日時計や水時計、燃焼時計に砂時計……昔の人々はさまざまな知恵と工夫で時間を計ってきました。機械式時計が登場したのは13世紀後半の中世ヨーロッパ。1656年には、ガリレオ・ガリレイの「振り子の等時性」の法則を応用した振り子時計が発明されました。現代では当たり前のように正確に時を刻む「時計」。最近ではGPS衛星を使った時計やギミックのおもしろい時計にも注目が集まっています。今回はそんな「時計」の魅力について、TOKYO FMの番組の中で詳しい方々に教えてもらいました。
(TOKYO FM「ピートのふしぎなガレージ」2月4日放送より)


鳩時計、実は時計から出てくるのはハトじゃなかった!?



◆「最新の時計からレトロな時計まで」
〜CCCメディアハウス第一編集局別冊企画編集部 渡辺芳浩さん


SEIKOの『シリーズC3』はデジタル表示の時計ですが、文字の色が変化するのが特徴です。昔はデジタル時計の表示といえば白地に黒い文字だったり、黒地に白い文字くらいしかありませんでしたが、この時計は70色から選べるので、その日の気分に合わせたり、日中と夜で色を変えたりできます。デジタル表示で色を使うのは青色LEDが開発されたことで可能になったのだそうで、実用になったのはここ数年です。目覚まし機能はもちろん、温度や湿度の表示も付いてます。価格は1万円くらいでしょうか。

アナログ表示の時計なら、GPSの衛星を使った時計も出ています。地上の基地局から発信される電波を受信して正確な時刻を表示する電波時計は昔からありましたが、その地上波のかわりにGPSの電波を利用するんです。こちらもSEIKOの『スペースリンク』というシリーズで発売されています。

GPSを利用するメリットは、従来の地上波よりも受ける範囲が拡がること。現在、30基ほどのGPS衛星が軌道上を動いているので、建物の中でもその内のどれかの電波を拾える確率が高くなります。地上に固定された基地局からの電波だとこうはいかず、電波が届きにくい場所はずっと届きにくいままですから。位置情報サービスのGPSで時計と聞くと意外に感じるかもしれませんが、GPS衛星には10万年に1秒も狂わない原子時計が搭載されていて、位置の測定に使われています。それを利用した時計が実用化されたのは2年ほど前という最新の時計です。価格は3万円ほどでしょうか。

一方、機能よりもレトロな雰囲気で人気なのが「バスクロック」です。もともとこの時計は船舶用に開発された防水防塵に優れた時計で、実際に南極観測船などでも利用されました。それがトロリーバスなどでも使われたため、一般的にはバスクロックという呼び名で定着したんです。デザイン的にも優れているので今でも愛用している人が多く、ロングセラーになっています。さすがに現在発売されているバスクロックは、中の機構は新しくなっていますが、そのデザインが若い人には新鮮に映るみたいです。価格は2万円ほどと少々高めですが、せっかく時計を買うなら自分の好みにこだわってはいかがでしょうか。

◆「日本で近代的な時計が求められた理由は」
〜産業技術史資料情報センター センター長 鈴木一義さん


日本が明治維新を経て近代国家になっていく上で一番問題になったのが貿易の問題でした。たとえば真っ先にやらなくてはいけなかったのが貨幣制度の整備です。明治政府は1円金貨を1ドル金貨と同じ品位で作り、1ドルと1円を等価交換できるようにしました。昔ながらの小判のままでは金の含有率がまちまちなので、交換比率で混乱が起こるからです。

時計や暦も同じように貿易の都合で西洋の基準に合わせる必要がありました。そこで明治政府は明治5年の12月をほぼ丸ごとなくして明治6年の1月1日にしてしまう時報の改革を行ったんです。これが江戸時代までの不定時法(昼や夜を6分割した時間を使うため季節によって1時間の長さが変わる)から現代的な定時法に切り替わった瞬間です。

明治5年といえば、ちょうど新橋-横浜間で日本最初の鉄道が開業した年です。不定時法のままだといつ鉄道が発車していつ到着するのか、ダイヤも季節によって変わってしまいます。そんなふうに近代国家として西洋の技術を取り入れるには、西洋の文化や社会体制も受け入れる必要がありました。そうやって日本は近代国家になっていったんです。

