩された。


休憩中は出入口で待機、目立つ車体なので事前にナンバーを確認せずとも見失わない。

ついついその贅沢な設備に目が行きがちだが、人を癒やすものもまた人なのだと思い知らされたのだ。

ドリームスリーパーは、夜行バスのイメージを変えるだろう。
これだけ各メディアに取り上げられている点からも、その第一段階は成功しているように見える。

これまで「安い」ばかりが利点だった夜行バスに、新幹線やLCC(飛行機)をしのぐ快適性という付加価値が生まれたことで、これまで「安かろう悪かろう」として検討もしなかった人々の中に夜行バスという選択肢が生まれる。乗車時間は、確かに新幹線の3倍以上掛かるかもしれない。しかし、何に乗ろうとも、人はその時間を必ずどこかで何かに費やすのだ。ならば、「その8時間をどう過ごしたいか」という話だろう。

ドリームスリーパー以外でも、「思っているより快適そうだ」と独立三列シートを選んだり、「思っているより安かった」と四列シートを選ぶ人もいるのかもしれない。つまり、ドリームスリーパーの予約が埋まるか埋まらないかという問題だけではなく、イメージを覆すことによって夜行バス全体の市場を広げる呼び水になる可能性がある。「『ドリームスリーパーの関東バスで働いているんだ』という社員のモチベーションにつながってくれれば、サービスとは別にプラスの効果があるのかなと」とも、久永さんは話してくれた。

最後に一点。豪華さばかりが先行していて、ほとんどの誰もが見落としがちの魅力を発見したので明記しておく。ドリームスリーパーの運転手は、関東バスでも選り抜きの精鋭という事実だ。もちろん、企業としては社員全員がそうだと言うことが筋だろうが、それでも運転手によって熟練度が違って当たり前。もともとは路線バスの運行からはじまった関東バスでは、路線バスで経験を積んだ社員の中から、希望者に対して研修と試験を受けさせ、そこではじめて夜行バスの運転手になれるという。さらに最高級のドリームスリーパー(現状、大阪発と池袋発を合わせて一晩22人の乗客しかいないのだ)の運転を任される運転手となれば、社内でもトップレベルの実力だろう。

ここまで謎を紐解いて、リリース当初にインターネットで見た否定的な意見はほぼ参考にならないことに気付いた。なぜなら、ドリームスリーパーに乗る人は確かに存在するからだ。「翌朝の早朝に急遽出張が入ったので、すぐに移動して宿探しもしなければならないビジネスマン」「体力的な理由もあり駅の乗り換えや移動は最小限に留めたいシニア層」「完全な個室で他人の生活音をシャットアウト、メイクに時間もかけたい女性客」…。これらは合わせても少数派で、完全個室の11席は彼らのためにあると言っていいだろう。

インターネットは得てして多数派の声が大きくなりがちだが、今回に関してはそもそも想定している需要が多数派ではない。本当に届けたい人は、少数派で、インターネット上では声も小さくなって当然なのだ。本当にドリームスリーパーを選択する人は、人知れず予約して、人知れず乗り込んで、人知れず快適な旅を楽しむのだろう。


(ネルソン水嶋)