実はその少し前、幕末にも大量の時計が海外から日本へ輸入されました。これは大砲を発射するにあたって発射から着弾までの時間を計算し、着弾の直前で砲弾が爆発するように導火線の長さを調整する必要があったからです。要は打ち上げ花火と同じ仕組みですね。その秒数を計るため、幕末に大量のストップウォッチが輸入されています。

西洋では海を越えて航海するため、星の位置と時間を計ることで自分の位置を正確に計る技術が編み出されました。だから秒単位で正確に時間を計れる時計が開発されたんです。この時計が「マリンクロノメーター」で、これを日本では砲手や駅員たちも利用していました。

ただ、こういった時計はさすがに高価だったので、庶民が手軽に買えるものではありませんでした。それでも時計は必要ですから、庶民は安価な振り子時計や棒テンプ式の時計を使ったんです。振り子時計は江戸時代からあったので、不定時法向けだった文字盤を定時法に変えたモノも使われていまますね。

このように幕末から明治にかけて日本には精度の高い時計がたくさん入ってきて、その原理は日本人もわかっていました。しかしそれを作るための工作機械がなかったので、日本で時計を作れるようになったのは明治の20年代になってからです。

◆「鳩時計と言いますが実は鳩ではなく……」
〜鳩時計専門店「森の時計」、(株)森の時計代表 芹澤庸介さん


最初の鳩時計は1800年代に南ドイツで作られたと言われています。日本に入ってきたのはおそらくずっと後で、1900年代になってから。舶来品みたいな扱いでデパートに並んだのだろうと推測されます。

そして戦後間もない頃、東京にあった手塚時計というところがメイド・イン・ジャパンの鳩時計を作りました。これはもともと海外に輸出するための製品だったと思われますが、なぜかこの時計が国内で大ヒットしたんです。当時、まだテレビは白黒でしたが、裕福な家庭の食卓を映すようなシーンでは必ず鳩時計が飾られていたほどでした。

鳩時計と言いますが、実は時計から出てくるのは鳩ではありません。これはカッコウです。だから世界的には鳩時計ではなくカッコウ時計と呼ばれていて、鳩時計と呼んでいるのはおそらく日本だけでしょう。戦後、日本のメーカーが新商品として売り出すときに、カッコウの和名「閑古鳥」では寂れた状態を表す慣用句「閑古鳥が鳴いている」を思い起こさせてしまうので、平和の象徴である「鳩」にしたのではないかと思われます。

手塚時計が日本で初めての鳩時計を作った頃は高低2つの笛を使って「カッコウ」という鳴き声を再現していました。しかしこれは聞きようによっては「ポッポー」とも表現できます。そんな曖昧な音だったからこそ鳩時計という呼び名が生まれたとも言えるでしょう。

今は昔ながらの手巻き式もありますし、クォーツのムーブメントが入っている現代版の鳩時計もあります。鳴き声もメーカーによってさまざまで、いかにも鳩時計らしいレトロな音もありますし、リアルな鳥の鳴き声を再生する鳩時計もあります。リアルな鳴き声は大人が普段の生活の中で森の雰囲気を楽しむために開発されていて、「カッコウ」という鳴き声の後に小さく山びこで「カッコウ」と聞こえてくるあたりもリアルです。さらに夜、部屋の電気を消すと自動的に鳴かなくなります。こんなふうに鳩時計もちゃんと進化しています。

鳩時計は時間を見る道具というよりは絵を飾るのに近い感覚だと私は思います。からくり時計が自宅のリビングや子ども部屋、玄関にあったら、その空間が楽しくなるんです。電波時計のような便利な道具とは真逆の時計ですね。

TOKYO FMの「ピートのふしぎなガレージ」は、《サーフィン》《俳句》《ラジコン》《釣り》《バーベキュー》などなど、さまざまな趣味と娯楽の奥深い世界をご紹介している番組。案内役は、街のはずれの洋館に住む宇宙人(!)のエヌ博士。彼のガレージをたまたま訪れた今どきの若者・新一クンと、その飼い猫のピートを時空を超える「便利カー」に乗せて、専門家による最新情報や、歴史に残るシーンを紹介します。

あなたの知的好奇心をくすぐる「ピートのふしぎなガレージ」。2月11日(土)の放送のテーマは《スキー場》。お聴き逃しなく!

<番組概要>
番組名:「ピートのふしぎなガレージ」
放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国37局ネット
放送日時:TOKYO FMは毎週土曜17:00〜17:50(JFN各局の放送時間は番組Webサイトでご確認ください)
番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/garage